第9話 入歌とのバトル1

 俺と入歌とのバトルが始まった。


 暗闇の中で始まったバトルも、『タケミカヅチ』から放たれる光と、『ヘカテー』のオーラ──何だよオーラって?──の光によって辺りは明るく照らされている。アニメの画面的なご都合主義の力が働いている気がするな!


「デッキの一番上を公開します。わたくしは20!」

「俺は40だ」

「ではあなたのターンからですね」


 公開したカードをデッキの一番下に送りながら、ビシリと俺を指差す入歌。お互い手札を6枚になるまで引く。


 するとパートナーの……藤原入歌の権能が


藤原入歌ふじわらいるか ソウル30

〇藤原の麒麟児【常時】

自軍が与える雷属性ダメージはすべて+10される。


 流石は入歌だ。若干13歳でソウル30に権能まで持っているとは。しかし俺がソウルバインダーをプレイしていた時と能力が違うな? 雷属性のキャラだったの? 刀持ったキャラじゃなかった? 君。


 あと俺の権能はいつになったら目覚めますか? いつまでもバニラのままでは嫌なんだが……。


 カードゲームの世界では能力を持たないカードのことをバニラと呼ぶぞ!


「では、いくぞ! 俺は冥のソウル20と混沌のソウル20を生み出し、『安珍』を召喚! ターン終了だ」


 僧侶の姿のイケメンの骸骨が現れる。髑髏しゃれこうべを見るだけでイケメンとわかる。そしてその骨は見るからに女癖が悪そうだ。俺そういうのわかっちゃう。嫉妬ではない。


 こいつ野寺坊のでらぼうとの繋がりを得たら勝手にバインダーに居たんだよな。鐘繋がり? 俺はカードについては能力至上主義だ。使えるやつは使う! 例えクズでも!


「ッ! ソウルを40も生み出すバインダーですか! 相手に取って不足なし! わたくしのターン!」


 そして入歌はメインフェイズまで進める。


「ではメインフェイズです! わたくしはライフを30消費し、『大鯰オオナマズ』を召喚!」


 入歌の目の前にヒゲを生やした大きなナマズが現れる。ナマズは起用に上体を起こし、こちらを睨みつけると、その巨体を地面に叩きつけた!


「権能『鯰の伝説』が発動! 召喚された時、この神は敵味方問わず、すべての神とバインダーに10の地属性ダメージを与えます!」


 立っていられないほどの地震が俺たちを襲う。こんなところで地震を起こしたら神社に被害が出ないかと思われるかもしれないが、ソウルバインダーの戦いでは周りへの被害は最小限。ご安心ください。


 『安珍』と俺、そして入歌自身に10ダメージが与えられる。ちなみに『大鯰』は地属性無効だ。


「そして『カグツチ』を召喚! カグツチは権能『おこり消ゆ』によって活性化状態で召喚されます! さらに召喚された時、任意のソウルを30生み出す!」


 『カグツチ』とは、日本神話に現れる火の精霊のことだ。日本神話版のサラマンダーみたいな感じだな。


 そしてこの『カグツチ』は強力な能力を持つ代わりに、ターン終了時に黄泉へ送られる。1ターンしか生きられない、まさに炎の神なのだ。大体が即素材にされるので黄泉へ送られる効果は気にしないでいい。


 そして『大鯰』の2つ目の権能『雷神の眷属』。これは不活性化状態でも『無効 雷』を持つ神の素材に指定出来る権能だ。


 ブンブンにデッキが回ってらっしゃる。普通に負けそうじゃない? 大丈夫そ?


「わたくしが生み出したソウルと『カグツチ』が生み出したソウル! 合計70ソウル! 掛けまくもかしこき! おいでませ! 『タケミカヅチ』!」


 玉のように圧縮された大鯰とカグツチが天に昇って行く……。すると次の瞬間、天より雷とともに『タケミカヅチ』が轟音を伴い降り立った。


「やるな!」

「お褒め頂き光栄ですわ!」


 流石、入歌! と俺は心の中で唸る。


 ソウルバインダーにおいてもっとも大事なこと。それは素早く主神を召喚し、相手の場を制圧することである。ノーマル神が居なくなれば合体も出来ないし、主神も呼べない。


「継承された権能『鯰の伝説』により、再びすべての神とバインダーに10ダメージ!」


 再び地震が起き、俺は思わず膝をついた。安珍は転がっている。


「さらに! 『タケミカヅチ』の権能『剣の雷』が発動! これは『タケミカヅチ』が召喚された時と攻撃した時に発動します!」


 入歌は腰に手を置いた堂々としたポーズでビシリを俺を指差す。


「無作為に選ばれる6体までの敵に雷属性の20ダメージ! わたくしの権能により、10ダメージ追加され30ダメージなりますわ!」

 

 ずるいぞ権能! そして残念ながら無作為に選ばれた俺と『安珍』は無事に対象にされてしまった。俺だけなら良かったんだが……。仕方あるまい!


「俺はライフから10ソウル、神器『雨垂あまだれ石』を召喚する!」


 神器『雨垂れ石』は【瞬間】を持つ神器、そして消耗品だ。


 転がっていた『安珍』の前に中央が凹んだ大きな丸い石が現れ、『タケミカヅチ』より放たれていた雷を防ぐ。もちろん俺は被雷しました。髪型がアフロにならなくてよかった。


 神器『雨垂石』によって『安珍』に与えられるはずだった30ダメージを軽減。これであのイケメン骨は生き永らえた。


 石は粉々に砕け散る。そして通常、消耗品は使用されると黄泉へ送られるが、このカードはデッキの中に送られ、そしてデッキがシャッフルされる。


 さらに神器『雨垂れ石』は1ゲーム内で複数回使用すると効果が上がっていく長期戦向けのカードなのだ。出番があるかは運次第だろう。


 この一連の権能の応酬によって俺のライフはすでに140である。まだ何もしてないのに……。


「『カグツチ』の権能『熾り消ゆ』は継承されませんので『タケミカヅチ』は不活性化状態ですわ! そしてライフからソウルを生み出し、『ハツチ』を召喚! ターン終了です!」


 『ハツチ』……これも日本神話に現れる木の精霊である。日本神話版のドリアードだな。


 見た目は浮遊して回転している葉っぱの塊だ。『ハツチ』は防御的な権能を持つ神。これで『タケミカヅチ』を守ろうという作戦なのだろう。


 それにつけても『タケミカヅチ』と入歌(13歳)コンビのシナジーよ!


 『タケミカヅチ』は低コスト(2体合体で総召喚コスト70)で戦闘力60とやや控えめなのだが、雷属性ダメージをばら撒きながら、強力な権能で殴りかかってくる神だ。


 ソウルバインダー初期の強力なデッキタイプとして、ソウルバインダーの第1回全国大会でも使用された実績を持つ。


 特筆すべきは第二の権能『然欲為力競シカラバチカラクラベヲセム』だ。タケミカヅチは最古の相撲を取った神としても有名である。その神話に由来しての権能だ。


 簡単に言うと、攻撃した時に手札を3枚黄泉へ送るともう一度殴れる、といった権能である。そしてソウルバインダーは手札が毎ターン6枚になるまで補充される。つまり計3回殴ってくるのである。壊れてるだろ! あ、ちなみに【先手】も持ってるぞ!


「ではターン終了時にライフから中立のソウル30を生み出し、【瞬間】を持つ『サキュバス』を召喚。権能『クイックサモン』により、召喚された時に手札を1枚黄泉へ送る。俺のターンだ」 


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◇タケミカヅチ 天30 秩序30 中立10

2体合体 【先手】


〇然欲為力競シカラバチカラクラベヲセム【常時】

この神が単独で攻撃した時、バインダーは手札を3枚黄泉へ送ってもよい。

そうした場合、この神の与える戦闘ダメージは雷属性になる。

その後、現在の戦闘フェイズの後に戦闘フェイズを追加し、その戦闘フェイズの開始時にこの神を活性化させる。


〇雷の剣【常時】

この神が召喚されるか攻撃した時に、敵バインダーと敵の神から1~6体の対象を無作為に選ぶ。(同一対象不可)選ばれた対象に20ダメージ。(雷属性)


戦闘力60 無効 雷光 弱点 ー


「ソウルバインダー第1回全国大会で猛威を奮った1枚。

ドローエンジンと組み合わせることで、君が死ぬまで殴るのをやめない!を実行するコンボデッキが流行。

のちに対策カードが刷られまくり、次第に見なくなっていった」

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