第23話 逃げても無駄らしい
ガスター辺境伯は貴族らしくない見た目の人だった。
貴族というよりも、どちらかというと冒険者側というか……強面の歴戦の猛者といった雰囲気のある男性だ。
出迎えの挨拶もほどほどに、代官が暮らしている屋敷の内の大きな部屋で状況の確認が行われている。
「スタンピード、ですか」
「というよりも、魔物で構成された軍隊、と考えた方が良いかもしれません」
ルーカスがクリスの問いかけにすぐさま答えた。彼は詰所で勤務しているが実はベンタウン駐屯兵の中でも上の方の階級らしい。
異例の若さで隊長格になったルーカスだったが、同じ階級の兵士とはそれ相応の信頼関係を気付いているようだ。
「本来であれば狂ったように突き進み続ける魔物たちが一カ所にとどまり続け、どんどん数を増やしている。恐らく魔物を生み出す、もしくは操る力を持った悪魔がその場所にまだいるんでしょう」
「向こうの準備が整うまで叩くしかありません!」
とある兵士がそう叫ぶと、他の者たちも口々に賛成した。そして、その中の一人が何かに気付いたようで俺を見た。
「救国の英雄であるクリス様と共に旅をしていたモーガン様は最上級魔法を使える、というのは本当ですか?」
「おお、天災級とも呼ばれる大規模魔法を使えるのですか!」
「それならたくさんいるであろう低ランクの魔物をまとめて葬れますな!」
めちゃくちゃ言い辛いが言うしかない。
そう思って口を開こうとしたが、ガスター辺境伯に手で制された。
「知っている者もいるだろうが、モーガン殿はある理由によりほとんどの魔法が使えなくなってしまっている。あまり当てにしないように。また、無用な詮索もするな」
ガスター辺境伯には目礼をし、俺はクリスの隣で黙って先程の言葉を思い出す。
天災級魔法は最上級魔法の別名なのか。名前をいくつもつけるとややこしいから一つに統一して欲しいが、ラルダーナ曰くそれは難しいとの事だったので諦めて覚えよう。
一度見たものや聞いた事は覚えていられるからいくつあろうが問題はないが。
身体強化を全力で使って室内の話を全部聞いていたが、魔法に関する話を聞いてもやはり何かしら思い出す事はない。
不審な目で部屋にいたほとんどの者たちに見られたくらいで、何の成果も得られなかった。
そんな簡単に記憶が戻るとは思わないが、記憶が戻るまでは少しずついろいろな事を経験して覚えていくしかない。
とりあえず、先程の発言から後でじっくり話をしたい人を選定していたら、どうやら大体の部分は決まったようだ。もうあと少し微修正をするようだが、すぐに出発するらしい。
「魔物の被害を止めるためにも速さが重要だからね。馬車の乗り心地はあまり期待しない方が良いよ」
馬車に乗り込んだ際にクリスがそう言ったけど……うん、急いでいるのは分かるが揺れが酷い。
目的地までずっと走り続ける訳にはいかないので大人しくしておくしかないのだが……。
「どうしてクリスはそんな涼しい顔をしていられるんだ?」
「え? まあ、この程度の揺れだったら慣れているから、かな?」
早い所慣れておかないと冒険が大変だよ、とクリスに言われたので、今回は頑張ってギリギリまで耐えてみよう。
魔物の軍勢は魔物たちの領域で『帰らずの森』からはみ出る形で街道に陣取っているらしい。森の中にはどれくらいの魔物が控えているのか分からないが、森を燃やすと森の奥にいる魔物を呼び寄せる可能性があるとの事だった。
立派な防壁があるんだから、籠城をしてもいいんじゃないか、という案も出ていたが、悪魔が攻めてくる可能性は低いので根本から解決するためにはこちらから出向くしかないそうだ。
「今の状況でも逃げられるんじゃないか?」
「流石に判別は難しいけど、魔物の群れの中の人の気配は目立つから、逃げたらその魔力を覚えて追いかける事はできるよ」
それも女神様から授かったクリスの力なのだろうか。人ばかりの所だと難しいけどね、とクリスは言うが、もしかしたら俺も彼女から離れて独断行動してもすぐに捕まるのかもしれない。
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