第18話 悲しき再会
ついに俺たちは今日、ダンジョンに二十層へと潜ることにした。
今回はルナと共にしっかりと準備をして、クエストを受注した。
「ついに二十層ですね……っ!」
ルナの表情は固く、緊張した様子である。
「ルナ。そこまで緊張する必要はない」
「でも、二十層ですよ!? 選ばれた冒険者しか入ることの許されない場所ですし、今回の討伐対象はグールの群れですから」
「大丈夫だ。ルナもこれまで、しっかりと研鑽を積んできただろう」
「それは……そうですけど」
「前衛は俺に任せろ」
「そうですね。アヤメさんがいれば安心ですっ!」
今回の討伐対象はグールの殲滅。グールとは食人鬼のことらしく、人の肉を好んで捕食するという。ただし、グールだけならばそこまでの脅威ではない。
問題なのは、今回はそれが大量発生しているという点だった。
ここ最近はギルドでも話題になっているが、ダンジョンでの異変が多いらしい。
以前のグリフィンの件といい、俺としても気になることはある。
そしてルナと共に順調に魔物を討伐していき、ついに二十層への階段までやってきていた。
「ついにですね」
「あぁ。行こうか」
「はい!」
俺が先頭になって下層へと降りていく。徐々に俺は寒さを覚えてきた。すると視界に広がってきたのは、見渡す限りの雪原だった。
深々と雪が降り、目の前は白銀の世界になっていた。
「今日はどうやら雪の日みたいですね」
「なるほどな。興味深い現象だ」
ダンジョンは二十層以降はこうして気候や生態系が変わることが多々あるらしい。この環境に適応しつつも、魔物を討伐しなければならない。
二十層以降が上位の冒険者しか挑戦できないのは、そのような背景もあると俺は説明をしてもらった。
「さて、確かにグールはいるようだな」
ちょうどグールはこの雪の中をゆっくりと徘徊していた。今はそれほど雪も多くはなく、足場も悪くはない。
俺は颯爽とグールへ突っ込んでいき、天喰を抜刀。ルナの援護もあり、ここ一帯にいるグールは全て討伐し終えた。
「ふぅ」
「アヤメさん、流石の手際ですね」
「まぁ、グール程度であれば問題はない。しかし、やけに数が多いな」
「ですね。最近はダンジョンで異変も多いですし、何か原因があるんでしょうか」
「……さぁ、どうだろうな」
原因は全く俺も検討がついていない。
が、この背筋を凍らせるような感覚はなんだろうか。俺はどうにも、今回のダンジョンでの異変は人為的なものを覚えるのだ。
あくまで直感。しかし、前世からずっと吉兆を感じることはあった。
俺は細心の注意を払いつつ、残りのグールを殲滅するのだった。
「終わりましたね」
「だな。では、戻るとするか」
「はいっ!」
無事に二十層での戦闘は終了した。今回は初の二十層ということで、大型の魔物と討伐することは控えた。
今後、もっと慣れてくればそれにも挑戦しようとルナとは話をしている。
「いたっ……!」
前を歩いていたルナが、ゴンと何かにぶつかる。目の前には上層への階段があるが、そこには見えな壁のようなものがあったのだ。
「これは……」
「壁ですかね。でもどうして……いや、待ってください。これは魔術結界です」
「なるほど。ここで仕掛けてくる、というわけか」
いつかあの襲撃の本命がやってくるであろうと。そう予期していたが、ここでやってくるか。
「初めまして。私はグレア=グレイス」
背後から現れたのは魔術師の集団。ざっと十数人程度か? しかし、明らかに纏っている魔力の質が違う。
かなりの精鋭であることは間違いなさそうだ。
ただし、その中の一人。薄い青髪の少女は目を大きく見開いて、俺のことを凝視していた。俺としても彼女には見覚えがあるような気がしたが、今は思い出せなかった。
「グレイス……まさか、
ルナがぼそっと呟く。
もらった情報通りの話だな。
「アヤメだ。何か用だろうか」
「エリックの件は覚えているか?」
初対面ではあるが、相手のグレアは高圧的な態度で話しかけてくる。
「あぁ」
「貴様は貴族のプライドを傷つけた。これはその制裁だ。剣士ごときが台頭していい世界じゃないんだよ」
「ふむ。出る杭は打たれる、というやつか」
「理解が早くて助かる。どうする。無抵抗なら多少痛ぶって、この王国から追い出す程度にしておくが?」
「その必要はない。お前たちは全員、俺が斬り伏せる。全く、貴族という奴はどうしてこうも愚かなのか」
俺は貴族の在り方に辟易する。要するに、自分達の権力を守りたいがために俺の存在を消したいということだろう。
このグレアという男、明らかに俺を殺していいとも思っているしな。けれど、エリック以上の魔術師であることは察していた。
「クク……エリックに勝った程度で調子になるなよ。上には上がいることを、教えてやろう。まずは前座だ。いけ、お前たち」
「──来い。魔術師よ」
抜刀して迫り来る魔術師たちと相対する。
こうして再び貴族との戦いが、幕を開けることにになった。
†
早朝。私はいつも通り目を覚ました。
すぐに顔を洗って身支度を整えて、家族のテーブルへと向かって朝食を取る。
「父上。本日、例の剣士に仕掛ける予定です」
「なるほど。勝算は?」
「調べましたが、相手はダンジョン攻略に夢中になっているようです。そして、今までの傾向からして今日は二十層に潜るかと」
「周期的にちょうどいいな」
「はい。白銀の世界は自分達の領域です」
「万全だな。さすがは私の息子だ」
「ありがとうございます」
その会話を、私はぼーっと聞いていた。あぁ、ついに今日行かないといけないのか。本当は行きたくなんてなかった。
そもそも、ここまで権力に固執する貴族の在り方に私は疑問を覚えていた。
私は小さい頃から周りとのズレがあった。それは貴族として振る舞いだ。周りには偉そうにして、身分が下の人間を虐げる。幼いながらにそれはおかしなことだと思った。
けど、貴族たちは嬉々としてそれを行う。
違和感はずっと積もり続けていった。
ある日のこと。私は勝手に森に行って、魔物に襲われた。好奇心は身を滅ぼすことを、痛感したが……この時私は剣士に助けてもらった。
「大丈夫ですか?」
これが私と剣聖──先生の出会いだった。
先生の剣はとても美しかった。その剣の軌跡はずっと脳裏に焼き付いている。
私は剣術を習いたいと兄様に聞いてみることにした。
すると──
「リアナ。そのことを父上の前では絶対に言うなよ。剣術なんて前時代的な遺物を学ぶ必要はない。魔術こそが、この世界で至高のものなのだから」
思い切り頬をぶたれた後、とても低い声音で私にそう言ってきた。あぁ。そっか。貴族ってものはそうなんだ。私の中で何かが折れたような気がした。
けど私は家の目を盗んで、年に数回ほど先生の元で剣を学んだ。先生はあまりにも天才で剣を教えることは苦手だったけど、とても親身になってくれた。
それから数年が経過したある日。私は運命的な出会いを果たす。
「あの人は……?」
滅多に訪れない人が訪れない道場にやって来たのは、一人の男性と少女。その男性は腰に刀を下げており、風格も只者じゃなかった。
その後、剣を交えて分かった。この人の剣術は先生とも違い、異質なものだと。私が目指すのは、この人の剣であると。
けれど、それは願ってはいけない。私はグレイス家の令嬢なのだから。今、先生に教えてもらうだけでも、十分なのだ。
「初めまして。私はグレア=グレイス」
氷霜隊といううちの家の精鋭部隊を引き連れて、エリックを倒した剣士に襲撃をかける作戦が始まった。荷が重いけれど、行かなくてはいけない。
私はここで自分の運命を呪った。
だって、そこに立っていたのは他でもない。
私と剣を交え、自分が目指すべき人だと思い尊敬を抱いていた──アヤメさんだったのだから。
呪われた運命の歯車は、加速し始めた──。
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