第4話 初バトル3

 投げつけられた神器を見事に受け取り、そのまま輝く十文字槍を手に俺に殴りかかってくる『隠神刑部』。


 その戦闘力は『総螺鈿十文字槍尻尾付そうらでんじゅうもんじやりしっぽつき』で強化され、120! さらに例え防御したとしても、余剰のダメージがバインダーに与えられる【貫通】まで持っている。


 自軍の神は『バフォメット』のみ、こいつは戦闘力40だが、ここで犠牲には出来ない。そもそも不活性化状態なので防御は出来ないのだが。


 覚悟を決めた俺は120のダメージをライフで受ける!


 迫る巨体。振り下ろされる十文字槍。思ったより怖いな、これ!


「ぐっ! ふふふふ……!」


 命中と同時に暴風が巻き起こる。なんかアトラクションみたいだな!


「ひ、響?」


 楽しすぎて思わず笑みがこぼれてしまった。それを見た父がドン引きしているが、今はそんなことどうだっていい。重要じゃない。


 父のターンが終了する。『マメダヌキ』の権能『マメ狸変化』が解除される。元の姿に戻った『マメダヌキ』が床の上で目を回してひっくり返っている。かわいい……。


「俺のターン!」


 言ってみたかったんだよな、これ。


 『バフォメット』と『サキュバス』が活性化し、手札が6枚になるまで補充!


「『バフォメット』から冥のソウルを40生み出し、そのうち20を使い、『ニンフ』を召喚!」


 ズブ濡れの可愛らしい女の子の姿をした妖精が現れる。原典では全裸の女性の姿として描かれることが多い『ニンフ』だが、ソウルバインダーは全年齢向け。もちろん着衣である。


 『ニンフ』は場に出た時、権能『泉での出会い』により任意のソウルを30生み出す。

そして権能『神への憧れ』で不活性状態でも合体素材に指定することが出来る!


 素材に指定した『サキュバス』『ニンフ』『バフォメット』の足元に五芒星の召喚陣が現れる。


 俺が生み出したソウルと、『ニンフ』の権能によるソウル、そして素材たちが生み出したソウルを合わせて合計100ソウル!


 それらを全て使い、俺の主神を召喚する!


「出番だ! 『ヘカテー』!」


 朝陽の差し込んでいた室内が暗くなり、影からドロリとこぼれるように『ヘカテー』が現れる。闇夜のような黒髪が室内なのになぜか風にたなびいている。なんで?


「な、何!? 100ソウルの3体合体だと!?」


 父が目を見開いて驚いている。口も開きっぱなしだ。


 ソウルバインダーでは主神や合体が必要な神を召喚する際、素材にする神の数に指定がある。


 ヘカテーは3体合体。隠神刑部は2体合体。父から見ると俺の方が生み出すソウルも主神も格上に見えるようだ。全然そんなことないんだけどな……。むしろ低コスト2体合体で強力なカードの方が使われたりするし……。


「し、しかし! その『ヘカテー』の戦闘力では私の『隠神刑部』は倒せまい!」


 確かに、父の言う通りだ。『ヘカテー』は戦闘力が50しかない。彼女は非力な女神様なのだ。


「……『ヘカテー』が召喚されたことにより、『ニンフ』から継承した権能『泉での出会い』が発動。冥のソウルを30生み出す」


 俺は深呼吸をして、震える手をどうにか抑えながら手札に目をやる。


 まず『バフォメット』から継承した権能『魔術の真髄』により、手札を1枚黄泉へ送ることで『ヘカテー』は不活性状態でも魔法が使える。


「魔法『松明』を発動! 対象は『マメダヌキ』!」


 父の近くで転がっていた『マメダヌキ』が燃え上がる。キュン! と可愛らしい断末魔をあげながら、『マメダヌキ』は黄泉へ送られた。


 魔法『松明』は0コストで10ダメージを与える魔法だ。ただしトドメを刺した場合は1枚ドロー出来る。


「……『マメダヌキ』を倒したところで私には勝てないぞ! 響!」


「まだ俺のターンだ、父さん。『ヘカテー』は権能『魔術師の女王』により、『ヘカテー』が魔法を発動させるたびに1枚ドロー出来る! そして魔法『松明』は敵にトドメを刺すと1枚ドロー!」


 カードを2枚引き、手札は5枚。


「そして『ヘカテー』の権能『トリモルポス』! 『ヘカテー』は1ターンに3回まで魔法を撃つことが出来る!」


「何ィ!?」


 『ヘカテー』から瓜二つ…いや、瓜三つの分身が現れる。『ヘカテー』は三面三身を持つ神だ。この3人はすべて『ヘカテー』で、各々が魔法を撃つことが出来る。


 父がノリノリで驚いてくれて俺も嬉しいよ。


「再び権能『魔術の真髄』! 手札を1枚黄泉へ送り、ライフからのソウルも合わせて計50ソウル使い、魔法『トリカブトの毒』を発動! 対象は『隠神刑部』!」


 魔法『トリカブトの毒』は発動者の総召喚コスト未満の神を呪殺する魔法。


 『ヘカテー』の召喚コストは冥40 混沌40 中立20の合計100ソウルである。一方、『隠神刑部』は合計80。自分より小さい神を呪い殺せるのだ。コワ~


 可視化されたトリカブトの毒の呪いが隠神刑部に襲いかかった!


「……その程度か? 隠神刑部の権能『八百八狸はっぴゃくやたぬきの謀反』を発動!」


 『隠神刑部』は手に持っていた槍を投げ捨てる! ……が、そのまま呪いが直撃し、消滅していった。無慈悲にカランカランと槍が転がる音が室内に響く。


「やったか!?」


 俺が声をあげると、転がっていた槍の下からぬるりと巨大な狸が現れる。知ってた。父はドヤ顔である。俺もノリノリだったわ。


 『隠神刑部』の権能『八百八狸の謀反』は装備品を外すことで、敵からの魔法、権能、神器などの効果を1回だけ無効化することが出来る。いわゆる除去耐性ってやつだな。


 余談だが神器の装備には召喚とは別に、装備にもコストがある。強力な神器ほどそのコストも重かったりする。まぁ『隠神刑部』は踏み倒せるんだけどさ。


「倒せなかったが、権能『魔術師の女王』は発動する。1枚ドロー! ……ターン終了だ」


「ふぅ……」


 父の顔には安心の感情が見て取れた。父よ、勝ったと思ってんな?


「では私のターンだ」


 父の手札が6枚に補充される。


「そして戦闘フェ……」


 そのまま殴って終わらせるようとする父。それはいけない。しっかり最大打点でお願いします。


「父さん、その神器は?」


 俺は床に転がったままの神器『総螺鈿十文字槍尻尾付そうらでんじゅうもんじやりしっぽつき』を指差す。


「あ、ああ……そうだな。神器『総螺鈿十文字槍尻尾付そうらでんじゅうもんじやりしっぽつき』を『隠神刑部』に装備させる。コストとして手札を1枚黄泉へ送る」


 俺が指差すと、父は思い出したかのように神器『総螺鈿十文字槍尻尾付そうらでんじゅうもんじやりしっぽつき』を『隠神刑部』に装備させる。


 しかしまだ足りない。


「では、戦闘フェイズだ。『隠神刑部』で攻撃! 覚悟しろ、響!」


「全力で来い! 父さん!」


「『隠神刑部』が攻撃した時、権能『刑部の裁き』が発動する! 手札から神器『千段巻槍尻尾付せんだんまきやりしっぽつき』を召喚、そのまま装備する!」


 『隠神刑部』は両手に槍を持ち、俺に向かって突撃して来る。


「神器『千段巻槍尻尾付せんだんまきやりしっぽつき』は戦闘力をさらに30上げ、【先手】を与える!」


 神同士が戦う時に【先手】を持っていると先にダメージを与え、倒すことが出来るのだ。ずるいぞ!


 つまり現在の隠神刑部は戦闘力150、【浮遊】【貫通】【賦活】【先手】持ちってことだ。究極生命体かな? 


「これで終わりだ!」


 父の勝ちを確信した叫びが開かずの間に木霊した。


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◇ヘカテー 冥40 混沌40 中立20 

3体合体


〇魔術師の女王【常時】

この神が魔法を発動した時、解決時にカードを1枚引いてもよい。

(発動が阻止されてもカードを1枚引いてもよい)


〇トリモリポス【常時】

各ターンに魔法を3回まで発動出来る。

この神は魔法を発動しても不活性化しない。

発動者を指定する時に、同時に最大3体としてこの神を指定出来る。

(その時〇トリモリポスの魔法発動可能回数を指定した数だけ消費する)


戦闘力50 無効 魔法 弱点 ー


「魔法発動特化の権能を持つ三体合体神。

コストの重さと戦闘力の低さ、神器に耐性がないのが弱点。

そのため当時のトーナメントシーンでは活躍出来なかった。通称『ダ女神』

構築済みデッキ「ヨシカド ヒビキ&ヘカテー」に収録された目玉カード」

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