第2話 初バトル1

 母が見守る中、俺と父がデッキを手に持ち、開かずの間──いや、もう開かずではないか──の中央で向かい合う。


「では行くぞ」


「はい!」


「「ソウルバインド!」」


 勝負開始の合言葉を二人で叫ぶ。こうしないとソウルバインダーは始まらないのだ。慣れよう。


 俺の左手の上辺りに、紫色の炎が現れた。炎を纏ったデッキが浮いているのだ! そしてもちろん父も同じように炎を纏ったデッキを浮かべているが、色は真っ赤だ。


 このプレイヤー……いや、バインダー、そしてバインダーが生み出す『ソウル』には『アライメント』と呼ばれる概念が存在する。いわゆる属性のようなものなのだが、火や水と言った属性とは違い、その神々がどのような立場に居るかを表しているのだ。


 4つのアライメントがある。天と冥。秩序と混沌。そして、それらの中間点に中立のアライメントがある。


 天と冥のアライメントは光と闇、善と悪の関係に近いが、冥にも善なる神は居たりするので一概にそうとは言えない。天は明るい黄色で、冥は群青のような暗めの青で表される。


 秩序と混沌も同様に秩序を司る神だからと言って、善良とは限らない。人間から見て神々の善悪など推し量れないのだ。秩序は緑で、混沌は赤で表される。


 ちなみに中立は白だ。


「おおっ!」 


 そんなことよりすごい! すごいぞ! アニメで見たのと同じだ!


 実際に見るとちょっと感動してしまった。


 俺と父は同時にデッキの一番上のカードを公開する。そのカードのコストの大小で先攻、後攻が決まるのだ。


「私は30だ」

「俺は10だよ」

「では私が先攻だな」


 公開されたカードはデッキの一番下へ。


 そして俺の隣にうっすらと透け、実体化していないヘカテーが現れる。


 父の隣には同じように戦国武将のような甲冑をまとった大狸。『隠神刑部いぬがみぎょうぶ』が現れた。


 『隠神刑部』は日本で二番目に有名な愛媛の松山に伝わる伝説の化け狸だ。ちなみに一番有名なのは分福茶釜だろう。


 『ヘカテー』を見た父は目を見開いて驚いている。美門家で行われる交神の儀では、日本の神々や妖怪と繋がりを得ることが多いらしいからな……。どう見ても日本由来ではない神が現れて驚いているのだろう。


 バインダーの隣に現れる神を『主神』と呼ぶ。デッキのメインテーマになるカードの呼称である。


 そしてその後、実際にカードゲームとしてプレイする時は『パートナー』カードを1枚、場に出しておく。


 『パートナー』と『主神』はデッキとは別枠である。それとは別に40枚以上のメインデッキが対戦には必要だ。ちなみに枚数の上限はない。


 このパートナーなのだが……アニメではそのキャラクター自身がパートナーとして扱われていた。そしてパートナーは、が高いほど毎ターン生み出すコスト──ソウルの量が多いとされていたのだ。アニメではこれを才能の差として表現していた。


 ただしソウルが多いからと言って絶対的に強いという訳でもない。生み出すソウルが少ない代わりに権能が強いパートナーというのも存在する。


 ちなみに俺の権能はなぜか現在は使用できない。父の権能も退魔師としての権能だったはずだ。原作の知識によると、だが。


 父の生み出すソウルは30。俺の生み出すソウルは40だ。


 人間のソウルはカードのように表記されてないのに、どうやったらわかるのかって? なぜかわかるんだ。慣れよう。


 閑話休題。俺と父の勝負に戻ろう。


 俺と父はお互いにデッキから6枚カードを引く。自分のターンの開始時に手札は6枚になるまで補充される。


「いくぞ! 響!」


 父がそう宣言すると、メインフェイズに移行した。父から混沌のソウルが生み出される。

 そしてそのソウルを消費して、小さな狸と顔のような提灯ちょうちんが現れる。主神からもわかる通り、父は妖怪デッキなのだ。


「私は混沌のソウルを30生み出して、『マメダヌキ』と『化け提灯』を召喚! ターン終了だ」


 パートナーが生み出すソウルは主神のアライメントに依存する。……そのため父のデッキは混沌のアライメントに全振りだ。


 妖怪が混沌のアライメントに多いからしょうがないんだ。父が混沌を望んでいる訳ではない。そう自分に言い聞かせながら、俺は父のターンの終了フェイズに行動を起こす。


「俺はターン終了時に手札から特性【瞬間】を持つ神を召喚する! ライフを30消費し、中立のソウルを生み出す!」


 ソウルバインダーではライフを消費して中立のソウルを生み出すことができる。ライフは初期値200。そのうち30をソウルに変換して、俺は手札から【瞬間】を持つカードを召喚する。【瞬間】を持つカードは相手のターンでも適切なタイミングであれば召喚、使用出来るのだ。


「いでよ! 『サキュバス』!」


 ……待ってくれ。勘違いしないでくれ。俺は至って真面目だ。だって夜と魔術がテーマなデッキだと、どうしても夢魔関係のカードが入ってきてしまうんだ……。俺は悪くないんだ。


 ふわりと俺の目の前に煽情的な格好をした美人な悪魔のお姉さんが現れる。……両親から気まずい視線が……。


「『サキュバス』が場に召喚された時、これが【瞬間】を使ったタイミングで召喚されたのであれば手札を1枚黄泉へ送る」


 手札を1枚床に投げ捨てる。それはフッと消えるように闇に吸い込まれていった。ソウルバインダーでは、倒された神や破壊された神器、使用の終わった消耗品や魔法のカードはすべて黄泉へ送られる。デッキが0枚になりカードが引けなくなると、黄泉のカードをシャッフルし、再びデッキとして使用するのだ。なおデッキに戻って来ない領域もあり、それは虚無と呼ばれる。


「そのまま俺のターンにいくよ」



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◇サキュバス 中立30

ノーマル 浮遊 瞬間


〇クイックサモン【常時】

このカードが自軍メインフェイズ以外で召喚された場合、手札を1枚黄泉へ送る。

この神は自軍の神の数より敵の神の数が多くなければ召喚出来ない。継承不可。


〇ドレインライフ【常時】

この神が戦闘ダメージを与えるたび、バインダーは与えたダメージと同量のライフを得る。


戦闘力30 無効 ー 弱点 光

「ライフ消費の激しいソウルバインダーにおいて、ビートダウンデッキにはドレインライフ持ちは必須。とまで言われる定番カード。

構築済みデッキ「ヨシカド ヒビキ&ヘカテー」にも新規イラストで収録された」

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