最終話 これからの未来へ


 数日後、俺は冒険者ギルドへと呼び出されていた。


 この前と同じようにレイフが正面に座り、コーヒーに砂糖を入れていた。


「今回の件、本当に助かった」


 彼は深く、とても深く頭を下げた。


「いや当然のことをしたまでだ。あのままだと、さらに被害は増えていただろう。それに生きて捕らえることは出来なかった」

「いいや。無理もないだろう。君の話を聞くに、すでにネヴィルは魔術師の中でも世界最強クラスの実力を身につけていた。むしろ、その脅威を排除しただけでも十分すぎるほどだ」


 俺はすでにネヴィルの一件を伝えていた。真犯人の存在に、彼との戦闘。そしてその動機。レイフに事前に聞かされていたように、結局のところこの魔術至上主義社会の闇が顕在化した事件だった。


「これ謝礼になる。君の活躍には少ないかもしれないが」

「感謝する」


 俺は麻袋を手に取る。そこには今までに見たことがないほどの金貨が入っていた。


「流石に多いな」

「いや、それだけのことをしたんだ。しかし、一生分の金を手に入れたとしても、君が止めることはないのだろうな」

「あぁ。俺のたどり着く場所は決まっているからな」


 そうだ。


 たとえ世界が変わったとして変わりはしない。俺の人生は常に、剣と共にあるのだから。


「さて、これは余談になるが。王国を出て行くのだろう?」

「驚いたな。なぜ分かった」


 俺たちはすでに引っ越しの話をしており、ルナとリアナは物件の内見とやらにすでに向かっている。俺はその辺りは完全に二人に任せっきりにしてしまっているのだが。


「冒険者ギルドで数多くの冒険者を見ていると分かるものさ。この王国という器に収まらない人間は、たまに出てくるんだ」

「そうか」


 少しだけ寂しげな表情をしていた。


「おそらく、今回の件を通じて貴族内の派閥には大きな影響が出てくるだろう。おそらくは、穏健派の勢いは落ちる。ま、君には関係のないことだろうが、一応まだ剣士のことを敵視している貴族はいる。気をつけてくれたまえ」

「あぁ。承知した。しかし、どんな障害が立ちはだかろうとも、俺はこの刀で斬り伏せるだけだ」

「それはいい。今後の活躍、陰ながら応援しているよ」


 レイフは握手を求めてくるので、俺はそれに応じる。


 きっと今後出会うことはないのかもしれないが、それでも俺はこの世界にやって来てさまざまな人と交流することが出来てよかったと心から思っている。


 魔術至上主義社会と言っても、この世界全てが腐っているわけではない。


 きっと未来は良い方に進んでいくだろう。俺は勝手ながら、そう願った。



「アヤメさん! おかえりさなさい!」

「お帰りなさい。アヤメさん」


 二人が俺のことを出迎えてくれる。昨日、二人は水上都市アクリムへ行っていたので、会うのは一日ぶりだった。


「ただいま。物件はどうだった?」

「屋敷を購入することにしました!」

「なるほど。あぁ、そうだ。これは追加資金だ」


 俺はレイフから貰った金貨をルナに渡す。


「「え……?」」


 二人の声が重なり合う。どうやら、この金貨の量に驚いているようだった。


「これって……どのくらいになりますかね」

「うーん。人生二週くらいは行けるんじゃない?」

「ですよねー。ま、まぁお金の管理は私がしっかりとしておきます。流石に天文学的な額になっていたので、流石に震えますけど……」


 まぁ、今後の生活に困ることがないようなら、良かった。そして俺たちは晩御飯を三人で食べることに。


 ルナの手料理は相変わらず素晴らしいもので、俺はとても満足だった。


「アヤメさん……」

「どうした、リアナ」

「ネヴィルさんは最期になんて言っていましたか?」


 ここ数日。あの戦いが終わってから、リアナは俺に何かを聞きたそうにしていたが、そういうことか。


「俺と戦うことが出来て良かったと」

「満足していたんですか?」

「だな。本来であれば罪を償わせるべきだったが、斬り捨てる他なかった」

「そう……ですか。アヤメさんはやっぱりとても強いですね。私も覚悟を持って、さらに精進したいと思います」

「あぁ。そうだな」


 リアナの目には強い意志が宿っていた。きっと彼女ならば、もっと強くなることができるだろう。俺はそう信じている。


「わ、私も! もっと上手くサポートできるように頑張ります!」

「今でも十分ではあるが」

「もっとです! アヤメさんに置いていかれないように!」

「そうか」


 俺は微かに笑みを浮かべる。今までの人生、笑ったことなどほとんどなかった。剣を極めるためには、必要以上に人と関わることがなかったからだ。


 しかし、この世界にやって来てその考えも変わりつつあった。


 人と人が交わり合うことで生まれるものもある。俺はこれを決して遠回りだとは思わなかった。


 ルナとリアナとの出会い。そしてこの先にある、更なる出会い。


 きっと自分の行先には剣を極めるための世界が広がっている。


「これからもよろしくな。二人とも」

「「はい!」」


 元気よく二人の声が重なりあった。


 魔術至上世界マギアヘイム。それは魔術こそが至高とされ、剣士が見下されている歪な社会。しかし、俺は今後もこの世界で生きていく。大切な仲間と共に──。



──────────



《剣を極めたサムライは魔術至上主義の異世界へと転生し、見下されている剣術で無双する〜魔術至上世界の妖刀使い〜》 完


ということで本作はここで完結となります。最後までお読みいただき本当にありがとうございます! 読者の皆様のおかげで最後まで走り切ることが出来ました。改めて、感謝申し上げます。

 

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剣を極めたサムライは魔術至上主義の異世界へと転生し、見下されている剣術で無双する〜魔術至上世界の妖刀使い〜 御子柴奈々 @mikosibanana210

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