第5話 決着、そして

 俺のライフは20。手札は2枚。父のライフは120。手札は5枚。


 俺に2本の槍が迫る。『ヘカテー』は【浮遊】を持たず、防御することが出来ない。例え出来たとしても、【貫通】を持つ『隠神刑部』の攻撃は俺に届く。


 ごめん、父さん。俺……ヨシカドさんは絡め手が得意なんだ。原作でもお助けキャラのデッキじゃないって、散々視聴者に突っ込まれてたんだよね……。


「俺は【瞬間】を持つ魔法『霊気の三叉路』を発動! 権能『魔術の真髄』を使うので、手札を1枚黄泉へ送る」


 俺の眼前に迫っていた『隠神刑部』がピタリと止まった。


 これで俺の手札は0だ。


「な、何!? コストは?」


「コストは0だ。ただ発動の条件に術者が3体必要になる」


「3人? ……ッ! 権能『トリモリポス』か!」


 見事なまでのやられキャラムーブをしてくれる父。ありがとう。それしか言葉が見つからない……。


「そう、権能『トリモリポス』は3回魔法を発動出来る。魔法『霊気の三叉路』の条件を満たせる」


 と言うか、『ヘカテー』が使うための魔法みたいなもんですし……。前世じゃヨシカドさんをテーマにした構築済みデッキにも入ってたしね。『霊気の三叉路』。


「『霊気の三叉路』の効果はバインダーが次に受けるダメージを選んだ3つの対象のどれかに移し変える!」


「3つの対象……。私と『隠神刑部』、それに『ヘカテー』か……」


「……じゃあ、解決するよ」


 攻撃のポーズのまま固まっていた『隠神刑部』が再び動き出すと、何かの穴に吸い込まれたかのように俺の目の前から消えた。


「ぐわああああああっ!!」


 再び『隠神刑部』が俺たちの視界に現れた時には、父に激突していた。二人? して部屋の端に転がって行った。


 俺に与えられるはずだった150ダメージは父が受けることとなった。


 俺の勝ちである。


 ソウルバインダーは勝利すると、倒した相手の主神との繋がりを得られるのだ。『隠神刑部』さんの出番があるかはわからないが……。


 『ヘカテー』×3が、こいつマジかよ……みたいな目で俺を見てくるけど、俺は悪くない。大味なゲームを作った開発会社を恨んでくれ。


「やっとこの死装束脱げる……」





「という訳で家督は響のものだ」


「あっ、はい」


 こんな簡単に貰えるんだ家督って……。びっくり。


 俺は居間で父と母と向かい合って座っていた。父と母はいつも以上に仲睦まじく、今にも腕を組みそうな勢いである。


「ねぇあなた、どこに行こうかしら」


「どこなんて言わずに全部回ろうじゃないか」


「と、父さん? 母さん?」


「じゃああとは幸森こうもりさんに聞いてくれ。引き続きうちの秘書をしてくれるそうだから、きちんとお礼を言っとくんだぞ」


 二人は簡潔にそれだけ言うと、豪華客船や海外旅行のパンフレットを持って部屋へと戻って行った。


 確かに原作でも退魔師の家は当主に勝ったら家督を継げたけどさ……。なんか、もうちょっと、こう、あるじゃん?


 そしてその後、俺は秘書の幸森さんの話を聞いた。


 幸森さんは年齢不詳、スラリとした長身に、真っ黒なロングストレートヘアをお持ちの美人さんである。うちの離れに住みながら、美門家の秘書をしている。原作では出て来なかったような……。モブってやつなのか?


 色々と話を聞いた結果、退魔師としての依頼は大体月1件か2件しかないらしい。そしてその依頼はどれも低級の怪異や悪霊の退治、お祓いのようなものばかりだ。


 うち、ド田舎だからなぁ……。


 ちなみに現在の時刻は2008年の3月2日。卒業式を終えた翌日である。作中で日程に言及はなかったので確かことはわからないが、『ソウルバインダー・ゼロ ~残響する使命~』の最終決戦は冬だったはず。


 と言うことは、あと9ヶ月くらいでラスボスを倒さないといけない……ってコト!?


 よく勝ったな!? 原作のヨシカドさん……。


 ただでさえ短編アニメは尺が足りてなくて、最後の展開が駆け足になるんだからさ! もっと日程に余裕を!


 俺がそんなことを考えながらイラっとしていると、俺の目の前にコトリと湯呑が置かれる。


「ありがとうございます」


 そう言いながら、俺は湯呑に口を付ける。


「いえ。それと重大な懸念事項がございます」


「懸念事項ですか?」


「運転手が居りません」


 詳しく聞くと幸森さんは乗り物の運転はテンでダメらしい。まさか退魔師としての最初の仕事が自動車の運転免許の取得になるとは……。


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◇霊気の三叉路 0

闇 【瞬間】

発動条件:冥のアライメントを持つ適切な発動者3体(※解決まですべての発動者が適切でなければ、この魔法は阻止される)

敵バインダーと神から対象を3つ指定する。

バインダーが次に受けるダメージを無効化し、無効化したダメージと同じ値のダメージを、選んだ3つの対象の中から無作為に選んだ1つの対象に与える。


「発動条件がかなり厳しく、反射対象もランダムなため、かなり使いどころを選ぶ魔法カード。初期のカードによくあるのバランス調整の努力が垣間見れる。

バインダーが受けるダメージならなんでもいいため、自軍の神がバインダーに与える反動ダメージを『霊気の三叉路』で撃ち返すロマンデッキも存在した。

構築済みデッキ「ヨシカド ヒビキ&ヘカテー」収録カード」

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