第21話 制限があるらしい
悪魔はこの世界に呼び出した者と契約を交わし、その肉体に宿るらしい。
ただ、それは制限付きの力しか引き出せない。だから悪魔は人々を襲い、自分に合った体を探す――らしい。
そして俺に迫ってきている男の体の中に入っている悪魔は、どうやら俺の体に目をつけたようだ。
「逃げろ、モーガン!」
慌てた声音でクリスが叫ぶ。
だが、クリスとの戦いを見ていて問題ないと判断した俺は、メイスを強く握りしめた。
全力で魔力を練り、その力を一振りに捧げる。
一気に間合いを詰め、メイスを振り切ろうとしたタイミングで危険だと感じたのか悪魔に憑かれた男は魔後ろに跳んだ。魔法は……ああ、もう詠唱がめんどくさい。このまま投げてしまえ。
横振りしていたメイスを握っていた手を離して投げると、男の腹部に直撃した。
空中だった事もあり、避けきれなかったようだ。
メイスがぶつかった勢いを殺す事も出来ず、男はクリスの方に吹き飛んでいったのだが、そのままクリスによってすれ違いざまに両断されてしまった。
「モーガン、前衛として戦うつもりなら自分の武器は投げない方が良い。武器が無くなったら戦えないだろう?」
「格闘術を使えばいいかと思ったんだがそれじゃ駄目なのか?」
「触れてはいけない魔物とかもいるからね。極力避けた方が良いと思うよ」
「次から気を付ける。それよりも、終わったのか?」
「ああ。どうやらそのようだ。悪魔の気配も道具以外からは感じないからね。ただ、この程度の悪魔が代官にバレずに裏で薬やら密売できるとは思えない。気をつけながら正門の兵士たちと合流しよう」
死体をそのままにしても大丈夫なのか心配になったが、悪魔と戦った事があるクリスがそう言うのなら特に俺から言う事はなかった。
俺はクリスが拾ったメイスを受け取ると、彼女の後についていく。
正門ではまだ戦いが続いていたようだ。どうやら暗示をかけられて一時的に身体能力が上がったならず者共に苦戦しているようだ。
「ああいう使い方もあるんだな」
「みたいだね。ただああなると、戦闘狂になってしまうみたいだ。……国が欲しがりそうな力だね」
「そうなのか?」
「そうだよ。何者も恐れず、命じられるがまま戦う兵士を簡単に作れるのなら悪魔に魂を売る愚かな施政者がいてもおかしくないと私は思うよ」
お喋りはここまでにして助けに入ろうか、というクリスに続いて俺も兵士たちに加勢したが、結局他の悪魔は出て来なかった。
薬物の密売組織を潰し、そこにいた悪魔も倒したがクリスの表情は晴れなかった。
あの悪魔は悪魔の中でも下級だったらしく、それに加えてまだ悪魔に課せられた制限を解除できていない個体だったらしい。
「そんな奴が街の外に出てオークのコロニーをつくるとは思えないんだよ」
「だけどあんな事があったらもうこの周辺からは離れているんじゃないか? 女神様から加護を授かっているクリスがいるって言うのは向こうも知っているだろうし」
「……いや、オークのコロニーをつくった悪魔がどのくらい制限を解除しているかにもよるけれど、この近辺に潜んでいるとは思うよ。召喚された悪魔はその土地に縛られるからね。だからあの屋敷にいた下級悪魔もあそこから逃げられなかったのさ」
「なるほど」
悪魔はこちらの世界に降り立つためにはいくつかの制限が課せられるらしい。
その制限を解除するためにも人を混乱に陥れ、襲っていくそうだけど、制限が解除されるごとに活動範囲が広がって行く事が知られているそうだ。
屋敷の敷地内のような狭い範囲から出る事ができなかったあの悪魔はこちらに呼び出されたばかりだったのだろう、との事だった。
「そういう訳だから、今日は食事が終わったら冒険者ギルドに行くよ。何か情報が入っているかもしれないからね」
新しく買い替えた大剣を近くに置いて席に座ったクリスは、飲食店の店員を呼んだ。
どこの街でも女性の反応は変わらないし、女性の扱いも上手いんだよなぁ。
見習っていればそのうち俺もモテる事はあるのだろうか?
……いや、モテる方法を考えるよりもまずは記憶を戻す方法を考えた方が良いな。
そんな事を思いつつ、クリスが店員の女性と楽しそうに話をする様子を眺めてしまったのだった。
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