第5話 なんでもかんでもしまっていたらしい

 それから数日が経ってやっとヴァルハラに着いた。

 亜竜便に乗って移動したからめちゃくちゃ遅く感じるが、襲ってくる魔物の対処をしながら進んでいるのでこれでも早い方らしい。


「むしろコロニーがあるならもっと慎重に進む事だってあるんだよ。そうなったらもっとかかってただろうなぁ」


 ここ数日で仲良くなった荷馬車の御者をしていた男フェリアルが言うんだったらそうなんだろうな。

 城塞都市ヴァルハラは、城塞都市という通り、ルズベリーの倍以上大きな壁が都市の周りを囲っている。さらにその奥にも高い壁が見えた。そしてその壁の向こう側に大きな城がある。

 門をくぐって街の中に入ったところで商人たちとは別れた。


「モーガン、街は後で案内するからまずはギルドへ行こう。依頼達成の手続きをしないと」

「ああ」


 キョロキョロと視線を彷徨わせていたらクリスに咎められた。

 少しでも早くオークのコロニーが発生している可能性が高い事を報告したいようだ。

 早足で歩くクリスの後を追っていてふと思う。俺ってこんだけ早く歩けたんだな、と。

 荷物を代わりに持つ時も重たそうに商人たちが持っていたのに軽々と持ち上げられたし、もしかしたらポーターとかやっていたのかもしれない。

 ドレイクたちの中にもポーターという役割の人物がいたみたいだし。

 それなら俺用の武器や防具がない事も頷ける。


「ここがこの街の冒険者ギルドだよ」


 そう言いながらクリスは物怖じせずに建物の中に入っていった。

 立派な建物で、一階は大勢の人間が入る事ができるように広い部屋があるだけだった。

 大部屋には酒場と受付、それから依頼ボードがあった。ルズベリーとはだいぶ作りが違うな、なんて事を考えながらクリスの後をついて歩く。

 入った途端、中にいた者たちの視線がクリスに集中している。救国の英雄と呼ばれ、故郷の街には至る所に像が建てられているから分かっていたが、やはり有名人なようだ。

 クリスは誰も並んでいない受付にまっすぐに進んでいく。そこだけ誰も並んでいないのには何か意味があるのだろうか。


「Aランク冒険者のクリスだ。ギルド長に話がある。取り次いでいただけるだろうか」

「拝見します。……こちら、ありがとうございました。それでは中にどうぞ」


 大きなカウンターの一部が細工されていたようで、天板を持ち上げると向こう側に入れるようになっていた。

 クリスはそこから中に入っていく。そして俺も当然のようにその後に続いた。特に止められる事もなかったから大丈夫だろう。

 冒険者ギルドは四階建てで、最上階にギルドの長のための部屋があるようだ。

 案内をしてくれた先程の受付嬢が二回ほどノックをした後「失礼します。『救国』のクリス様がいらっしゃいました。緊急の用件のようです」と言った。


「入れ」

「失礼します」


 案内をしてくれた女性は扉を開けるだけで中に入る事はしなかった。

 俺たちが入ったところで扉を閉めてしまった。

 ギルド長の部屋にはいろいろ飾ってあったが、それは壁に掛けられているだけで室内は整理整頓されていた。


「久しぶりだな、クリス。それと、モーガンも。記憶の方は……戻っていないようだな」

「ギルド長もご存じでしたか」

「あれだけの騒ぎが起これば俺の耳にも入る。随分とまあ執着されたもんだな」

「もう終わった事です。そんな事よりも、事態は一刻を争うかもしれません」


 先程までニヤニヤとクリスを揶揄うような目で見ていた男性が顔を険しくした。

 スキンヘッドで体も大きいので威圧感があるが、クリスは気にした様子もなく話を続けた。


「ルズベリーとヴァルハラの間に、オークのコロニーが生まれている可能性があります」

「規模は?」

「不明です。コロニー潰しはそこまでしてなかったですから」

「そうか。……とりあえず、クリスの主観で構わん。見聞きした事を教えてくれ」


 クリスはこくりと頷くと、淡々と見てきた内容を話し始めた。

 元々険しかった男性の顔がさらに険しくなった。


「報告ご苦労。十中八九、クリスたちにもコロニーの対処の手伝いをしてもらう事になるだろう」

「モーガンが記憶喪失と知っての発言ですか? 冒険者としての経験値がゼロになってるんです。低ランクの魔物からやっていかないと、命を落とすかもしれないんですよ?」

「ああ、そこは重々承知だ。俺が言いたいのは、同じパーティーメンバーでも後二人の事だ」

「あの二人もここに帰ってきているんですか」

「ああ。俺はその間にコロニーの調査と実際にあった場合の作戦を考える。どうせその間に時間が余るんだから、彼らに会いに行ってみればいいんじゃないか?」

「分かりました。では、失礼します」


 クリスに合わせて俺も頭を下げ、部屋を後にした。


「焦っても仕方がない。とりあえず、他の元パーティーメンバーに会いに行こう」

「そうだな。もしかしたら記憶が戻って俺も戦力になるかもしれん。荷物持ちが何の役に立つかは分からんが……」

「荷物持ち? いや、君は荷物持ちなんかじゃないぞ?」

「じゃあ何なんだ?」

「あれ、言ってなかったかな。君は魔法使いだよ。まあ、空間魔法で荷物を保管してくれてたけど……とりあえずなんでもかんでも空間魔法でしまってたから記憶を失った君は一文無しになってしまったんだけどね」

「…………そうか」


 どうやら装備なども全部空間魔法でしまい込んでしまっているようだ。

 これは記憶を取り戻せなくても何とかして空間魔法を使えるようにならなければ……。

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