第12話 連れてってもらえるらしい
ラルダーナから一週間ほど魔法を教わったおかげで、ある程度加減をする事ができるようになってきた。一週間もかかったのは俺の適性のある魔法属性が多いからだそうだ。危険が少ない物から取り組んだ結果、大きな事故は起きてない。
夜遅くまで俺の稽古に付き合ってくれていたラルダーナは面倒見のいい性格なのだろう。しっかりお礼をしなければ。
そう思っていたけど、ラルダーナ本人に断られた。
「モーガンは私が見込んだ通りの働きをして、生きて帰ってきたデス。それだけで十分デス。そんな事より、今回は随分と時間がかかったデスね?」
軽く流されてしまったけど仕方がないだろう。
コロニーにいたオークの殲滅をするために向かっていたクリスたちが帰ってきたのだ。
「いやぁ、モーガンに頼りっぱなしだったのを痛感しました。あれだけの数、旅の間に何度も相手をしていたはずなんですけどね」
クリスの防具はボロボロだった。剣も真新しい物に変わっている。Aランク冒険者でも武器や防具がこんなになるような状況だったのか……。
「こっちは大丈夫でしたか?」
「私を誰だと思っているデスか。変な虫は軽く追っ払えるくらいには顔が利くデスよ」
ラルダーナは胸を張ってそう答えた。自慢げな表情だった。
クリスは再度礼を述べると俺に視線を向けて「それで、師匠に魔法の稽古をつけてもらって何か思い出したかい?」と聞いてきた。
「いや、全く」
「…………そっか」
「記憶が戻りそうもないし、とりあえず今後はまたダンジョンに挑戦しようと思うんだが、クリスはどうする?」
「ついていく……と、言いたいところなんだけどね。ちょっとコロニーで厄介な事が判明してしまってね」
「何があったデスか?」
「コロニーの規模がおかしいとは思っていたんですけど、どうやら今回のコロニーは悪魔の仕業だったようです」
「悪魔……って、確かクリスが旅を出るきっかけになった奴だったよな?」
「私と君が、だよ。この国で悪さをしていた悪魔を退治するように神託を授かったんだ。女神様の導きの通りに国を回ったんだけど……どういう事なんだろうね」
腕を組んで考え込んでいるクリスに、ラルダーナは肩をすくめて答えた。
「そんな事、考えても仕方がないデスよ。また出て来たなら潰すだけデス」
「この世界に混乱を齎すから、か?」
「そうデスよ。覚えていたデスか?」
「いや、全く。ちょろっと聞いた気がする。詳しい事はもう終わった事だからってあまり話されなかったし、俺も聞かなかったけど」
「そうだね。この国にいる間はもう関わる事はないと思ったからね」
「悪魔とは、この世界とは別の世界にいる者たちデス。異界と繋がる術を用いてこっちの世界にやってきた奴らは、呼び出した者や近くにいる者に乗り移って悪さをするデス。目的はこっちの世界を彼らのものにする事、というのが通説デスね。魔物も悪魔によって生み出されたと言われているデスよ」
「禁術指定されているのにまた誰かが呼び出したのでしょうか?」
クリスはラルダーナに問いかけたが、彼女は再び肩をすくめるだけだった。
「分からないデス。他国にいた者が流れてきたかもしれないデスし、クリスたちは悪魔のリーダー格を潰して回っただけデスよね? 討ち漏らしがいた可能性もあるデス」
「やっぱり、その可能性もありますか……。もしそうなら、私が後始末をしなくちゃいけませんね」
「女神さまから神託を授かったデスか?」
「いえ……世界が滅ぶほどの危機は迫っていない、という事なのかもしれません」
「だったら――」
「それでも……万が一私たちが討ち漏らしたかもしれないのなら責任を果たすべきだと思います」
「覚悟はご立派デス。流石、女神様からスキルを授かった神の御使い様デスよ。…………ただ、女神様から授かった剣も鎧もモーガンの空間魔法の中にあるデスよね? それら抜きで戦えるデスか?」
「…………え?」
クリスの決心は変わらなかった。女神様から未だに神託はないが、旅に出るとの事だった。今回のコロニー騒動を引き起こした悪魔は既に討伐したらしい。
「本当についてくるつもり? モーガン」
「俺も行った事がある場所を巡るんだろ? 記憶が戻るかもしれん」
「記憶を失った君を危険かもしれない旅路に連れて行きたくないんだけど……でもまぁ、新婚のドラコとニコラのとこにずっと面倒を見てもらうのも申し訳ないし、一人で行動させるのも何があるか怖いしなぁ……」
また難しい顔をしてクリスがぶつぶつと言い始めた。それでも彼女の美貌が衰える事はない。道行く女性たちの視線を一身に集めている。罪な女だ。
「ラルダーナも記憶が戻りそうになかったら修行の旅だと思えばいいって言ってたしな。空間魔法は旅の途中で覚えたって事だったし、もしかしたらまた使えるようになってクリスの剣や鎧を出せるようになるかもしれん」
「モーガンがいつもメモしていた魔法に関するメモがあったらもっと話は早かったかもしれないんだけどね」
なんでもかんでも空間魔法に突っ込んでいた過去の俺は反省した方が良いと思う。
そうして、俺たちはヴァルハラを後にした。
記憶が戻るかは分からないが、魔法の修行をしながら旅をしようと思う。
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