第8話 武器を手に入れたらしい

 ニコラとドラコから救国の旅に出ていた頃の話や、その後の夫婦となるまでの話を聞いている間に日は沈んで外は暗くなっていた。


「今日はここに泊まっていきなよ。クリスがいると子どもたちも喜ぶだろうし」

「アタイらも同じパーティーメンバーなんだけど、クリスの話ばっかり聞かせろってねだられるんだぜ?」

「仕方ないよ。リーダーはクリスだったし」


 ニコラが肩をすくめてそう言うと、ドラコが「アタイはお前が活躍した話をし台んだよ!」と言っていちゃつき始めた。

 そんな二人を気にした様子もなく、隣に腰かけていたクリスが俺の方を見て「どうしようか?」と尋ねてきた。


「まだ時間があるなら話を聞きたいし、お言葉に甘えよう」

「そうだね」


 宿の候補はいくつかあるらしいから今から宿に向かうのもありだったけど、以前来た事がある場所に泊まる事で何かしら思い出すかもしれない。

 という事で、案内されたのは教会に併設されていた孤児院の一室だった。


「相部屋で大丈夫なのか?」

「なにが?」


 教会は警備が厳重で安全だからとクリスは防具を外していた。

 インナー姿の彼女を見ると、流石に女性だとわかる。

 手足はすらりと伸びていて、腰回りはキュッと引き締まっている。胸とお尻は控えめだが、それでも女性の体つきだった。

 ジロジロ見るのも失礼だろう、とすぐに視線を逸らして彼女の問いかけに答える。


「男女が相部屋はまずいんじゃないか?」

「君はこんなところで何かするような男じゃないだろう? それに、私の事を女として見ていないようだし」

「いや、鎧を着てたら正直分からなくても仕方がないというか……」

「貧相な体つきで悪かったね」

「そういう事を言いたいわけじゃないんだが……」


 機嫌はまだ悪いようで何を言っても不機嫌そうな表情で言い返されてしまう。

 女性の機嫌を損ねてしまった場合はとりあえず謝る事が大事だと先程ニコラから教えてもらったし、それを実践しているのだが効果がないようだ。

 ただ、機嫌が悪くても俺が聞いた事には答えてくれる。

 今までの事とか、明日の予定とか。まあ、態度はやっぱり機嫌が悪そうだったけど。

 結局、その日はクリスの機嫌が直る事もなく、それぞれベッドで眠った。

 女性と相部屋という事に緊張するかと思ったがそんな事はなく、いつも通りすぐに眠る事が出来た。




 翌朝、目を覚ますと既にクリスは武装完了していた。


「朝の食事は孤児院の子たちと一緒に食べるらしいよ。ほら、君も早く着替えていくよ」

「………」

「どうしたのさ。早く着替えなよ」

「見られた状態では着替えられんよ」

「何を今更。今までそんな事なかったじゃないか」

「それは同性だと思っていたからで……」

「異性だったとしても冒険者なんてやってるとそう言う事もあるんだよ。ほらほら、練習だと思って早く着替えなよ」


 クリスは出ていくつもりはなさそうだ。

 仕方がないから部屋着から普段着にパパッと着替えた。

 その後、子どもたちが待っていた食卓に着くとクリスは質問攻めにあった。俺は完全に置物状態だったが、のんびりと食事ができたので良しとしよう。

 ……まあ、聞かれても何も覚えていないんだが。




「剣なんて買ってどうするのさ」

「いや、記憶を失ってるんだったらまずは初心者が買うような物を買った方が良いかな、と」


 食事を終えた俺たちはクリスの案内で武器屋に来ていた。

 駆け出し冒険者御用達の店のようで、俺たちよりも幼い見た目の少年少女たちが品物を吟味している。

 ここで取り扱っているのは中古品ばかりだそうだ。価格が安い分、錆びついている物もある。


「魔法を教えてくれる人がいるといいんだけど……身体強化魔法は使えるしそっちの方が危なくはないのかな?」

「クリスは魔法を教える事はできないんだよな?」

「僕は君から教わる側だったし、身体強化以外は才能がないってはっきり言われてしまったからね。女神様から加護を授かったからじゃないか、って君は分析していたみたいだよ」


 クリスが救国の旅に出るきっかけとなったのはこの街のダンジョンを探索している際に女神様から信託を授かったかららしい。その際に、女神様から特別な加護を授かったそうだ。

 時々、神々から信託を授かって加護を授けられる事があるらしい。加護を授かった人は特殊な力『スキル』があるらしい。

 そのスキルは強力で、もしかしたら記憶を戻す力を持っている人もいるかもしれない、と昨日ニコラが言ってたっけ。


「剣もありだけど、槍とかメイスはどうだい? 槍だったら少し離れたところから攻撃できるし、メイスだったら細かな技術は置いといて力任せに叩きつけとけばなんとかなるかもしれないだろう?」

「……なるほど」


 セール品の中を物色しながらクリスが言ったことは一理あると思った。周りで商品を見ながらチラチラとクリスに視線を向けていた者たちもそう思ったようで、クリスが俺の武器と防具を買った後、メイスや槍にたくさん人が集まっていた。


「まあ、それを扱う力が必要になるんだけど……そこら辺は自分たちで気づく事かな」

「教えてやればいいじゃないか」

「いや、持てば分かるでしょ、そういう事は。それに、盗み聞きして手に入れた情報を鵜呑みにしているのは彼らの方だよ? 自己責任さ。なにより、一から十まで教えてたらその人のためにならない、って以前の君が言っていたよ」


 そういうものなのか。

 まあ、冒険者として活動するのならどんな事があっても自己責任だと昨日聞いたし、これも勉強だと思ってもらおう。

 何はともあれ、戦うための装備を手に入れる事ができたので早速依頼を受けてダンジョンに行こう。


「今日はダンジョンに潜る前の事前準備で終わると思うよ」

「…………そうか」


 どうやらお金を稼ぐために動くのは明日からになりそうだ。

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