第4話 どうやら素通りするらしい
故郷であるルズベリーに二週間ほど滞在した。
定期便とやらがやってきたので俺とクリスは着替えを済ませて宿屋を後にした。
定期便とは、辺境伯が治めている領都から離れた場所にある村や街を回る商人たちの集団だ。
山賊に狙われやすいので、それぞれお金を出し合ってそれなりの強さがある冒険者を雇っている。
「……クリスよりも強そうな人ばっかだな」
「いやいやいや、そんな事ないから!」
俺の何気ない呟きに大げさに反応したのは護衛として雇われたという冒険者の中でも大柄な男だった。
彼の名はドレイクという。Bランクの冒険者で護衛などを主に請け負っているらしい。
「クリスは強いのか?」
「強いに決まってんだろ? 国を救った英雄様だぞ!?」
「私一人で成したわけじゃない。パーティーメンバーの助け合ってこそさ」
「クリスはランクだとどのくらいなんだ?」
「Aランクだ」
誇らしげにいうクリスは「ちなみに、君も記憶喪失前はAランクだったぞ」と付け加えた。
「そうか。まあ、Aランクのクリスと一緒に冒険してたんだったらそれも当然か」
「クリスさんがいるんならこりゃ今回の道中の安全は保障されたも当然っすね」
「元々私は四人で活動していたんだ。私一人でできる事なんて限られている。気を抜かずに行こう」
「…………うっす」
「モーガンは荷馬車に乗ってのんびりしていてくれ」
まあ、そうなるよな。記憶を失った俺にできる事なんて特にないだろう。
ただ、冒険者はそこそこの数がいる。
彼らの戦い方を見て何かを思い出すかもしれないし、思い出さなかったとしても何かしら参考になるかもしれない。
「オークが進行方向の先に現れたぞ!」
冒険者の一人がそう言うと、荷馬車の近くを歩いていたドレイクが舌打ちをした。
「またか。人間だったら楽だったんだがなぁ」
ルズベリーからヴァルハラの道のりの間には盗賊団が潜んでいるとの情報もあるらしいけど、出てくるのは魔物ばかりだった。
どうやら女性の商人たちから注目されているクリスの事は盗賊の間でも有名になっているらしい。
なんでも、以前パーティーを組んで冒険していた頃は移動のついでに盗賊団を潰して回っていたそうだ。
「まあ、盗賊を見つけるのも潰すのもほとんど君がやっていたんだけどね。噂が独り歩きして私がしたという事になっていたけど」
とクリスは言っていたが、全然記憶にないのでほんとかどうかは不明だ。
冒険者たちの話を聞くとクリスがしていたようにしか思えないんだが。
「あ、ほんとにさっきのだ」
「兄ちゃんこっからでも見えるのか? 目が良いんだなぁ。混血か?」
「え? いやぁ、どうなんだろう」
荷馬車の前の方に移動して御者の邪魔をしないように気をつけながら前方を見ると、確かに先程襲ってきた魔物と同じ種の魔物が見えた。
「これだけオークと遭遇するって事は、どこかにコロニーができたんだな……」
「コロニー?」
「ああ、兄ちゃんは記憶喪失だったな。コロニーってのは簡単に言うと魔物たちが作る奴らの町だよ。オークは異種族の女を捕まえると苗床にして数を増やすからな。どこかの村が襲われたのか……冒険者ギルドに報告しておかんとな」
沈痛な表情で御者の男がため息を吐いた。
どうやら良くない事が起きているらしい。
オークの集団は今までと同じようにクリスを筆頭に冒険者たちが殲滅していた。死体の処理の方が時間がかかっている。
肉や睾丸がそこそこの値段が売れるらしい。
「オークのコロニーが近くにあると思う」
「クリスさんもそう思うんか。俺もそうなんじゃねぇかと思ってたんだ。どうする?」
「我々としてはヴァルハラまではしっかり護衛してもらいたいんですがね。女もいますから狙われるでしょうし」
離れた場所でクリスとドレイク、それから商人たちのまとめ役であるゴードルーという人が話をしていた。
遠くて最初は声が聞こえなかったが、なんか意識を向けると聞こえるようになった。
さっきのオークの時もそうだったけど、これはどういう体の仕組み何だろうか。
「……そうですね。私としても、受けた依頼はしっかりと果たしてから次に向かうべきだと思います」
「それでは――」
「はい。私はこのままヴァルハラまで護衛を続けます。ドレイク、二手に分かれるか?」
「いや、俺たちは基本的に護衛専門なんだよ。魔物との戦闘もそこそこできるが、守りに比重を置いて戦ってるからコロニー潰しは不向きなんだ。それに、依頼を途中で放り出すわけにもいかねぇしな」
どうやらこのまま全員でヴァルハラを目指すらしい。
俺が記憶を失っていなかったら、また別の答えがあったかもしれない。そんな事をふと思った。
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