第24話 追いかけるらしい
メイスを振り切ると、ゴブリンの頭が吹き飛ぶ。
人間よりも大きな体のオークが振り下ろしてきた棍棒めがけてメイスを振り上げれば棍棒が宙を舞い、オークが無防備になる。
地面に叩きつければメイスを起点に地面がひび割れ、足が止まった周囲の魔物を強引に横殴りで吹き飛ばす事もできる。
クリスが言った通り打撃武器であれば難しい技術はなくともなんとかなるようだ。
「…………あの男って魔法使いだったよな?」
俺の周りで戦っていた兵士たちが、お互いの顔を見合わせて何とも言えない顔をしているが今の俺は戦士だ。過去の俺がここにいたら森から湧き出てくる魔物をちまちまと潰して回らなくても済んだかもしれないのに、という苦情は受け付けないぞ。
「モーガン、ペース配分考えるんだよ? どれだけいるか分からないんだから」
「分かっている」
「分かっているっていう人の格好じゃないんだよなぁ、それ」
「仕方がないだろ、返り血とか諸々飛んでくるんだから」
叩き潰すのは楽でいいんだが、その余波で体液やら肉片やらが飛び散るのが難点だ。
街で悪さをしていた悪魔を討伐した事で手に入った軍資金で防具を新調してもらったのだが、真っ赤に染まってしまっていた。
近くで俺よりも多くの魔物を屠っているはずのクリスは返り血一つついていない。それもまた技術らしい。
「魔法も使えるんだから、適度に織り交ぜながら戦えばいいんじゃないかい?」
「いや、戦いながらだと加減が上手くできないのは知ってるだろ? 森を傷つけたら面倒な事になるかもしれないんだろ?」
「まあ、そうなんだけどね。これだけ多いと、森の魔物が加わろうが誤差かなって」
「クリスにとっては誤差でも、一緒に戦っている兵士たちにとっては誤差じゃないと思うぞ」
何度も頷いている兵士もいるので俺の考えは間違っていないはずだ。
クリスも「冗談だよ」と笑って言ったが、俺にだけ聞こえる声で「ただ、もしもの時は迷わず使うんだよ」と言ってきた。
「その時は私がなんとかするからね」
自信満々に言い切りクリスを見ていると、本当に一人でなんとかしてしまいそうな気がしてくるけど、わざと森を傷つける必要はないだろう。
再び魔物が迫ってきていたので俺はメイスを構え直し、クリスと一緒に先陣を切って魔物を屠るのだった。
休憩を挟みながら魔物を殲滅していると、今回集められた戦闘員の人数が多かったからか、だいぶ魔物が少なくなってきた。
森に入って残っている魔物がいないか確認しつつ、人間の反応を感じる場所へと兵士が向かっている。
魔物たちが大勢いた所に集められていた人々がどのような状況になっているかは、コロニーについて話を聞いたり調べたりしたときに知っている。
魔物たちの苗床にされて心が壊れてしまったものがほとんどだろう。せめて余生は平穏な生活ができれば、と思うがそれも難しいんだろうな。
そんな事を考えていたら休憩中のクリスが突然立ち上がった。
「いた」
「悪魔か?」
「うん。ここから少し離れた森の中にいる。どうやら兵士に見つかって逃げる事にしたようだね。ほら、見えるだろう? ワイバーンとその上に乗っている人っぽいのが」
距離が離れていても身体強化を使えばしっかりと見る事ができる。ワイバーンに乗って森を去って行こうとしているのは中年の男の様だった。
「それじゃ、あれは私が責任をもって倒してくるよ。モーガンは兵士と一緒に待ってて」
それだけ言うと、クリスは宙を蹴ってワイバーンを追走し始めた。俺はついていけないので置いてけぼりにするつもりのようだ。
もう跳び出して行ってしまったので文句を言う事もできないのだが……まあ、俺がついて行ってもできる事はないだろう。
それならせめてこの事を兵士たちにも伝えておかなければ、と思ったが、それよりも早く周囲の兵士たちが動き始めていた。
どうやら俺が何かする必要はないらしい。
仕方がないので先程まで噛んでいた携帯食料を食べる。
街の食事が恋しいな、なんて事を考えながら固い肉を嚙みちぎる。
ただ、それも長くは続かない。しばらくすると、急に悪寒を感じた。
「うまく引っかかってくれましたね。勇者といっても所詮この程度ですか」
森の中から姿を現した男は、底冷えする笑みを浮かべながら品定めをするかのように兵士たちを見て――俺と目が合った際に視線移動が終わった。
「この保有魔力量、申し分ないです。さあ、体をよこせ!」
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