第4話 黒竜が現れた

 黒竜は焦っていた。


 目の前には強固な結界に覆われた岩室がある。


 そして、そこには先ほど出会ったミミという幼女と別のもう一人の魔力を感じ取れたからだ。


 どうやらこの岩室の中に囚われたらしい。と黒竜は勘違いをした。早く二人を助けてやらなければならないと思う黒竜。


 なので黒竜は持てる魔力を最大限に引き出して岩室を覆う結界を殴りつけた。


 ドッ! ドドーンッ!!!


 盛大な音がなったが結界には傷一つついていない……


「馬鹿な! 俺の魔力を最大に込めた拳だぞっ!? 魔王ですら屠る事の出来る威力の筈なのに……」


 黒竜は当たり前のようにそこに依然としてある結界を前にして愕然としていた。実際に黒竜はこの世界では最強と言ってもいい力を持っている。魔王とも一対一であれば敗けることはないのだ。

 その黒竜の全力を持ってしても壊れない結界。それでも黒竜はこの岩室に自分が守護する獣人の子がいるので諦める事なく再度こわす為に攻撃を始めようとした。


「ええい、魔力を込めた物理攻撃がダメならば魔法はどうだ? 俺の最大のデストロイ魔法【メガドン】を食らわしてやる!!」


 と魔法を使おうとした時に岩室からクウラとミミとメメが現れた。


「誰じゃな? お前さんは?」


「あー、黒竜のおじさーん!」

「…… ……」


「おお! 二人とも無事か! それに少年まで囚われていたのか! さあ、今のうちだ。俺の所まで来い!」


 現れた三人を見て盛大に勘違いをしている黒竜にクウラを含めて三人はキョトンとしている。


「何やら勘違いしておるようじゃが…… まあとりあえず入りなされ。まだ何もないがの」


 クウラが先に正気に戻り黒竜にそう声をかけた。


「なっ!? まさか、ここは少年の住処なのか? 入りなされと言われても結界に阻まれて俺は入れないぞ」


 クウラの誘いの言葉に驚きながらも入れないと言う黒竜。しかし


「大丈夫じゃ。愚僧が招いた者は入れるでな」


 クウラがそう言うので恐る恐る一歩前に出た黒竜。すると結界に阻まれる事なくクウラたちの前に行けた。


「は、入れた。結界は…… まだあるな。何故だ? 何故少年に誘われると入れるのだ?」


 そう聞いたクウラは当たり前のように返事をする。


「ん? 愚僧が招いたのじゃから入れるのじゃよ」


 クウラのその言葉にまじまじと見る黒竜。そして、


「ふう〜、とりあえずそれは分かった。中に入らせて貰ってもいいか? 詳しく話を聞きたいのだ。我が名は黒竜だ」


 とりあえず名乗り、詳細な話を聞いてみたいと思い岩室の中に入らせて欲しいとクウラに頼んだのであった。


「良い良い、愚僧の名はクウラというのじゃ。立ち話もなんじゃから、ミミもメメも一緒に岩室の中に戻ろうぞ。黒竜もついてくるが良い。と言ってもそれほど奥が深い訳ではないからの。それに座るのも地面に直接になるぞ」


 そう言うクウラに続くミミ、メメ、黒竜の三人。中に入って黒竜は愕然とした。


 何故ならば岩室の中には結界と同じ魔力が漂っていたからだ。そして、黒竜はこのクウラという少年がその魔力の持ち主だと確信したのだった。


「クウラよ、聞いてもよいか? お主は何処から来たのだ? この山は俺の縄張りでクウラほどの魔力の持ち主が居たならば俺が気づかぬ筈がない。まるで突然にこの山に現れたかのように俺には感じられるのだが……」


 クウラは黒竜からの質問を聞いて鋭いなと感じた。そこでこの山が縄張りだという黒竜は山の主だろうと考え、正直に答える事にした。

 チラリとミミとメメを見るとクウラが作る途中で置いてあった木と石を使って二人で遊んでいる。まあ聞かれてもいいが、理解はできぬだろうとも思っていたのでそのまま遊んでおれよと思いながら黒竜に向けてクウラは自分の事を語りだした。


「愚僧はの、元はこの山には居らなんだのじゃ。今日、この山に突然やってきたのじゃよ。それまではよわい五十二であって別の山にて死を迎えようとしておったのじゃ……」


 黒竜は何も言わずに続きを聞こうとしているのでクウラはそのまま語り続けた。


「霊峰石鎚のほこらにて確かに死んだと思うたのじゃが、如来様によってこの山に連れて来られたようなのじゃ。よわいも七つとなってな。そして如来様より前のせいでは見つけられなんだ真理を今世でも探すが良いと言われておるのじゃ。そこで愚僧は先ずは住む為の場所を求めてこの山を動き、この岩室を見つけたという訳なんじゃよ。その際に如来様より授かりし法力を使つこうたのでな。それが黒竜の感じた魔力とやらではないかと思うておる」


 かなり端折はしょった説明だが黒竜は何故か納得したかのように頷いている。


「そうか、クウラは神に選ばれし者なのだな…… ならばその力も納得だ。俺よりも多い魔力、そして俺でも壊せない結界…… 俺はどうやらこの山の主の座をクウラに譲らねばならぬようだな」


 と変に納得した黒竜にクウラは言った。


「愚僧はこの山の主になぞなる気はないぞ、黒竜。これまで通りそなたがこの山の主じゃ。愚僧はここに住まわせて貰う身。ここで修行をして真理を求めるものである」


「いや、だがクウラよ。この世の掟というものがある。強いものがその領地を護るのが当然なのだ。だからやはり俺はお前の下につこう」


「いやいや、何を言うておるのじゃ。愚僧はまだよわい七つじゃ。そなたが何年も何十年も、或いは何百年も護ってきたものを、愚僧の方が強いからと言ってホイホイ渡すものではないぞ」


「しかしだな、クウラよ……」


 と話が堂々巡りしようとした時にそれは現れた。


『はいはい、ちょっと待って! 先ずは落ち着きなさい二人とも!』 


「おお、如来様! ありがたや!」

「なっ、創造の女神、ビレーヌ様! 顕現なさるとは!?」


「ん?」「んん?」


 どうやらクウラと黒竜では見えてる者が違うようだ。


『はいはい、そこ、深く考えない。とりあえず子供たちは遊び疲れて寝ちゃったから出てきたのよ。でね、黒竜。クウラにはここで真理の探求をしてもらおうと思ってるの。だからこの山の主はこれまで通り貴方にお願いするわ。それでも貴方がクウラの下につきたいと言うのならクウラに名付けて貰いなさい。それによってクウラとは離れていても繋がりを持つ事が出来るわ』


 そこまで一気に喋ると二人を見る如来なのか女神なのか分からない存在。


「フム…… 創造の女神様がそう仰るならば俺としては従うつもりだ。クウラはどうだ?」


「愚僧も如来様が申されるならば従おう」


 二人の返事を満足そうに聞いて神だか仏だか分からない存在は言った。


『よし、これで決まりね。さすがは私が未婚だ、間違えた! 見込んだおとこたちね! それじゃ、クウラ。黒竜に名前を付けてあげて!』


 如来様と信じる存在にそう言われて戸惑うクウラ。


「じゃがしかし、既に黒竜という名前があるのではないか? 愚僧が勝手に名をつけて今後はそれを名乗るというのか、黒竜よ?」  


「ん? 黒竜と名乗っているのは名が無いからだぞ。俺は黒竜という種族名を便宜上、名としているだけだ。だから名を付けてくれるとうれしいな」


 そう言われて真剣に悩みだすクウラ。


『ふ〜む、困ったわい…… 名を付けろと言われてものう…… 黒竜と言うからには身体が黒い竜なのであろうが。さて、どうしたものか? そうじゃ、先ずは竜となった姿を見せて貰おうかの。さすれば良い名が浮かぶかもしれぬ』


「黒竜よ、すまぬが竜体となった姿を見せてくれぬか? 人型のそなたを見てもどうも名が浮かべられぬでな……」 


「おお、ならば身体のサイズは今のままで俺の真の姿を見せてやろう!」


 黒竜はそう言うと人型から竜へと変化した。その姿は威風堂々として、黒は黒だがどこか青みがかった黒い体であった。


「おお、四つ足じゃな。愚僧の知識にも西の方の国には四つ足の竜がいると聞いた事はあったのじゃが。しかし良い姿じゃのう…… 漆黒のようでもあり、烏羽のようでもあり…… これまで黒竜と名乗ってきたのであればいきなり違いすぎても困るじゃろう…… 愚僧の拙い知識で、そなたに【コクイ】という名を送りたいのじゃが良いであろうか?」


 【コクイ】は【黒威】と漢字を当てはめてクウラが作ったのだが、黒竜はコクイ、コクイと繰り返してから、


「フフフ、気に入ったぞ、クウラ。今日より我が名は【コクイ】だ!!」


 と気に入った事をクウラに述べた。その際にコクイからクウラへ、クウラからコクイへと魔力と法力がそれぞれ流れ、クウラは


「ほっほう! これが魔力というのじゃな」


 そう言い、コクイは


「ムッ! これは…… 魔力ではない、クウラが法力と言ってたのはコレか!」


 と互いに驚いていた。そこに神だか仏だかの声が続いた。


『はいは〜い! これでお互いに繋がったわね。主はクウラで従はコクイだけど、そんなのは関係ないからね。お互いに尊重しあってちょうだい。じゃ、忙しいから私はコレで、アデュ〜』


 言うだけ言うと消えた……


「何故だか俺の思ってた創造の女神様と違う……」


 コクイがそう言ってちょっとだけ呆然としていると、クウラがそんなコクイに声をかけた。


「如来様なのだ。人がはかれる存在ではあるまい。それよりもコクイよ、そなた何か異変はないか? 愚僧は何やら新たな力に目覚めたようなのじゃが……」


 クウラにそう問われコクイは


「お、おお! そうだな。クウラの法力が俺の中に入ったので俺も何かしらの力に目覚めたようだ」


 と答えたのだった。その力とは……

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