第3話 ラブコメに生々しい失恋があってたまるか

『初告白と初失恋』


恋をする時間は 幸せでした

毎日毎日幸せでした


けれど向こうは友達だった

友達の延長に恋はなかった

私の恋は彼女には邪魔だった

それだけのこと


私は泣きたい 

けれど涙は出ない

涙の出る人が羨ましい


私はなぜ勘違いをしたのでしょう

あの子が私に優しかったから?

話しかけてくれたから?

いっぱい一緒にいられたから?


結局 愛そうと思えば

私は誰でも愛せるのかもしれない

少しでも 私に愛を向けてくれるなら


そうであるならば

誰か私を愛してください


そうしたら私も

あなたを愛せるから


〜〜〜


「いや〜素敵な詩ですね〜。失恋の生々しさが痛いほど伝わってきます〜」


 そう言って、暁月さんはクマノミのマグカップに入れられた紅茶をゴクリと飲んだ。


「……どうしてこれを」

「それは内緒で〜す」


 こんな事があって良いはずはない。

 去年、俺が沙織ちゃんに振られて精神を病み、夜中の2時に寝ぼけた頭でクラスラインに送った詩。 

 送信後30秒で削除したはずなのに、なんでここに……?


「これをばら撒かれたくなかったら……わかりますね?」

「なっ!? 卑怯だぞ」

「ま〜、あたしはどっちでもいいんですけどね〜」

「ぐぬぬ」


 悪い笑みを浮かべる暁月奏。彼女の要求を拒めば、この詩の拡散も厭わぬというわけか。くそっ、脅し方が卑劣すぎる。なんて女だ。


「どうしたんですか、相田さ──」

「なんでもない! まじでなんでもない!!!」


 新名さんは不思議そうにこちらを見ている。これ以上、俺の黒歴史が広まるわけにはいかない。なんとしてでもここで食い止めないと。


「……暁月奏さん」

「なんですか〜、相田せんぱ〜い?」

「俺が部活に入ったら、それは削除してもらえるのか?」

「もちろんですよ〜、喜んで」


 俺の小声の提案に対し、暁月さんはその整った顔でニコっと笑った。性悪なのに無駄に美人なのがまた腹立つぜ。

 はぁ、今日は散々だ。


「あのさ、新名さん」

「どうしました?」

「やっぱり俺、哲学研究部に入ってもいいか──」

「ほんとですか!」


 言い終わるより先に、新名さんは俺の両手をがっしりと掴み、キラッキラの瞳を向けた。心臓の鼓動が速まっていく。


「う、うん」 

「ありがとうございます!!!」


 新名さんは顔をぐいっとこちらに近づける。その距離わずか50センチ。長いまつげもはっきりと見え、ふわっといいにおい……やばい、ドキドキしてきた。


「──放課後また、部室で待っていますね」


 そう告げると、新名さんは小さくウィンクをし、俺の手を解放したのだった。俺は全身の力が抜け、体温が急激に上昇する。


 ……ここまでの流れ、まんまラブコメなんですけど。しかもこの2人のタッグ、めちゃくちゃ厄介だぞ。新名さんの優しさに脇が甘くなったところを、暁月さんが確実に仕留める。まるで警察の取り調べのようだ。


 だが俺は負けない。流されてなるものか。 

 女が陰キャに絡むのには必ず理由がある。裏がある。現実に存在するは打算と建前でできた偽りの愛のみであり、純愛ラブコメなど完全なる幻想である。


 ──だからこそ、俺は絶対に、これがラブコメであるとは認めないのだ。

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