第8話 こびり付いてる恋愛至上主義
理恵たち四人の恋人グループは、普通に喧嘩もよくするらしい。
基本的には仲のよろしい話を聞かせてくれる理恵だが、その中でも純度百パーセントの愚痴を混ぜてくることもある。
その日はなんだったか。確か冷蔵庫に入っていた限定物のお菓子をゆうきだかカズミだかに食べられて、それで普段からデリカシーないよねみたいな口論に発展したとか、詳細は知らないけれど、まあ子どもみたいなベタな喧嘩をしたらしかった。
「でもさ、喧嘩したりとかってちゃんと人として向き合ってる証拠だよね」
そう言う私に理恵も、確かにそうかもしれないと同意した。
「別にそれで嫌いになったり、とかはないからね。気まずいな、とかムカつくなってのは基本的に一時のものだよ。まあそれで各々が礼儀忘れちゃったら修復不可能になるし、四人だとどこかの関係性がギクシャクしただけで死活問題だったりするからね。そこは普通の人より、各々を尊重するってことに対して慎重かも」
「尊重ね。私の場合、お互いのエゴのぶつかり合いだしな」
「それでもお互い気遣ったりはするでしょ?」
「そりゃ当然。じゃないと気持ち良くないし」
身体の相性も大事だが、それよりも目の前の相手に気兼ねせずにいれるというのも同じくらいに重要だ。
麻雀を打つメンバーやゲームをする相手だって、嫌いな奴とは嫌だし、気の合う仲間との方が楽しいだろう。
「思うんだけどさ。晶子って、自分が好きって感情をわからないってだけじゃなくて──それは本当なんだろうけど──わからないから余計に好きって感情を特別視し過ぎてない?」
「どゆこと?」
「ちょっと思っただけだけどね。ただ、そういうとこはあんのかな、と思うわけよ。無意識にさ。隣の芝生は青いって言うか、自分んとこにないものって余計輝いて見えるでしょ?」
理恵の言う通り、自分では、そんな自覚はない。他人を好きにならない自分のことは、もうそういうものだと割り切っているつもりでいる。
「ウチらの年代ってさ、ウチらみたいなはぐれもんでも、恋愛史上主義みたいなものが抜けてなかったりするし、あたしだって特に気にしなきゃそうだけど、でも人を好きって気持ちだってさ、他の感情と変わらないわけよ」
「語るねえ、今日は」
理恵も私も、愚痴を言うついでに他のことにも口を出したくなるタチだ。
「たとえば晶子は映画マニアだけど、映画なんて一生楽しまない人だっているわけじゃん。それを人生損してる、とか言う人もいるけど、そんなん人それぞれじゃんねえ」
理恵は大きく溜息をついてこう続けた。
「他人と付き合うに当たって、好きって気持ちを特別視することなんてないでしょ」
「でも理恵は三人のこと好きでしょ」
「好き。超好き」
結局そうなんだけどさー、と管を巻き続ける理恵に、私は優しくトントンと背中を叩いた。
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