第8話 夜の神社にて
俺が住む奈良は古都と呼ばれるだけあって、たくさんの神社仏閣、遺跡がある。その中でも大仏が有名だ。修学旅行で訪れた人も多いであろう、定番観光スポットだ。
その近くの公園に鹿がたくさん居ることも有名だ。そしてその公園の近くにも神社仏閣、遺跡、遺構がたくさんある。
俺はそのうちの1つ。某神社を訪れていた。現在の時刻は23時を回っている。
実は昨日決行する予定だったのだが、最近の神社は夜になると門戸を閉じており入れなくなるのだ。
開いている時間は参拝客がたくさん居て、とてもソウルバインダーをする雰囲気ではなかった。鹿も見てたし、友達に噂されたら恥ずかしいし……。
途方に暮れながら家に帰ると、俺のそんな雰囲気を感じ取ったのか幸森さんが声を掛けてきた。
そういう気が利くところが有能秘書の証なのかもしれない。本当になんでうちで働いてるんだろうな? 助かってますけど。
そして幸森さんに相談してみると、呆れられてしまった。
「なぜ先に言ってくれなかったんですか……。わかりました。先方にアポをとっておきますね」
と二つ返事でアポをとってくれたのである。有能すぎんか?
退魔師はそういうところ顔パスらしい。なんてありがたいんだ。という訳で冒頭に戻り、夜の神社にお邪魔している訳である。
裏口からお邪魔し、神主さんに注意事項を説明され、境内へと通された。
注意事項? 絶対壊すなよ! ってことらしいです。
左手に懐中電灯を持ち、石畳を歩く。今日の俺は絶好調だ。決め手は白スーツである。
先日、念のため作ってみたのだ。もちろんオーダーメイドだ。吊るしの白スーツはないらしい。解せぬ。
そして最寄りの仕立て屋を訪れたところ、まだ一言も発していないのに店主の老紳士に肩を掴まれ、是非に白スーツを仕立てさせてくれと懇願されてしまった。まさに運命である。そんなことあるか? あるんだわ……。
しかもシャツの色まで指定され、全身コーディネイトされてしまった。紫色のシャツ以外認められないらしい。そんなことあるか!?!?
そして出来上がったスーツを今日着ているのである。見事な仕立て、見事な原作再現。あの老紳士、素晴らしい腕前であった。追加で大量に同じスーツを頼んでおいた。冬物もそのうち頼もう。
右手には供物を持ってきている。手土産は忘れてはいけない。もちろん神社にも初穂料を納めています。
数分歩くと本殿が見えてきた。光もほとんどなく、懐中電灯の灯りが頼りだ。ジャリジャリと足音を立てながら黙って進む。『ヘカテー』との繋がりを得てからなんだか夜目が利くようになって来た気もするが。
荘厳な第一殿の前に着くと、二礼二拍手一礼し、供物を賽銭箱の向こう側に置く。神主さんにここに置けって言われたんだ!
ちなみに供物は日本酒「神雷」である。こちらに
ここの御祭神はタケミカヅチノミコトである。
アニメ『ソウルバインダー』シリーズには共通したイベントがある。それが『試練と
『試練と調伏』は簡単に言えば神に認められるか、神を倒して力を示すか、どちらかを行うのだ。そうすることで神との繋がりを得られ、バインダーにそのカードが現れるのである。
俺のしている退魔師の仕事は、この『試練と調伏』の調伏を日々行っているようなものだ。これがヨシカドさんの強さの秘密だったのかもしれない。
ちなみに退魔師は個人事業主である。退魔師協会とかあるのかなってワクワクしてたけど、なかった。なかったんだ。めちゃくちゃガッカリしたわ……。
「……何も起こらないか」
俺はそう呟く。返事はない。まぁお参りすること自体は何も悪いことじゃない。こちらの神の本拠地は茨城のようなので、そちらへ赴かねばならないか。
もう一度、第一殿に向かって礼をしてから帰ろうと歩き出した時、天から俺の目を灼くような光が落ちる。続いて轟音。
視界が真っ白になり、何も見えない。目が! 目が!
「……胸騒ぎがしたので来てみれば、これもお導きでしょうか? ご機嫌よう、白いスーツをお召しの方」
なんか知らん女の声がするが、それどころではない! 目が!
「だ、大丈夫ですの?」
「……1分待ってくれるか?」
……。 …………。 ………………。
ひ、酷い目にあった。まだ少し目に違和感がある……。
気持ちを落ち着けるためにスーツの内ポケットから棒のついた飴を取り出す。もちろん国民的パン系ヒーローの絵が描かれているアレだ。俺の体温でやや溶けかけている。溶けてると開けにくいんだよな……。
「恥ずかしいところを見せたな」
「い、いえ……」
飴を咥えながら目の前の少女に声をかける。その隣にはバチバチと放電している偉丈夫が居た。
タケミカヅチだろうその神は、古めかしい金色に輝く甲冑を身に着け、腰の左右に太刀を佩いている。甲冑はよく見るタイプの金属製のものではなく、分厚い服に金属板を縫い付けたような作りをしている。逆にそれが甲冑を豪奢に見せているように思えた。
その隣に立つ小柄な少女はいわゆる黒セーラーを着ている。なんで? 長い黒髪をポニーテールにしていて、その毛先は腰よりも下にきている。どこかで見たような……?
俺がデジャヴを感じていると、少女は腰に手をやりながら、尊大に自己紹介を始めた。
「申し遅れました。わたくし
……? ……!? あああ~~~! 2期のヒロインの一人じゃねぇか~~~~! なんで!? こんなところで2期ヒロインなんで!?
いや、アニメで見た入歌より若いから気が付かなかった。そうか、この約5年後に高校3年生で学園都市の生徒会長をしているのか。じゃあ今は13歳くらいか? それにしても中学生時代の入歌~~~~~! ポニーテールだったの~~~~~~? 2期じゃ姫カットだったでしょ~~~~~!
「……ヨシカドだ」
辛うじて、そう返すことが出来た。俺の心の中のオタクが暴れ回った結果、ぶっきら棒な返事になってしまったが、まぁヨシカドさんだしいいだろ。うん。
「聞くまでもありませんが、一応礼儀ということで聞いておきますわ。こちらへはどういったご用件でいらっしゃいましたの?」
そんなお嬢様な言葉遣いなことある!? この頃からそうだったのか。いやもう言葉が出ないよ。ありがとうソウルバインダー。ありがとうソウルバインダー。それしか言葉が見つからない。もうただのファンボーイだろ、これ。
感極まってしまい言葉が出ない俺はスッと左手を上げる。空中に紫色の炎に包まれたデッキが現れる。なんだか呆れ顔をしている半透明の『ヘカテー』も俺の隣に現れた。
これ以上話すとボロが出そうなので、さっさとソウルバインダーで戦うしかない。入歌もそれを解っているのだろう。多分。
入歌は一歩前に出て左手を前に突き出す。その上に黄緑がかった炎に包まれたデッキが現れる。あの色は天と秩序の色だ。
「言葉はいらない、ということかしら? いいでしょう!」
「……来い」
「「ソウルバインド!」」
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◇ライトニングセイバー 中立10
雷 【瞬間】
【追加コスト】手札を1枚黄泉へ送る
対象に30ダメージ。
「10コス魔法と呼ばれるサイクルの1枚
10コス魔法サイクルは、すべてが『手札1枚+10ソウルで30ダメージを飛ばす』魔法カード。
火水雷地の4種がある。拡張パック第2弾で収録され、その使い勝手のよさから第1弾の魔法たちを駆逐した。
調整段階では『カードを1枚引く』まで付いていたらしい」
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