第8話 決着
戦闘は次の段階へと進み、俺はエリックの後を追いかけていた。
「そうきたか」
俺は彼に追いつこうと迫るが、ギリギリの距離感を保って、魔術で牽制をしてくる。一気に距離を殺して斬り伏せてもいいが、それは読まれているな。
これは明らかに誘いだが、面白い。
「──シッ」
俺はここで敢えて誘いに乗ってみることにした。
息を吐いて一気に加速。俺はエリックへ迫っていくが、彼は急に反転すると俺に向けて
それらは足元に放たれたもので、避けると地面で炸裂して土煙が発生する。
その煙の中から高速の雷槍が出現し、俺の顔面に飛んでくるが全て斬り伏せる。
「その力、貰うぞ」
雷槍を斬って喰うことで、俺は刀身に雷を纏わせる。
「──
天喰の能力は異能を喰らい還元するものだが、厳密に言えば喰った異能を直接反映するわけではない。
だが、今後のためにも今回は敢えてエリックの雷属性の魔術をそのまま刀身に反映させた。
そして、エリックが突如背後から現れる。全身は帯電しており、雷を纏った手刀が俺に襲い掛かる。
「ハァ──!」
「死ねええええええええ!」
エリックと激しい攻防を繰り広げる。
徒手格闘術を魔術で強化しているのか。近接戦もかなりやるな。
それに彼の目は爛々と光り輝いていた。その目は密度の濃い魔力が集約している。
激しく互いの攻撃がぶつかり合い、火花が生じる。
反応が速過ぎるな。これはおそらく、あの眼の能力だな。
そして、鍔迫り合いのような形になり、俺たちは後方へと受け身を取りながら弾け飛ぶ。
俺は深追いをせず、まずは現状を正確に分析することに努める。
「俺様の
魔力はさらに膨れ上がっていき、バチッバチッと激しく帯電を始める。
「俺様は天才だ。剣士如きに負ける器じゃねぇんだよ!!」
「面白い。やはり、戦いとは心躍るものだな」
ここまで戦ってきて分かったが、魔術戦は高度な駆け引きが必要になる。
相手の魔術特性を適切に把握、そしてそれを攻略して上回る必要がある。
「属性は雷と火。だが、主軸は雷だな。ただ問題なのは、あの眼。魔眼と言ったか。おそらくは特殊な異能が宿った眼だな。動きそのものよりも、俺の気力を感知しているようだな……」
早口で俺は状況を整理する。魔眼は特性的に魔力や気力といった、力の源を視覚化するものだろう。
身体の動きだけではなく、その根幹すら知覚できるのはあまりにも厄介だな。
さて、どう攻略するか。
おそらく、次の戦闘で決着がつく。互いの手札は出尽くした。あとは、どちらが相手を上回ることができるか。
そして俺は今までの膨大な経験値から、勝利への道筋を導き出した。
「エリック。お前は確かに強いが、俺はそれを上回ってみせよう」
「はははっ! 面白れぇ! やれるもんなら、やってみろよ! アヤメェエエエエエエエ!」
転瞬。俺はその場から姿を消した。刹那の間にトップスピードに入ったのだ。
「お前の攻撃は見切っているんだよっ! この眼からは誰も逃れることはできねぇ!」
背後に出現する雷撃にエリックは超反応を見せる。
それは俺の刀身に纏っていた雷ではあるが、そこに在ったのは俺ではなく雷撃のみ。
「いない、だと……ッ!?」
彼の攻撃は虚しくも、空を斬り裂くだけ。
一方の俺は気力を一時的に遮断し、上空へと飛翔していた。前方に放ったのは俺の存在を気力にしたものと、雷撃の二つ。エリックはそれを俺と誤認したのだ。
幻影を生み出すこの剣術は、俺が持つ七つの太刀のうちの一つ。
その名は──
「三ノ太刀、
俺は上空から全力で天喰を振り下ろし、エリックの右腕を完全に切断した。
彼の右腕は肩から先が無くなり、その場に鮮やかな血が舞う。
「う、うわああああああ! おれの右腕があああああああ!」
「安心しろ。回復系魔術であれば、治せるのだろう? お前自身が言っていたことではないか」
「クソ、クソ、クソ!! テメェ、わざと刀身に帯電させて、誘いやがったなああああッ!?」
「そうだ。お前の魔眼を使った超反応は見事なものだ。しかし、それを逆手に取らせてもらった」
喚き散らしながらも、エリックはすでに止血を終えていた。自分に回復系の魔術をかけることもできるのか。これなら死ぬことはあるまい。
さて、終わりにするか。
俺はエリックに近づいていく。
「嘘だ、嘘だ、嘘だ! 俺が剣士なんかに負けるはずがない!」
「お前の敗北は必至だ。負けを認めろ」
「うるせえ! く、くそがアアアアアアア!」
最後の力を振り絞ってふらふらと立ち上がるエリックだが、もはや戦える体ではないだろう。
「剣士なんてゴミは、俺様に平伏せばいんだよおおおおおおお!」
彼はその身一つで左手の拳を振り上げて俺に向かってくる。
腕を切断されてなお立ち向かってくる気概は認めるが、それは蛮勇だ。
俺は彼の首元に刀の切っ先を突きつける。薄く皮膚が裂かれ、ツーっと血が滴る。
「ひ、ひぃ……!」
エリックは思わず尻餅をついて、俺のことを見上げてくる。
「まだやるか?」
スッと彼の首元に天喰を添える。生殺与奪の権は俺が完全に握っている。この手の輩は、徹底的に分らせないといけない。
二度と他者を虐げる気など生まれないように。
「く、くそっ! 父上に言い付けてやるぞっ! どうなっても知らないぞ!? 伯爵家の権力をわかってないのか!」
「この後に及んで、そんな言葉しか出ないのか。生憎、俺に権力など通用しない。しかし、死人に口無しというが、それついてはどう思う?」
「──は?」
俺の言葉の意図を理解したのか、エリックは途端に顔が青くなっていく。
首に添えていた刀をゆらりと上段に構える。
そして目を細め、エリックのことを上から冷徹に見下ろす。
「待て待て待て! 分かった! 俺の負けでいい! ちゃんとルナの父親の契約は白紙に戻す! 絶対だ!」
「追加だ。二度と他者を虐げることはしないと誓うか?」
「誓う! 絶対に誓う!」
「信じられないな」
「魔術刻印に契約を上書きした! これは絶対に履行される!」
自身の命が懸かっていると分かると、エリックは途端に必死になる。あまりにも無様な光景だったが、何も思うことはない。
「さらばだ、魔術師よ──
「う、うわああああああああああああっ!!!!」
俺はエリックの首を一刀両断──することは無く、直前で刃を止めた。
浅く皮膚を切った程度だが、それだけで彼は意識を失った。
口から泡を拭き出し、ひどい有様だった。まぁ、本気の殺気だったからな。無理もない。
殺すつもりは元よりない。この程度の
それに殺生はきっと、ルナが好まないだろう。これが俺にできる最善だ。
「エリックの取り巻き達よ。俺とやるか? 来るのならば、受けて立つが」
「ひっ」
「つ、強過ぎる!」
俺が睨みを効かせると、エリックに着いてきた魔術師たちは逃げていった。
「アヤメさん……っ!」
「ルナ。これでルナの父親の件は解決だ」
ルナは全力で俺の元へ走ってくると、思い切り抱きついてきた。その体はまだ、微かに震えていた。
俺は優しくルナの体を受け止め、頭を撫でてやる。
「ありがとうございます! 本当に、本当に、ありがとうございます……!! この御恩は一生かかっても返しきれません!!」
「俺は当然のことをしたまでだ。それにこの戦いは楽しかった。魔術戦は非常に心躍るものだった」
俺がそう言うと、ルナは微笑みを浮かべた。
「やっぱり、アヤメさんはそう言う人なんですね」
「? どう言う意味だ」
「いえ。なんでもありません」
彼女はまるで慈しむように俺のことを抱きしめた。
「……」
俺は視線を気絶したエリックではなく、討伐したグリフィンへと向ける。
やはり、気掛かりだった。
グリフィンの傷はエリックがつけたものではない。あの鋭利な傷は、彼の魔術特性とは全く異なるものだ。
では──誰が?
「アヤメさん。遠くを見つめて、どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
一抹の疑念は残りつつも、ルナの件は無事に解決することになった。
しかし、王国に潜む陰謀が
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