第11話 入歌とのバトル3

「来ないはずだった俺のターンだな」


 俺の小粋な煽りに、入歌がイライラにイラついているのが見てとれる。そんな顔しなくてもいいじゃん。


 現在俺のライフは90。入歌のライフは100、手札は3枚だ。


「可愛い顔が台無しだぞ」


「なっ!?」


「俺のターン。すべての神を活性化させ、カードを2枚引く。メインフェイズだ」


 入歌は俺のフォローに顔を赤くしているが、俺は引いた手札の確認に忙しいのだ。……よし! 妨害がなければこれで勝っているはず……。


 俺はチラリと隣に立つ半透明の『ヘカテー』を見やる。ポカンとした顔で俺を見返している。……なんか最初に見た時の神々しさがどんどんなくなっていってるな。


 正直なところ、今の手札だと『ヘカテー』を呼び出さなくても勝てるだろう。しかし、これからは暴力の時代だ。魔法を撃つより殴った方が話が早いのだ。すまん、『ヘカテー』。


「俺は生み出したソウルとライフを消費し、手札から『ターボばばあ』を! 『サキュバス』の生み出したソウルから『ニンフ』を召喚!」


 父から引き継いだカードが『ターボばばあ』なのなんとかならないか? いや、バインダーには隠神刑部たちも居たけどさ……。


 とにかく『ターボばばあ』と『ニンフ』はすぐに合体素材になれるのが売りの神たちだ。


「『ニンフ』の権能により冥のソウルを30生み出す。そして『ターボばばあ』と『安珍』、俺が残りソウル生み出す。最後の仕事だ! 『ヘカテー』!」


 『ターボばばあ』『ニンフ』『サキュバス』を素材に指定し、三体合体を行う。召喚された『ヘカテー』は俺に何か言いたげな雰囲気を出しまくっているが、俺は努めてそれを無視した。


「……まだ負けた訳ではありません!」

「何もないなら続けさせてもらうぞ」


 『ターボばばあ』の権能『過給鬼』によって活性化状態で召喚された『ヘカテー』はすぐに行動ができる。そして『ヘカテー』の権能『トリモリポス』により、『ヘカテー』は不活性化せずに3度まで魔法の発動が出来る。


「まずは継承された『ニンフ』の権能から生み出されたソウルで魔法『バーニングフィスト』!」


 これは手札1枚とソウル10をコストにする瞬間を持つ火属性30ダメージの魔法だ。『ライトニングセイバー』の属性違いだね。他にも地属性と水属性があり、定番お手軽魔法サイクルになっているぞ!


「ぐっ! まだッ!」


 炎に焼かれても入歌の闘志は消えない。まだ何かを狙っているバインダーの目をしている。


「『ヘカテー』の権能『魔術師の女王』によって1枚カードを引く。次は残っていた20ソウルとライフを消費し、魔法『冥界のきよめ』。対象に50ダメージ。対象は敵バインダー」


「ふぅ……危ないところでした。やはり勝利の女神はわたくしに微笑むようですね!  発動! 魔法『国譲り』!」


 バチバチとタケミカヅチが放電し、最後の力をふり絞るように天に高く稲妻の柱が打ち上がった。


「追加コストとして手札をすべて捨て、発動者の主神を黄泉へ送らねばなりませんが、その威力は絶大! すべての敵に60ダメージ! あなたの主神には魔法が効かないようですが、あなたには効くでしょう? わたくしの勝ちです!」


 天に伸びた雷が次第に新品の10円玉のように輝く青銅の剣へと姿を変える。そしてその剣はどんどんと太く大きくなり、この夜空に剣が突き刺さったかのようだった。


 そしてその巨大な10円玉はゆっくりとこちらに倒れてきた。ヘカテーがあわあわと慌てている。あなたは魔法無効ですよ。


「ライフから10ソウル生み出し、【瞬間】を持つ魔法『月光』を発動。対象の神を活性化させる」

「いまさら活性化ですか?」


 巨大な剣の前に仁王立ちしている入歌のドヤ顔は止まらない。そこに居たら当たらないか? 対象じゃないから当たらないのか?


「対象は『安珍』。そして活性化した『安珍』の権能『鐘の中』を発動」


 月光に照らされた『安珍』が立ち上がると、俺に向かってどこからともなく取り出した大きな鐘を投げ付けた。


 俺の視界が真っ暗になる。


「もう聞こえていないかもしれないが、安珍の権能『鐘の中』は対象が受ける次のダメージを無効化する。火属性以外に限るが」


 ゴオオオオオオオオオオオン!


 剣と鐘がぶつかって轟音が辺りに響く。鐘の中に居た俺の耳はもうまったく聞こえなくなってしまった。対戦前に目はかれかけるし、今日は厄日だな!


 音が鳴り止むと、俺を守っていた鐘が消滅する。俺の目に飛び込んできたのはバラバラになった『安珍』と瀕死の『ぬりかべ』、そしてわたわたと慌てている無傷の『ヘカテー』だった。あ、『安珍』が黄泉へ送られた……。


「もういいか?」


 うつむいた入歌は何も答えない。答えていたとしても俺の耳には聞こえなかっただろうが……。


「戦闘フェイズ。『ヘカテー』、攻撃だ!」


 『ヘカテー』が「え?」という顔でこちらを二度見した。これから勝利の女神様が13歳の少女をぶん殴るところが見られるぞ!


 と期待したのも束の間、敗北を認めてしまったためか、入歌はその場でパタリと倒れ伏した。


 『ヘカテー』にも暴力の味……流石に言い方が悪いか? いや、戦闘の感覚を味わって欲しかったのだが……。


 とにかく俺は勝利した。


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◇国譲り 0

無 【瞬間】

【追加コスト】手札をすべて捨て、発動者の主神を黄泉へ送る

敵バインダーとすべての敵の神に60ダメージ。

「第1弾で収録された全体無属性魔法。

当時から、発動コストが重い割にダメージが低い、誰がこんなの使うんだ? などと散々な言われようだった。

それがまさか後に禁止まで出した『無限国譲りデッキ』が産まれるとは。これこそカードゲームの妙であろう」

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