第29話 斬罪
白装とは天喰の潜在能力を引き出すものであり、これは今までに蓄積した異能を全て放出するものである。
そのため、いつでも自由自在に使用できるという訳ではなく、使用後は再び異能などを蓄積する必要がある。
俺がこの力を使用したのは、前世で最後に戦った合戦の時である。
そしてこの世界にやって来て天喰の能力を使用していたが、蓄積もまた同時に行なっていた。いつか、本気を出す時が来てもいいように。
「──まさか、人間がこの領域に踏み込むことができるのかっ!!?」
ネヴィルは迫り来る俺の剣を受けているが、みるみるうちに魔力防御が剥がされていく。
白装解放時は異能を喰らう能力は使用できない。純粋なまでに力を放出することに特化した力だからだ。
しかし、刀身に宿っている気力は今までの比にならない。俺はただ相手の魔力を真正面から斬り裂いているに過ぎない。
「さぁ、そろそろ届くぞ──」
一閃。
今度こそは皮膚を深く斬り裂いた。鮮血が散り、ネヴィルの顔が苦痛に歪むが、それでも彼は依然として水尖線を使用して俺に牽制をしてくる。
さらに、飛び散った水に電撃を流すことで俺にその放出した雷撃で攻撃をし、加えて頭上から氷の棘を射出してくる。
自分がダメージを負ったというのに、ここでこれだけの反撃に及ぶことができる胆力は素直に賞賛する。
が、それだけで俺が止めることはない。
「──これだけか?」
斬った。純白に染まる刃はあらゆる異能を斬り捨てるのみ。
俺は高揚感を覚えていた。この世界に来てから本気を出すことに躊躇いを覚えていたからだ。
「馬鹿な! 馬鹿な! それは人間のたどり着いていい領域ではない! お前は何者なんだ──!? 神の使徒とでもいうのか!」
「いいや。俺はただのサムライだ。それ以上でも、それ以下でもない」
「あまり私を馬鹿にしないでもらおうか。今までの研究で人間の上限は分かっている。それを超えるために私は、魔術臨界を突破すると誓ったのだ。だというのに、お前がその到達点だというのか!」
「魔術臨界、人間の限界。そんなものに興味はない。ただ、剣を極める。その一点のみに俺は人生の全てを捧げてきた。他者を蹂躙し、全てを犠牲にした結果が今のお前の限界だ」
俺は天喰を突きつける。
強さとは自己との戦いである。だがこいつはそれを放棄して、他者にそれを求めた。自己の成長のために他者を犠牲にした。
「分かっているんだろう。お前は結局、努力することを放棄したと」
「うるさい、うるさい! お前に何が分かる! 本物の天才たちは私たちよりも遥か上の才能を持っている! それを超えるにはこうするしかなかったんだ!」
「……そうだな。才能というやつは残酷だ。けれど、努力を止めていい理由にはならない。お前はその時点で敗北していたんだ。紛い物の力で自分に酔いしれている時点で、お前の成長は止まったんだ」
「うるさい、うるさい! 違う! 私は……私は……っ!」
もはやただ喚くしかできない。ネヴィルの気持ちは俺も理解できないわけではなかった。俺には才能はなかったから。けれど、そのおかげで俺は努力を続けることができた。
その末に辿り着いたのが、今の実力だった。
俺とこいつは似ている。が、努力の上限という分岐点において明確に違いが生まれた。
俺は徹底して自己の内側に力を求め、ネヴィルは外に力を求めた。
その差がこうして如実に現れているに過ぎない。
「お前の罪はここで斬り捨てる。さぁ、奥の手を使え。俺の主張を否定したいのならば、俺という存在を消して見せろ」
「ククク……あぁ! 分かっているとも! ここでお前を殺して、私の道は間違っていないと証明する! いつだって勝者こそが正義なのだから──!」
魔力を圧縮する。ネヴィルの体には幾重にも真っ赤な線が走り、それらが絡み合うようにして体中に伸びていく。
俺はただいつものように天喰を構える。
いつだって同じだ。やるべきことは、ただ──斬るのみ。
「──
出現するのは漆黒に染まる巨大な球体だった。尋常ではない魔力が込められているようだな。
「これは私の研究成果の全てだ! 触れた者の精神を破壊する精神干渉系魔術の極地! 加えてあらゆる魔術を吸収する性質も兼ね備えている。さぁ、これを超えるというのならば、超えてみせろ!」
俺に向かってくるその黒い球体は勢いを上げていく、俺に迫ってくる。
「三ノ太刀、
幻影を生み出す俺が持つ七つの太刀の一つを解放する。前方に生み出した幻影はその黒い球体にぶつかると、一気に弾けていった。俺はその間に、ネヴィルの背後へと回り込んでいた。
「私がその程度の技、見破れないとでも思っていたか! お前の切り札は把握しているんだよ!!」
だが、ネヴィルはそれに反応していた。同時に背後からは
俺は白装の能力を解除。そして背後に迫るその球体を斬り裂き、一気に喰らい尽くした。
「──なぁ!? 馬鹿な、これほどの魔力密度だぞ!?」
白装の解放により、天喰には何もない状態を作り出すことができた。この時、天喰はあらゆる異能を一瞬で食らうことができる。白装を発動したのは、天喰の容量を敢えて
そして、この球体とネヴィルの距離を近づけることで、このまますぐに攻撃に転じることができる。ネヴィルが魔術を発動させる隙を与えさせないために。
「一ノ太刀、葵」
俺が持つ七つの太刀の中で最速の葵を発動。自身の気力を最大限に高めることで発動される最速の剣だ。
ネヴィルは自分が斬られたことも分からないまま、地面に沈んでいく。
「ごは……っ」
魔力防御ごと完全に斬り裂いた。かろうじて胴体の切断はされていないが、完全に致命傷だった。これほどの傷であれば、治癒魔術であっても回復することは見込めないだろう。
俺は全身全霊の殺意を持ってネヴィルを斬り伏せた。体が繋がっているだけでも、大したものだと思う。
「ネヴィル。お前の敗北だ」
「あぁ……そうか。私は負けたのか……」
負けたというのに彼の顔はどこか清々しいものになっていた。ただぼぅと彼は天を見上げる。
「これが……神の領域の剣か」
「神の領域なんてものは、お前が見ている幻想だ。俺の剣はまだ途上に過ぎない」
「は、はは……そうか。分かったさ。俺とお前では、見ているものが違うのだと……私はきっとお前の領域に至った時満足してしまうだろう。だが、飽くなき剣への探究心こそが、その強さなのだろう」
「……そうかもな。さて、もう長くはない。最期に何か言うことはあるか」
あと数十秒もすればネヴィルは絶命する。呼吸も浅くなっていき、すでに何も見えなくなっているだろう。
「あなたと戦うことができて良かった」
「そうか」
それが最期の言葉になった。呼吸、脈拍も停止。瞳孔も散大し、完全に死に至った。俺はそっと彼の瞼を下ろす。
こうして
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