第6話 魔物との戦闘
二層へ降りると、そこには魔物の群れが俺たちのことを待ち構えていた。
「ゴブリンですね」
「ゴブリン。小さな人型の魔物か」
「気をつけてください。ゴブリンは危険度は高くありませんが、とても狡猾です。罠なども仕掛けられていたり、非常に統率が取られている魔物です」
「承知した」
抜刀。俺はゆっくりと鞘から
能力の解放は流石に必要はないな。それに、今の段階でこの能力は開示したくはない。あの視線もあるしな。
真っ黒な刀身のまま、俺はゴブリンの群れへと駆けていく。
「ギ?」
「ギィイイイイイイ!」
「グァアアアアア!」
ゴブリンたちが声を上げ、俺に向かって一斉にかかってくるが、俺はそのゴブリンを通り過ぎていく。
「ふむ。この程度か」
キンと音を立てて納刀。
そして、斬られたゴブリンたちはその場でバラバラな肉塊へと成り下がっていく。
魔物の実力はどんなものかと思ったが、俺のスピードについてこれていないようだな。
ただ前の世界の動物とは異なり、明らかに硬い感じがするな。これは純粋に皮膚、肉、骨などが硬いわけではないな。
「──身体強化!」
「これは……」
ルナが俺に魔術を行使したが、それは害のあるものではなく、身体能力を向上させてくれるものだった。魔術とはやはり便利なものだな。
「アヤメさん! ゴブリンに弱体化の魔術をかけます!」
「あぁ!」
ルナは「弱体化!」と声を発すると、ゴブリンたちの体に黒い霧のようなものがかかる。動きが遅くなり、さらに速くなった俺に追いつけるはずもなく、そのまま五秒もしないうちにゴブリンたちを殲滅した。
「こんなものか」
刀を素早く振って、ピッと返り血を払う。
俺が納刀すると、ルナがこちらへ駆け寄ってくる。
「アヤメさん、お見事でしたっ!」
「あぁ。しかし、少々硬い感じがしたな」
「魔物は常に魔力防御をしているからですね」
魔力防御か。確かに、並の剣士であればこれを突破するのは難しいだろうな。
魔術だけではなく、魔物自体も剣士の天敵というわけか。これでは、剣士も衰退していくのも納得できる。
「なんだか、アヤメさんって私と同世代に見えるのに、とても大人っぽいですね」
キラキラと純粋な瞳を向けてくるルナ。そこには憧れのような感情がこもっていた。
「う……ま、まぁ。色々と大人の多い環境で育ってきたからな……」
「? なるほど」
誤魔化し方がよくわからず、少し
確かに今の俺の姿は、十代後半にしか見えないだろう。しかし、中身は七十年以上を生き抜いてきたサムライだからな。
「あれ?」
「どうしたルナ」
「普段はもっと魔物がいるはずなんですけど、とても静かというか」
「確かに気配はあまり感じないな」
ルナの言う通り、途端に魔物の気配を感じなくなった。静寂に満ちているこの空間は、どこか不気味だった。
「索敵」
ルナは地面に手を当てると、彼女の手から魔力が流れているのが分かった。
「え……?」
「どうしたルナ」
「大きい魔物がいます……あれは……」
大きく目を見開いて、ルナは暗闇を指差す。
ドン、ドンと一定の間隔で何かが地面を踏み締める音が聞こえてくる。
そして、俺たちの目の前に現れたのは──
「グリフィン!?」
「グリフィンというのか。見るからに、凶悪そうな魔物だが」
「あれは二十層以降にしか出現しない、最高ランク──Sランクの魔物です!」
「ほぉ」
グリフィンの見た目は、まさに巨大な
筋骨隆々であり、あの鋭い前脚の爪で切り裂かれたら、ひとたまりもないだろう。
それに先ほどのゴブリンとは異なり、纏っている魔力防御が分厚い。攻撃力だけはなく、防御力も十分ということか。
歴戦の個体であることは、俺であっても理解できた。
「アヤメさん!?」
「ルナ。危険だから下がっていろ」
「でも流石にあれは……っ!」
「任せろ」
抜刀してグリフィンと向き合う。強い視線が交わり、互いに動きを見極めている。
ただ気になるのは、所々に鋭利な切り傷があるのだ。剣で斬ったものではなく、何か別のような……。
「ギィアアアアアアッ!」
先に動いたのはグリフィンからだった。あの傷のことは後回しにすべきだな。
グリフィンは大きく翼を広げて僅かに飛翔し、俺に向けて鋭利な爪を向けてくる。
それと咄嗟に避けると、その場所には深い抉られた跡が残った。
硬い地面を抉る尋常ではない切れ味。これは、油断できないな。
「──ハァッ!」
俺は一気に加速してから飛翔。グリフィンに向かって、真正面から斬りかかる。
「グゥウウウウ!」
あろうことか、グリフィンは
「完全に切断するつもりだったが、硬いな」
俺は一旦距離を取って、グリフィンの様子を窺う。純粋に嘴が硬いこともあるが、それ以上に魔力防御が厄介だった。
「ならば──」
俺は刀身にそっと左手の人差し指と中指を添わせる。それを一気に滑らせると、刀身は真っ白なものに変化していった。
妖刀天喰の能力を部分的に解放。そして、刀身に俺の気力を纏わせる。
「さぁ、推して参る──!」
「ギィイイイイイアアアアアア!」
交錯する刀と爪。激しく火花が散り、俺たちはまるで演舞を踊っているかのように戦いを続ける。
確かに強敵。知能も高く、俺の剣をかなり上手く捌いている。
が、俺はそれを上回る。
「ここだ」
フェイントを掛けて俺はわざと空振りをする。
その隙を狙ってグリフィンが前のめりに爪を振り下ろしてくるが、俺はタイミングを合わせてそれを避け、首元に刀を突き刺した。
そして、一閃。
首元を完全に切り裂き、大量の血液が溢れ出てくる。
しかし、まだグリフィンの目は死んでいない。構わず俺に襲いかかってくるが、俺はそれも避けて今度は反対側の首を斬り裂く。
完全に首が落とされ、ドォオンと音を立ててその場に巨体が倒れ込む。
「
俺が刀をしまうと、ルナは信じられないという表情をしていた。
「……凄い。本当に倒しちゃった」
「言っただろう。勝つと」
「は、はい。でも……こんなあっさりとSランクの魔物を倒しちゃうなんて」
「……」
俺はルナの言葉よりも、今はあの切り傷が気になっていた。
「やはり、刀剣の類ではないな」
そっと傷跡に触れる。あまりにも鋭利な傷跡がこのグリフィンには残っていた。
しかし、それは俺と戦う前からついていたものだった。ここまであっさりと倒せたのも、こいつが負傷していたからに過ぎない。
何者だ? それにこれは敢えて致命傷を避けている。遊んでいるのか? この強さの魔物を戯れで傷つけることができるなど、相当の猛者だな。
俺が冷静に分析していると、パチパチと拍手が聞こえてきた。
「いやぁ、想像以上の強さだ! いいねぇ。なおさら、狩るのが楽しみになってきたな」
背後から現れたのは、エリックだった。やはり、現れたか。俺は咄嗟にルナの前に位置を取る。
「おいおい。そんなに警戒するなよ」
「それは無理な相談だ」
「今回はしっかりとした提案があるんだ」
「ほぉ。では、話を聞こうか」
エリックはニヤニヤと笑い、俺のことを見下してくる。
「これは俺とお前の決闘。俺が勝てばルナを貰う。お前はどうする?」
「ルナの父親に対する不当な契約を破棄しろ」
「いいだろう。では、決闘成立だ」
エリックが手を軽く振ると、互いの右手に何か刻印のようなものが刻まれる。
「これは魔術刻印。互いの了承の元に、決闘は成立した。この契約は絶対に履行される。これなら、お前も文句はないだろ? 後からごちゃごちゃ言われるのは、面倒だからな」
「あぁ」
「ククク……さて、このゴミをどうやって狩るかな」
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