第13話 魔法使いとしても戦えるらしい

 城塞都市ヴァルハラを出発した俺たちは、徒歩でのんびりと街道を歩いていた。

 護衛依頼を受けても良かったが、旅の間にした野営などを通して何かしら思い出すのではないか、というのがクリスの考えだ。


「クリスは俺の記憶を取り戻すのに熱心だな」

「当たり前だろう? 幼馴染かつ一緒に苦楽を共にしたパーティーメンバーなんだから」


 こうして完全武装しているクリスの微笑みは、男の俺でもときめくのだから、女性がキャーキャー騒ぐのも納得できる。

 俺も顔立ちは悪くない方だと思うんだが……こればっかりは立ち居振る舞いやら何やらがあるのだろう。

 街道を歩いていると時折魔物が襲ってくる。

 それをメイスで叩き潰したり、ぶっ飛ばしたりしている。

 魔法の練習もかねて初級魔法も混ぜた戦闘をしたいのだが、正直身体強化魔法を使ってメイスで叩き潰したらそれで終わりなのでそうなっていた。


「エンチャント系の魔法が使えたらもう手が付けられなくなりそうだね」

「記憶をなくす前の俺は後衛職だったんだろう? 今の俺にできる事が前の俺にできないとは思えないんだが……どうして後衛職だったんだ?」

「さぁ、どうだろうね。パーティーメンバー的にそれが最適解だと考えたのかなぁ? 私とドラコで敵を足止めし、君が広範囲魔法で殲滅して、ニコラが傷ついた者の治療をするって感じだったし。前衛が三人はあんまり他のパーティーでも聞かないし」

「広範囲魔法とやらは前衛で戦いながらはできないのか?」

「んー、どうなんだろう? 君を見ているとできたんじゃないかって思ってしまうけど……危険を晒してまでそうする必要がなかった、とかかな? 悪魔との戦いはどれも結構ギリギリだったから後衛で一撃必殺に徹してた、とか……」


 クリスと一緒に考えてみたが、謎は深まるばかりで答えは出なかった。




「野営って大変なんだな」


 野営に適した場所を見つけ、仮眠用のテントを張り、簡易的な食事の準備もする。

 食事はかったいパンと、具が乏しいスープだった。これが一般的な駆け出し冒険者の野営だそうだ。


「いやぁ、最初の頃を思い出すねぇ。ニコラとドラコがいない分、夜の見張りの負担がちょっと多いけど、だいたいこんな感じだったよ。テントなんて久しぶりに設営したなぁ」

「途中からテントは使わなかったのか?」

「空間魔法を君が覚えたタイミングで面倒臭がった君が設営した物を出し入れしてたんだよ。他の魔法使いに聞いてみたら、普通はそんな事しない、って言ってたな」


 ここでもまた出てくるのは『空間魔法』か。早く習得するなり思い出すなりしないと快適な野営生活はできそうにない。

 ニコラやドラコが最後の方は下手に小さな町の宿に泊まるよりもテントで寝泊まりした方が快適だった、なんて事を言ってたけど今のままなら間違いなく宿屋の方がいいだろう。

 あと数日で目的地に着くとはいえ、ちょっとテント生活が嫌になってきた。


「次の街ではもう少しテントに予算を掛けられるといいね。そのためにも……お客さんを逃がさないようにしないと、ね」

「敵か!?」

「まだそんな近くないよ。あと数分で襲ってくるだろうけど」


 そう言いながら立ち上がったクリスは、真新しい大剣を担いだ。

 俺も手元に置いてあったメイスを持ち上げる。


「今回はなんだ?」

「この感じはたぶん、オークじゃないかな。コロニーを潰した時に念入りに駆除したんだけど……距離もだいぶ離れているし別の所から来たのかな。肉と睾丸はそこそこの値段になるからそこら辺は潰さないで欲しいし、魔法で援護してもらってもいい?」

「ああ、分かった」


 魔物は昼も夜も関係なく活動している。睡眠が必要じゃない、という訳ではないようなので俺たちと同じように交代で活動しているのだろう。

 焚火によって照らされている範囲は少なく、曇っているので月明かりもない。

 夜の暗い闇の中を見通そうとしても見えない。これは身体強化魔法ではどうにもできない事のようだ。


「数は三体か…………モーガン、光魔法『ライト・ボール』の準備を。周囲には他に人はいないし、光量は最大で。場所は君の頭上で十分かな。目が眩まないように気を付けてね。その後は火魔法以外だったら君の判断に任せるよ」

「分かった」


 クリスが言うのなら彼女自身は大丈夫なんだろう。

 光魔法のライト・ボールはライト・アローと同じく初級魔法に分類される魔法だ。手元に明るい光の球を作り、射出する事ができるが当たったところで眩しいだけだ。他の魔法と異なり何かが起こるわけではない。

 俺は魔力を練り上げながらクリスの合図を待つ。

 先程まで聞こえていた虫の鳴き声も聞こえなくなっていて、薪が燃える音しか聞こえない。

 だが、クリスには何かを感じているのだろう。「今!」という端的な合図とともに彼女は動き出した。


「『ライト・ボール!』」


 最大出力で魔法を頭上……よりも少し後ろで発動すると、周囲を強い光が照らしだした。

 そこそこの距離にいたオークたちも照らし出され、眩しそうに目を細めたり、手で光を遮ったりしていた。近距離だったら失明するくらいの発光だっただろうが、距離があるからちょっと眩しい程度のようだ。

 ただ、光を遮ると隙ができる。一体のオークは既にクリスの大剣の餌食になっていて首が斬り落とされていた。

 光で照らしながら周囲を確認すると、オークは残り二体だった。

 クリスに任せていても大丈夫だっただろうが、其れだと俺の戦闘訓練にならない。

 俺はクリスの邪魔にならないように気をつけながら魔法を唱える。


「『サンダー・アロー』!」


 メイスを杖代わりにしてオークめがけて放つ。

 雷鳴のような音と共に稲光が二体のオークのそれぞれの頭部を貫いた。

 流石、Cランクの魔物だ。体を硬直はさせたが絶命はしていないようだった。

 だが、クリスが再び大きな剣を振るい、二体のオークの首を飛ばしていた。

 クリスはわざわざ俺の所に戻ってきた。


「うん、魔法使いとしても問題なく戦えるみたいだね。ただ、木々に当たると厄介だから雷魔法もやめとこうか」

「あ、はい」


 状況に応じて使う魔法は考える必要があるらしい。今後気をつけよう。

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