第21話 無双
「くるな、くるな、くるなあああああああ!!」
グレアは後方へと逃げるが、俺はそれを追いかけていく。体に熱を纏わせ、相手のデバフはすでに完全に無効化している。
また、火属性に宿る加速を応用して俺は自分の速度をさらに上げていく。グレアも全力で逃げていくが、徐々に距離は詰まりつつあった。
「くそ、くそ、くそ! 俺が負けるはずがない! 俺はグレイス家の長男なんだよおおおおおお!」
その叫びはもはや自分を鼓舞しているものに過ぎない。俺に勝てる根拠など、もはやありはしなかった。
俺はただ冷静に、グレアのことを追い詰めていく。
今まで以上の魔術が俺に襲いかかってくる。氷の槍、雪崩、氷の檻など多種多様。完全に本気を出して俺のことをやりに来ているが、それを天喰で難なく斬り裂いていく。
炎刃を纏っていることもあり、氷属性の魔術は容易に斬り裂くことができる。加えて、それらを天喰で喰らうことでさらに炎刃へと還元していく。
「──グレア。覚悟しろ」
「うるせぇええええええ! 早く死ね死ね、死ねよおおおおお!」
みっともない姿を晒しながらも彼は依然として魔術を放ち続けている。
しかし、彼は急にピタリと止まった。
「バカが。俺様の演技に騙されたな! ははは!」
俺の真下に巨大な模様が出現。これはルナの魔術書で見たことがある。これは魔法陣というものであり、過去に魔術を使用する際に使用されていたものだ。
そして、真下から幾多もの氷の棘が出現し、俺に襲いかかってくる。同時に上からは分厚い氷柱。上下で挟み込もうというわけか。
「ははは! ざまぁないな! やっぱり、剣士ごときが俺様に勝てるわけがないんだよ!」
氷が舞う。
互いに姿は目視できないほど、この場は散らばった氷によって視界が遮られていた。
「──これで終わりか」
軽く天喰を振るって、氷の破片を吸収する。視界が明らかになり、俺には傷ひとつついていなかった。
「な、な……!? どうやって防いだ!?」
「──斬った。俺はサムライだ。あらゆる障害は斬り伏せるのみ」
「この化け物があああああああああ!!!」
依然としてグレアは大量の魔術を放ってくるが、俺はただ全てを斬って、斬って、斬り伏せた。もはや駆け引きなど必要はなく、俺はグレアにただただ恐怖心を植え付ける。
どれだけの魔術が向かって来ようが、俺の前では無意味であると。もちろん、天喰も完全に万能というわけではないが、この程度ならば問題はない。
「もう、終わりか?」
「……ひっ」
彼は再び魔術を発動しようとするが、もういいだろう。俺は一瞬で相手との距離を殺すと、グレアの鳩尾に蹴りを叩き込んだ。
「ぐはっ……!!」
胃液を吐き散らしながら、彼は無造作に転がっていく。
深々と降り始める雪。相手はこの地形と環境と利用して、俺に全力で襲いかかってきた。
万全を期すことは重要ではあるが、この程度では俺に勝てはしない。俺はこれ以上の猛者たちと鎬を削ってきたのだから。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
グレアの呼吸が荒い。どれだけ魔力があるとしても、あれだけ大規模の魔術を使用していたんだ。魔力が枯渇しても無理はないだろう。
俺はただ冷静にゆっくりと歩みを進めていく。
「ひっ」
「負けを認めるか?」
「お、俺はグレイス家の長男だぞ!? 分かっているのか!?」
「どうして貴族という奴は、同じような言葉を口にするのだろうな」
エリックの時と同じ状況になり、同じ言葉を口にする。全く、呆れるほかなかった。
俺は天喰の能力を別のものに変更。それを、上段へと構える。
「お、お前……まさか」
俺が何をしようとしているのか、グレアはすぐに察したようだ。
「分かった! 負けを認める! 俺の負けだ! リアナは自由にする! だから命だけは……っ!」
「魔術師よ。今までの蛮行を後悔するがいい」
「う、うわあああアアアアアアアッ!」
俺は天喰でグレアの体を一刀両断したが──体に傷は残っていなかった。
「
と、能力を口にするがすでにグレアは気絶している。
俺は刀を納めると、呆然とこの戦いを見守っていたリアナの元へと向かう。
「リアナ。一応、お前の兄だからな。殺してはいない」
「アヤメさん……私はなんてアヤメさんに言えばいいのか」
頭を下げ、リアナはそう声を漏らした。自分の運命は呪われている。そう思い続けてきたことだろう。だが、その呪縛も今となっては解き放たれた。
「これで家の事情が全て解決したとは思わない。しかし、リアナは自分の道を進んでもいいのではないか。幸い、グレアとの魔術契約は履行される。ここから先の道は、自分で選ぶんだ」
「自分で、選ぶ……?」
信じられない、という表情だった。今までは貴族という家柄に縛られてきたリアナだったが、それが無くなるとどうしていいのか分からない。
そんな様子だった。
「どれだけ縛られようとも、結局人間は己自身にしか従えない。リアナはどうしたいんだ?」
前の世界でも同じような境遇にあった人間は見てきた。けれどやはり、人は自分自身にしか従えない。自分の道は自分で切り開くしかないのだ。
「わ、私は……」
震えることでリアナは自分の想いを吐露する。
「……私はアヤメさんに剣術を習いたい。そして、魔術と剣術を組み合わせた魔術剣を使ってみたいです」
「魔術剣か。初めて聞く名前だな」
「はい……私のオリジナルです」
「そうか。それは素晴らしい。リアナ、新しいことに挑戦するその気概。俺は喜んで祝福しよう」
「……はいっ!」
優しくリアナの頭を撫でる。すると、今まで我慢していたものが決壊したのか、彼女は大量の涙を流し始める。
「リアナ。俺の弟子として精進できるか?」
「もちろんですっ!」
初めてリアナの心からの笑顔を見たな。そうだ。乙女は笑っている時が、一番美しいからな。
リアナはこうして正式に俺の弟子になるのだった。
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