第11話 体で覚えるタイプらしい
ダンジョンで数日間、訓練を続けていたがクリスが冒険者ギルドに呼び出されたのでしばらくダンジョンに行くのは中止となった。
「絶対に一人で行ってはダメだからね。というか、街から出ないように!」
そう何度も聞き飽きるほど言ってきた。それだけ心配なのだろう。
例え初心者向けのダンジョンだったとしても、不測の事態が起きないとは言い切れない。
また、俺はそもそも忘れているのでよく分かっていないが、クリスは執着心の強い相手に追われているらしい。
俺に何かちょっかいをかけてくるかもしれない、という事であまり外に出歩いてほしくない様子だった。
だが、オークのコロニーが見つかり、それが結構大きな規模だった事が分かって緊急依頼が出されてしまったので、俺を置いていくしかない状況になってしまった。
今はもうほとんど冒険者として活動していないと言っていたニコラとドラコも呼び出されていたので、それだけ実力者を揃えたかったのだろう、とニコラが言っていた。
「無事に戻ってくるといいんだけどなぁ」
「他の人の心配をしている暇はないデスよ、モーガン。目の前の事に集中してください」
「ああ、分かった」
「『ああ、分かった』じゃないデス。師匠に返答する時は『はい!』デスよ。……というか、敬語も忘れてしまったデスか?」
そんな事を小首を傾げながら問いかけてきたのはエルフの女性で、名前をラルダーナというらしい。
普段は訓練場で見習いの冒険者たちに冒険者としての心構えやら何やらを教えているそうだ。
エルフは細長い耳と、綺麗な金色の髪、それから青い瞳を持つ種族らしい。寿命がとてつもなく長く、長命種というくくりに入るんだそうだ。目の前に立っているラルダーナも、見た目は大人の美女という感じだが実年齢はもっと上らしい。
人里に滅多にいない種族だが、彼女がここで後進育成に励んでいるのは、過去にそういう約束をしたからだそうだ。いったいいつの事なのか、ギルドマスターですら知らないと言っていた。
俺とも面識があって、記憶をなくす前の俺に魔法を教えてくれたらしい。彼女の事も魔法の事も全く覚えてないが。
「返事!」
「はい!」
「…………まあ、いいデス。では、光魔法の練習をするデスよ。しっかり意識して威力を調整するのデスよ?」
訓練場には俺とラルダーナしかいない。
それもそのはず、今はもう日が暮れて時間が経っている。
ドラコとニコラがいない間に教会で寝泊まりをするのも申し訳ないからと宿を探す事にしたんだが、クリスが既に冒険者ギルドと話を通していて、報酬を少なくする代わりにクリスが冒険中はギルド内で寝泊まりできるように交渉していたらしい。
なので、こんな夜遅い時間に魔法の練習をしても寝床には安全に移動できる。
「わか……はい」
彼女に睨まれたので大人しく返事は二文字にした。
彼女は満足そうに頷くと「また施設を破壊されたら困るデスからね」と言った。
「…………何か言いたげな目デスね。発言を許可するデスよ」
「俺だって壊そうとして壊したわけじゃない」
「身体強化魔法すら威力の加減が難しいって話だったじゃないデスか。攻撃魔法がどうして加減できると思ったデス?」
「いや、他の奴らの見てたらあれくらいなのかな、と」
最初の頃は朝から冒険者育成講座に参加して新人冒険者と一緒に座学やら実戦やらを学んでいた。学んでいたのだが、初級魔法の使い方について学んだ後、実際に使った時に事件は起きた。
まだ大人にもなっていないんじゃないか、というあどけなさが残る少年少女たちが魔法を使う様子を見て思い出す事は何もなかったが、俺にも『できる』という根拠のない自信があった。
最後に俺の番となったので同じように火の初級魔法である「ファイア・アロー」を使ったら的を粉砕し、奥の壁に着弾して炎上させてしまったのだ。
慌てた俺は座学で習っていた同じ初級魔法の「ウォーター・アロー」を使って消そうとした。
一個だけだと足りないくらいの炎上っぷりだったからたくさん作ろうと思ってしまって魔力をたくさん込めたら大量の水の矢が炎上している壁に殺到して火は消えたが辺り一面水浸しになってしまったのだ。
俺は悪くないと思うのだが、反省文をラルダーナに書かされた。
どうやら魔法を勝手に使ったのが良くなかったらしい。
「あの程度の炎だったら私は被害を拡大させずに消せたデス。モーガンが深く考えずに魔法を使ったせいで壁に穴が開いた部分もあったデスよ」
どうやら俺が使った初級魔法はただの初級魔法ではなく、記憶をなくす前の俺が改良した魔法だったらしい。
そんなこと覚えていなかったが、体が覚えていて慣れ親しんだやり方でやってしまったんだとか。
高ランクの魔法使いになればなるほど自分で魔法を改良している事が多いそうだ。
そういうわけで、何が起こるか分からない、という事で魔法の実践だけ俺はラルダーナのマンツーマンレッスンを受ける事になったのだった。
「ほらほら、グダグダ言ってないで、さっさと光魔法を使うデスよ。あ、余計な発言は禁止デス」
「……光りよ、灯れ。ライト! ってまぶしっ!!」
「まあ、想定の範囲内デス」
いつの間にかサングラスという光をある程度遮る道具を身に着けたラルダーナは呆れた様子で呟いていた。
それ、俺の分も用意してくれてたら良かったんじゃねぇのか? と恨みがましく見ていたのに気づいたのだろう。
ラルダーナは「モーガンは失敗を体に叩きこんだ方が覚えが速かったデスよ」と言った。
…………本当だろうか?
そんな事を思ったが、私語は禁止されているのでひたすらラルダーナに指示をされながら魔法を使った。
…………悔しい事に、ライトに関しては確かに一夜で調整できるくらいにはなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます