第10話 入歌とのバトル2

 現在、俺のライフは110。入歌のライフは130。まだ3ターン目なのに、相変わらずすごい勢いでライフが減っていく。


 俺は『安珍』と『サキュバス』を活性化させ、手札が6枚になるようにカードを4枚引く。ソウルバインダーは毎ターン6枚になるまで補充されるから、手札を捨ててもあまりデメリットにならないのがいいんだよな。


 ……ただこのままでは負けてしまう。


「俺はソウルを30生み出し、神器『アスキュー写本』を召喚する。これは消耗品で、好きな枚数の手札を黄泉へ送り、それに1足した枚数のカードを引く神器だ」


 手札を1枚残し4枚黄泉へ送ると、俺は気合を入れてカードを5枚引く。……これでなんとかなりそうか?


「戦闘フェイズへ移行する」

「もうお終いですか? やはりわたくしに敵うバインダーなど居りませんわね」


 ソウルをすべて使い切らずに戦闘フェイズへ移行しようとすると、入歌はまるで嘲笑するかのように勝ち誇った。


 それフラグじゃないか? カードゲームのアニメでは先に勝ち誇ったやつから死んでいくんだ。それに勝ちそうだからってグッドゲームエモートするやつを神が許しても、俺とトミーガンは許さん!


「『安珍』で攻撃! 戦闘力は30だ」


 安珍は権能『熊野権現の加護』により、単独で攻撃すると【浮遊】と【賦活】を持つ神だ。今回は敵に防御出来る神が居ないので【浮遊】は活かされなかったが。


「ぐっ! ……せめてもの抵抗ということですか? では最後のターンです!」


 『ハツチ』と『タケミカヅチ』が活性化し、入歌の手札も6枚まで補充される。ここが正念場だ。


「さっさと終わらせてしまいましょう。戦闘フェイズへ!」


 バッと前に手を突き出すと、タケミカヅチの放電する光に照らされている入歌のポニーテールが揺れた。


「『タケミカヅチ』が攻撃します!」


「そいつは困るな。俺はライフを20消費して、【瞬間】を持つ魔法『ナルケーの眠り』を『タケミカヅチ』に発動!」


 魔法『ナルケーの眠り』は対象の神を不活性化させ、さらに次の開始フェイズで活性化されない効果を持つ魔法だ。これで攻撃前に『タケミカヅチ』を不活性化させることにより、攻撃させずに権能を発動させない作戦である。ちなみにナルケーとは水仙のことだ。


 『サキュバス』が『ナルケーの眠り』を『タケミカヅチ』に向かって発射する。


「そうはいきません! わたくしは『ハツチ』の権能『葉隠はかくる』を発動!」


 『ハツチ』が自らの体から無数の緑の葉っぱを飛ばすと『タケミカヅチ』を覆い隠す。そこに『ナルケーの眠り』の魔力がぶつかるが、その葉っぱの壁とともに消滅してしまった。『ハツチ』も力を使い果たしたかのように消えていく。


 そして渾身のドヤ顔を見せる入歌。くっ……可愛いじゃねぇか……! ゆ、許せねぇ……!


 あまりの入歌の可愛いドヤ顔に、逆に沸々と怒りが湧いてくる。


 大丈夫だ。ここまでは予想通り。『ハツチ』が居る限り、一度は魔法や権能が無効化されているのは見えていたんだ。


「では改めまして、『タケミカヅチ』の攻撃! 権能『然欲為力競シカラバチカラクラベヲセム』が発動! 手札を3枚黄泉へ送り、わたくしは追加の戦闘フェイズを得ます! そしてさらに権能『剣の雷』が発動! 対象は……敵バインダー、『サキュバス』と『安珍』です!」


 一度に2つの権能が発動し、追加の戦闘フェイズと雷属性の30ダメージが俺たちを襲う! 無作為っていうかもう全体攻撃だな?


「これでわたくしの勝ちですわね!」

「そうかな?」


 カードゲームではすべての効果を解決するまで油断してはいけない。


 俺はライフを30消費し、手札から【瞬間】を持つ神を召喚する。


「防げ! 『ぬりかべ』!」


 俺の目の前にうすいオレンジ色の巨大な壁が現れる。その壁には三つの目と牙があり、ぶよぶよとした手足が生えている。


 『ぬりかべ』と言えば巨大な目のあるこんにゃくのような姿がポピュラーだが、原典ではデカい犬と人間の中間のような、なかなか不気味な姿をしている。この『ぬりかべ』はの見た目はそちら側だ。


 そして俺たちに降り注ぐはずだったタケミカヅチの雷が『ぬりかべ』に吸い込まれるように集まり、直撃する。……が、『ぬりかべ』は『無効 雷』を持つ。元気にぶるぶると震えている。


 『ぬりかべ』の権能『避雷の土壁』の効果は雷属性の魔法や権能を全て自分に向けるというものである。


 さらに『ぬりかべ』はもう1つの権能『行くな進むな』によって、不活性化状態でも防御が出来る。


 『ぬりかべ』が『タケミカヅチ』の攻撃を防御する。現在の『タケミカヅチ』の攻撃は雷属性。もちろん【無効 雷】を持つ『ぬりかべ』はノーダメージだ。


 ただ『ぬりかべ』にもデメリットはある。ソウルを生み出すことも攻撃も魔法の発動も出来ないのだ。完全な壁役である。 


「そ、そんな!」


 勝ちを確信していたからこその驚愕。俺は努めて感情を押し殺すが、少し申し訳ない気持ちにもなった。


 と言うのも、それは『ぬりかべ』が収録されたブースターパックが、恐らく入歌のデッキに入っているカードたちより後に発売されるものだからだ。


 『タケミカヅチ』が猛威を奮ったのは、ソウルバインダーが発売間もない第2弾までのカードしか使用できなかった時期だ。


 第3弾が追加され、その時に強かったデッキ……いわゆるティア1などと呼ばれる強力なデッキたちに、が多数収録された。『ぬりかべ』もそのうちの1枚だった。


 このカード、調整段階ではダメージを受けるか無効化するたびにバインダーを回復する効果まで付いていたらしい。流石にやりすぎだと削除されたという逸話がある。


「くっ! 権能『然欲為力競シカラバチカラクラベヲセム』の効果で『タケミカヅチ』が活性化……。ターン終了です」


「来ないはずだった俺のターンだな」


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◇ぬりかべ 中立30

ノーマル 【瞬間】


〇行くな進むな【常時】

この神は不活性化状態でも防御することが出来る。また防御した神に戦闘ダメージを与えない。

この神はソウルを生み出すことが出来ず、魔法の発動と攻撃が出来ない。継承不可。


〇避雷の土壁【常時】

魔法や権能、神器が雷属性のダメージを与える時、その対象をすべてこの神に変更する。


戦闘力70 無効 雷地 弱点 水光


「開発者の1人がお忍びで大会に参加したら、大量のタケミカヅチデッキと当たってボコられまくり、その腹いせで作った。とインタビューで語られた逸話を持つカード。

その後ネットで炎上した」

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