第25話 会合
《三人称視点》
「それで、グレイス家は欠席なの?」
「だろうな」
「出席は無理でしょう」
「あの氷霜隊がやられたのだからな」
フレイア家、ウォルト家、グレイス家、ライト家、シルフ家の五つの公爵家はこの王国を支配している。が、それも今は揺らぎつつあった。
「あまり信じられないわね。氷霜隊がやられるなんてことは」
フレイア家の当主が眉間に皺を寄せ、そう口にする。
「しかし、事実だ。次期当主のグレアは意識は戻っているが、まだ満足に体も動かせないらしい。それに、ずっと何かに怯えている様子だとか。肉体的にも精神的にも追い詰められているようだ」
「あのグレアがねぇ……その剣士は単独でグレアを含む氷霜隊を撃破したの?」
「そう考えるしかない」
「それって剣聖よりも強いんじゃない?」
「可能性は高い。しかし、今の問題はその剣士よりも
ウォルト家の当主は話題を
「待ちなさいよ。
「その剣士は降りかかる脅威を排除はするが、積極的に魔術師と戦っているわけではない。こちらからアクションをかけなければ、今のところ問題ないだろう」
「でも、貴族としての権威が──!」
フレイア家の当主は誰よりも貴族の権威というものを重んじている。我々こそがこの貴族の頂点であり、その地位は揺らいではならないと思っているからだ。
しかし、それはあくまで感情的な問題だった。
「貴族の権威としての話をするならば、
「だな」
「えぇ。魔術師団の上位魔術師も既に犠牲になっている。これは由々しき問題でしょう」
「……くっ」
流石に自分以外が同意しているので、彼女も口を挟む余地などはなかった。
「リベラルの動きもある。ここで対処を間違えれば、我々保守派の地位が揺らぎかねない」
実際のところ、魔術至上主義の社会であっても、全ての意思が統一されているわけではない。
真っ向から対抗できるほどリベラルの勢力は強くはないが、それでも今回の件は彼らにとって大きな追い風となっている。
一方の保守派は徐々にだが地盤が崩れ始めて来ていた。
「魔術師団を本格的に動かすしかないか」
「団長がいれば大丈夫なんじゃないの?」
「さて、どうかな。ともかく目下の目標は
複雑に絡み合う思惑。それらは全て
†
「ふむ。なるほどな」
俺たちは自宅で
犯行時間、犯行現場、遺体の状況やそこから推察される情報などなど。
「これは……私の家でも知り得ない情報がありますね」
「貴族間で情報は共有されていないのか?」
俺は普通に疑問に思ったが、そういえば貴族も一枚岩ではないという話だったな。
「貴族たちも全員が協力しているわけではありません。保守派と呼ばれる集団が一番の大きな勢力ですが、リベラルと呼ばれる反勢力もあります。冒険者ギルドはどちらかといえば、リベラル寄りですかね」
「なるほど。貴族社会も複雑というわけだな」
「はは。まぁ、本当に嫌なしがらみですけどね」
リアナは苦笑いを浮かべる。その表情から察するに、今までの心労がなんとなく窺えた。
「これ──やっぱり、あるパターンがありますよね」
そうボソッと呟くのはルナだった。彼女は資料を誰よりも読み込んでいたが、何か掴んだのだろうか。
「パターン?」
「はい。犯行時間ではなく、現場が重要なんだと思います」
「なぜそう思った」
「これを見てください」
ルナは王国の地図を取り出すと、犯行現場を線で繋いでいく。
「これって……」
リアナはそれを見て、なんとなく察したようだ。
「これは、何かの模様か?」
「魔法陣です。時間がバラバラなので、無関係に思えますがそれはこれを隠すためだったのかもしれません。それにこれはかなり特殊な魔法陣なので、普通は気が付火ないと思います。でもおかしいんですよねぇ……」
「何がだ?」
「もう魔法陣はとっくの前に完成しています。仮にこれが大規模な魔術的な儀式だとしたら、もっと大きな異変が既に起きていてもおかしくはありません」
「ふむ」
確かにな。完成しているのに、何も起きていない。可能性として残るのは二つか。
「敢えて残しているのか。それとも、まだ完成していないのか」
「……これは感ですが、私は後者だと思います」
「なぜそう思う?」
ルナは真剣な顔つきで問いに答える。
「今まで
「あっ……確かに、それは可能性としてありますね」
二重の魔法陣か。俺はにはピンとこない話だが、ルナは核心に近づいているのか?
「資料の中に……あった。ダンジョン内の犯行現場。これをつなぎ合わせると、いや上のものと連結しないといけない? 多重構造のオリジナルの魔術……と考えるといいかもしれない? あーもうっ! もうちょっとで思い出せそうなのに。私は過去にこの魔法陣を見たことがあるような気がするんです……っ!」
ルナはそう言って急に立ち上がった。
「私、王立図書館に行きます! そこの魔術書にあったような気がするんです!」
彼女は手早く準備をすると、颯爽と出て行ってしまった。
「あ! ルナちゃん! 私もいくよ!」
と、リアナもそれに続いて走り去ってしまった。俺はというと、魔術的なことは何も分からないので、二人に任せることにした。
それにしても、
俺はこの時、二人についていかなかったことを後悔することになる。
ルナとリアナはこの日──帰ってくることはなかった。
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