第24話ホワイティ入隊

「随分遅かったのね」


「すまない、ホワイティ。待たせたな」


 色々懐かしい面々との再会があったとはいえ、ホワイティを待たせていた。


「やることもなく退屈だっただろう? すまなかったな」


「別にいいわ。私は普段からのんびり過ごしているから。それよりいつもより沢山欲しいわ、いつもの」


「人参か? ああ、いくらでもやる」


 元からそのつもりだった。待たせたのだからそのくらい良いだろう。




 あっという間にラディアンス島に到着した。いつも思うが速すぎる。のんびりした喋り方とは違い、何という敏捷性だ。


「じゃあ、頼んだわよ」


「ああ、わかった。とびきり美味いのを持ってきてやる」


 俺は食堂に人参を取りに行って戻ってきた。森の中の様子が変だ。誰かいるのか? 緊張感が漂っている。俺は急いでホワイティの下に急いだ。




 その場にいたのはレドラだった。約束したのにホワイティを食うつもりなのか? 絶対にそれは許さない。


「レドラ! やめろ!」


「ん? 何じゃ? 何をやめろと言っておる?」


「ホワイティを食うなと約束しただろ? 忘れたのか?」


「ホワイティ? ああ、この白い女のことか? 食いはせん。妾は同族の気配がしたので来てみただけじゃ。そうしたらどうじゃ、この娘、馬から人間に変身しおった。妾の睨んだ通りじゃ。ただの馬なら食ったかもしれぬが、同族なら食いはせん。飯は好きなだけ食わせてもらっておるので腹は減っておらん。心配するな」


 レドラはホワイティに対して同族意識があるのか。意外だな。竜族を同族と見なすのはわかるが、彼女に取って人化する者は同族というわけか。ホワイティの目の前にレドラがいて焦ったがそういうことなら良かった。


「見られていたのね。同族ということは貴方もなのかしら?」


「うむ。その通りじゃ。妾はこの者との約束で変身しないと約束したから、本当の姿はお主に見せられんが竜族じゃ」


 レドラは俺との約束を覚えていて律儀に守ってくれているようだ。また騒ぎになったら大変だからな。


「あら、そうなのね。知らない人が近づいてきて警戒したけど大丈夫そうね。貴方には害意は感じない」


 緊張感が漂っていた原因は、知らない者が近寄ってきたホワイティから発せられていたものか。ホワイティも安心しているし、本当にレドラはホワイティを食う気がなくて良かった。


「どうじゃ? お主、妾と一緒に来ないか? 同族が近くにいると妾も嬉しい。この男の下で働くと好きなだけ飯が食えるぞ。一人で退屈せんだろうし」


 ホワイティとレドラは価値観が全く違うようだ。ホワイティは以前俺が隊に誘った時、一人が好きだから考えておくと言った。考えておくというのは体のいい断り文句だ。それに大してレドラは一人が退屈と言った。ここは俺がホワイティの代わりに断っておくか。


「レドラ、ホワイティは一人が好きなんだ。そっとしておいてやれ。彼女には彼女の生活がある」


「いえ、行くわ。確かに一人は退屈だわ。貴方が毎日話してくれて嬉しかったのよ、私は」


 そうだったのか。意外だ。人参のために俺に付き合ってくれているのかと思っていた。迷惑でないのなら良かった。


「おぉ! 妾は歓迎するぞ。むぅ……じゃが、お主といつも一緒にいる陰険男が許すかのう……」


 オットー監査官のことか。こいつはオットー監査官のことをそんな風に思っていたとは。確かにいつも気難しい顔をしているが根はいい男だ。それにあの男が俺の言うことに反対するわけがない。まあ、そのことは誰にも言えないが。


「オットー監査官のことか? 心配するな、俺が説得する。それにこの隊の責任者は俺だ。誰にも反対はさせない。優秀な人間は歓迎する。よろしくな、ホワイティ」


「おぉ! 今のはかっこよかったのう。そういえばそうじゃ。お主は一度決めたことは曲げぬからな。ホワイティよ、安心するがいい」


「よくわからないけど、こちらこそよろしく頼むわ。いつでも人参を食べられるのは嬉しいわ」


 俺はオットー監査官にホワイティの入隊を相談するために隊長室に向かう。相談と言っても形だけで絶対に許可するんだが。





「問題ありません。歓迎します、ホワイティさん」


 またもこの男は俺の言うことを考えもせずに許可する。ありがたいのだが、少しは熟考するふりでもしてほしい。エイプリルとダレンもいたのでホワイティを紹介した。二人も歓迎してくれた。


「歓迎するよ、ホワイティちゃん。え? 隊長、どうしたんですか? 私の顔をじろじろ見て」


「いや、似てるなと思って」


 先ほどまでエイミーと一緒に過ごしていた。改めて見ると本当に似ている。双子だから当たり前かもしれないが。つい、まじまじとエイプリルの顔を見てしまっていた。


「似ている?」


「いや、こっちの話だ。ダレンはどうだ?」


 俺は話を逸らす。


「レドラのことで隊長の人を見る目は確かだと気付かされました。自分も歓迎します」


 他の隊員は帰ったので、明日ホワイティを皆に紹介しようと思う。





「皆、ホワイティだ。よろしく頼む」


 翌日の訓練の時間にホワイティ入隊を皆に知らせた。


「また途中入隊?」


「しかもまた女性? どういうことだ?」


「肌も白いし、華奢だし、とても軍人には見えんな」


 その場は騒然としている。もう俺のやり方に慣れてくれたかと思ったが、そうでもないらしい。


「気に入らねえな!」


 またザークスか。何でこいつは毎度新人に絡むんだ。


「隊長、こいつと戦わせてください。俺が隊の厳しさを教えてやります」


 前回のことがあったのにこいつは懲りてないのか。


「いいが、怪我だけしないように気をつけろよ」


「何を仰っているのですか? 怪我をさせないようにでしょ?」


 レドラの時のこともあったのにこいつは忘れているのか。何でこいつはいつもこんなに自信満々なんだ。羨ましくなる。


「わかった、わかった。それでホワイティはどうなんだ? 嫌だったら断ってもいいんだぞ」


「受けて立つわ。ここで私の実力を示さないと隊に居づらいでしょうから」


 ホワイティは軍の価値観をわかっている。軍というものは実力で評価される場所だ。もちろん、それだけでなく階級でも評価されるが、実力を示しておくのは悪くない。優秀だと示せば賞賛され、負ければ無能の烙印を押される可能性もある。まあ、ホワイティに関して心配はしていない。彼女が負けるはずがないだろう。


 ザークスの能力は20前後。それに対してホワイティの素の能力は30前後。これだけの情報なら二人は互角に見えるだろう。だが、ホワイティにはスキル神速がある。天馬の時の敏捷性×4に比べたら見劣りはするが、人型の時でも×2だ。それとスキル風の加護もある。天馬の時は敏捷性×2だが、人型の時は×1.5だ。


 それと適性武器の補正もある。珍しい武器だな。修練場にあって良かった。俺はホワイティに武器を手渡す。


「これは?」


「使ってほしい。お前に向いている武器だ」


 ホワイティは怪訝な顔をしている。確かに少し戸惑う武器だ。でも能力を引き出せるのなら使ってほしいと俺は考えている。


「何か体がむずむずする」


 ホワイティに渡した武器は鞭だ。力×3、体力×2.5、敏捷性×1.2の補正がある。それに鞭を持つを新たなスキルが追加された。名前は女王様だ。効果はよくわからない。


「早くはじめましょう。うずうずするわ」


 ホワイティの様子がおかしい。いつもののんびりした感じが消えて、雰囲気が変わっている。


「では始めてくれ」


「行くぜ!」


 相変わらずザークスは猪突猛進タイプだな。ザークスは勢いだけでホワイティに突っ込んでいく。だが、そんな単調な攻撃当たるはずもなく、ホワイティは軽々と彼の攻撃を躱す。そして、ザークスは転んでしまった。


 そんなうつ伏せで転んだザークスの背中にホワイティは足をのせる。ん? どういうことだ? 何をしようとしている? 


「お~ほっほ、女王様とお呼び!」


「ぐわ! いて!」


 ザークスの背中に足をのせたホワイティは彼を鞭で何度も打ちつけた。突然のホワイティの変貌ぶりに困惑するしかない。これがスキル女王様の効果か。


「どういうことだ? あの新人急に態度がおかしくなったぞ」


「でも何か羨ましいな、ザークス」


 何故かザークスを羨ましがる隊員が現れてしまった。その後もホワイティは何度もザークスを鞭で打ちつける。流石にザークスも戦意喪失するかと思ったが、様子がおかしくなった。


「もっと、もっと下さい、女王様! もっとです!」


 何故かザークスはホワイティのことを女王様と呼ぶようになった。さらに困惑する事態になった。


「あの新人何かいい感じだな」


「ああ、俺も調教されたいな」


 隊員たちの様子もおかしくなってしまった。これではホワイティの実力を認めさせるどころではなくなったな。まあ、歓迎されているようだし良しとしよう。

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