第6話 礼拝はしなくてもよかったらしい
元パーティーメンバーに会うために、ヴァルハラにある教会に向かう途中、クリスにどうして荷物持ちと勘違いしたのか聞かれた。
「こんなに細い体をしているのに重たい荷物を苦もなく持てたからな」
「……なるほど? 試しにこれ持ってみてくれるかい?」
クリスは自分が背負っていた身の丈以上の大剣を差し出してきた。
俺はそれを慎重に受け取った。一瞬重みを感じたが、その後は特に重さを感じる事はない。街中で振り回すわけにもいかないのでただ持つだけだが、それを見てクリスは納得した様子で頷いた。
「身体強化魔法を使っているようだね」
「身体強化魔法?」
「魔力によって身体能力を向上させるものだよ。魔法と言っても詠唱が必要な物ではない、って記憶をなくす前の君が言っていたけど、どうやら体が使い方を覚えているようだ。無意識レベルで使いこなせる者は冒険者の中でも限られているんだよ」
「身体強化か。それは五感を研ぎ澄ます事もできるのか?」
「できるよ」
「だから遠くの物がよく見えたり、離れていても会話が聞こえたのか。他の種族との混血かと聞かれたけど……」
「君は純粋なヒト種だよ。と、そんな話をしている間についたね」
「ルズベリーとは全く大きさが違うんだな」
「これだけ大きな都市の教会だから当たり前じゃないか。ああ、そうだ。記憶喪失中の君に注意をしとかないと。教会の中は基本的に静かにね。あと、礼拝の作法は……君任せだったからうろ覚えなんだよね。まあ、礼拝をしなければ問題ないだろう」
大丈夫なのか、それで。
若干不安があるが、クリスは既に敷地内に入っているので大人しくついて行くしかない。
教会の壁は真っ白で、敷地内では作物を育てているようだ。
その作物の手入れを子どもたちがしていて、大人たちは近くには見当たらない。
俺の視線に気づいたのか、顔を上げた子どもたちはクリスを見ると顔を輝かせた。
「クリス様だ!」
「え、ほんと!?」
「本物かな?」
「ちょっとお前行って来いよ」
「お前が行けよ。クリス様に会いたいって言ってたじゃん」
子どもたちはクリスをキラキラとした目で見ていた。俺は眼中にないようだ。
クリスはというと、子どもたちの会話が聞こえたのだろう。彼らの方を見ると、軽く手を振った。
女の子たちがキャーキャー騒いでいる。男の子たちはこちらに駆けよってきた。
ただ、あと少しという所で待ったがかかった。
「お前ら、まだするべき事があるだろ! ほら、仕事に戻れ!」
子どもたちのまとめ役だろうか。俺とクリスよりも背が低く、幼さが残る顔立ちをしている少年が子どもたちを追い払った。
彼は真っ白なローブを着ているが、大きさが合っていないのか裾を地面に引きずっている。
「やあ、クリス。それと……モーガン。僕の事、覚えているかな?」
「いや、全く」
「そう……まだ記憶が戻ってないんだね。故郷に戻ればもしかしたらって思ったんだけど……ごめんね、クリス」
「別に謝る事は何もされてないよ? まだ記憶が戻らないと決まったわけじゃない」
「そっか。……モーガンに僕たちと話をさせるために来たの?」
「ああ、それはたまたまだ。ギルドマスターから君たちがこっちに帰ってきてるって聞いてね。顔を見せておくついでに、モーガンの記憶が戻ればいいな、と。ヴァルハラに来たのは記憶が戻らない場合の事も考えて、お金を稼ぐ手段を身に着けようとしたモーガンが、ルズベリーで冒険者として活動しようとしたみたいでね」
「ルズベリーで? ああ、だからこっちに来たのか」
「魔法の事をさっぱり忘れているからね。こっちには低ランクの魔物がでるダンジョンもあるし、初心に帰って冒険者活動をするにはいい場所だろう?」
「そうだね。それに、この辺境伯領だったら、余計なちょっかいを出し辛いだろうしね」
「……あそこまでしてまだ諦めていないのかい?」
「みたいだよ。気をつけなよ?」
「ああ、もちろんだとも。今度はしっかり忠告を受け取るよ」
なんだか蚊帳の外感がやばい。
かといって、話の腰を折ってまで内容の説明を求めるのも違うだろう。きっとクリスがタイミングを見て説明をしてくれるだろう。
「こんなところで立ち話もなんだし、中に入りなよ。ドラコもいるし、その場所で改めてモーガンに自己紹介したいし」
「ついでに話も聞かせてやってくれ。何か思い出すかもしれないからね」
思い出せるかは分からないけど、しっかり話を聞こう。
そんな事を思いながらクリスと少年の後をついて行った。
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