第12話 惨殺魔
「先生。すみません。それは私の方からお断りさせてください」
リアナはそう言って、剣聖の申し出を断った。表情は依然としてよく見えないが、どこか悲壮感が漂っているような気がした。
「どうでしてですか?」
「アヤメさんに悪いのはもちろんですが、私はその……家の事情もありますので」
「なるほど。流石に厳しいですか」
「おそらく、無理かと。ここにも本当はずっと居たいのですが、長居できませんし」
「分かりました」
剣聖はリアナとの会話を終えると、俺に軽く頭を下げてきた。
「すみません、アヤメさん。私の方から提案したのに、勝手に断る形になってしまって」
「事情があるのなら仕方がない。だが、教えることは可能だ。俺としても、リアナの剣はまだ伸び代があると思っている」
「私もそう思います。しかし、私はどうしても感覚で剣を理解しているので、教えるのがどうしても苦手で。ははは」
そう言って笑っているが、剣聖の剣は確かに
再現度は限りなく低いだろう。
「それにしても、どうして人払いの結界を? 俺の予想にはなるが、あれは魔術師だと見抜くことはできないものではないか」
「ご明察の通りです。一年前までは、私も特に結界などは貼っていませんでした。ただ現在は状況が少し変わってきています。
「一応あるな」
「現在、謎の人物が魔術師を惨殺している事件があるんです。実はこのケガも背後から襲われた時のもので。油断しているつもりはなかったのですが、一瞬で肉を削がれました」
「剣を交えたのか?」
「いえ、闇夜からの襲撃でした。私に一撃浴びせて、すぐに消えました」
「そうか……」
剣聖レベルの人間に怪我を負わせるか。魔術師で合ったとしても、何大抵の技術ではないだろう。
また、同時に俺はグリフィンのことを思い出した。俺は、点と点が繋がった感覚を覚える。
「もしかしてその傷。鋭利なもので斬り裂かれたものか?」
「はい。私だけではなく、犠牲者も全員が鋭利な刃物で斬り裂かれた痕跡があるのです。犠牲者の中には、魔術師団の人間もいました。高位の魔術師を殺すことのできる、剣士。それは私しかいないという事で、今は身を追われています」
「しかし、無実だろう? 身の潔白を証明しないのか」
「話が通じる相手であれば、するでしょう。しかし、この世界は
「心中お察しする」
確かに、無実だと主張しても向こうの言い分でどうとでもできてしまうと言うことか。
「剣聖殿」
「ライトでいいですよ。あなたのことは色々と察していますので」
流石に剣を交えれば、俺の本当の年齢など分かってしまうか。俺は剣聖──もとい、ライトに気になっていることを尋ねる。
「俺は先日、グリフィンと剣を交えた」
「なんと。グリフィンと言えば、Sランクの魔物。しかしあなたのことだ。討伐したのでしょう?」
「あぁ。だが、そのグリフィンは弱っていた。体に鋭利な傷があり、それは剣でのものではなかった」
「……やはり、あなたもそう思いますか。私も何度か鋭利な傷のある魔物を見つけましたが、剣にしては傷口が鮮やかすぎるし、深過ぎる。自分の傷も剣ではありません。あれは魔術でした。間違いなく、私は魔術師の犯行だと思っています」
「だろうな。俺もそうだと思っている」
二人の意見が一致する。俺もまた、あれは魔術でしかありえない芸当だと思っていた。疑問は氷解したが、また新たな疑問が生まれたな。
では、一体誰が──
「犯人は不明です。私も調査していますが、なかなか尻尾が掴めず。アヤメさんも十分にご注意を」
「あぁ。何か分かれば、情報を共有しよう」
「ありがとうございます」
そして、俺たちは王国に戻ることになったが、その際リアナがじっと俺のことを見つめているような気がした。
「どうかしたか?」
「い、いえっ! なんでもありません」
「リアナの剣はまだ途上だ。それに新しい試みもしているだろう。もし、聞きたいことがあれば俺のもとに来るといい。しばらくは王国にいると思うからな」
「……っ。ありがとうございます」
その声色は複雑な感情が混ざり合っているような──そんな気がした。
†
「アヤメさん。なんだかリアナさんととても仲が良さそうでしたね?」
「そうか? 仲がいいというよりあれは、純粋に俺の剣が気になっているのだろう」
「へぇ……そうですか」
「……」
怖い。
俺はどんな魔物であっても、どんな強敵であっても、臆することのない胆力があると自負している。
が、それでもルナの時折漂わせるこの独特な雰囲気は謎の危険を感じる。
目は完全に据わり、光が灯っていない。何か気に触ることをしてしまったのだろうか……。
「えっと、ルナ。
「はい。王国では有名です。ここ一年は魔術師の犠牲者が何人か出ているはずです。でも大量殺人者とかではなく、時折犠牲者が出て、また消えるって感じですかね」
「ふむ。犠牲者は魔術師だけか」
「いえ。剣士の方も何人かいたはずです。魔術師団が調査に当たっていますが、解決してはいないですね」
特段、俺に関係していることではない。仮に襲いかかってくるのであれば、斬り捨ているのみ。それでも俺は、嫌な胸騒ぎがしているような気がした。
「あぁ。それと、魔術師団とは高位の魔術師集団のことであっているか?」
「はい。選ばれた魔術師のみが入団できる組織です。全員が
ルナから色々と情報を聞いていると、俺は人の気配を感じた。
「ルナ。止まれ」
「え?」
「敵だ。俺たちを狙っている」
「……わ、分かりました」
ルナは慌てることなく、小声でそう言った。俺としてはありがたい対応の仕方だった。
現在はもう夜で月明かりが俺たちを照らしつけるが、ここは大森林。その光も心もとない。
俺はすでに王国までの道は記憶していたので、夜であっても帰ることができると思っていたが、まさか俺たちを狙う者がいるとは。
「出てこい。隠れているのは分かっている」
すると深くフードを被った人物が五人ほど現れた。
「魔力は完全に遮断していたが?」
リーダー格と思われる男が話しかけてくる。
「それなら殺気も消すことだな」
「ほぉ。やはり、剣士などという野蛮人は野生の感がよく働くようだ」
「御託はいい。何用だ?」
「いえ。少しだけ実力を見たいと思いまして。殺しはしませんよ」
臨戦体制に入る。リーダー格の男の背後にいる四人も、魔力を解放し始める。
「あなたは少し目立ち過ぎました。出る杭は打たれるということを教えて差し上げましょう」
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