第1話後編 守護精の卵、未だ孵化せず
食べられる!
そう思った瞬間!
私たちの周囲が白い光に包まれて!?
眩い光!?
なに?
どこから?
その光はなんと私の卵から放たれていました!
今までなんの変化もなかった私の卵が、この瞬間、突然光輝き?
この真っ白い光の中から、青い光を放つものと、赤い光を放つものが現れます。
猫ほどの体に、大きく広げた翼。
トカゲのような長い尾。
神々しい瞳に、鋭い歯。
なんと中からは、美しい青と赤の二匹のドラゴンが!?
出現したのでした!
見方によっては虹色ともとれる美しく光輝く鱗。
その青く輝く竜が、驚くことに!
人の言葉で話しかけてくるのでした!
「危ないとこだったな! 俺は勇気の竜だ!」
続けて赤く煌めく竜も口を開くのでした。
「今まで育ててくれてありがとう。ワタシは慈愛の竜」
「え? これは? あなたたちは??」
「勇気と慈愛は育つのが遅いんだよ」
「しかも双子で2倍。今まで諦めないでくれて、ありがとう!」
突然のことで理解が追い付かない私??
本来一人一つの守護精が二つも孵化?
しかも勇気と慈愛の才能!?
それに、自らの意思を持ち、自由に動き回れて会話までできる?
この子達が、この美しい竜が、本当に私の卵から孵化した守護精なの?
「挨拶はあと! 先ずはあの竜を倒ぞ!」
「そうね!」
唖然として身動き一つ出来なかった私と、瓦礫に埋まった子ども達をその場において、飛び立つ二匹。
眩しさで目のくらんだ黒竜の前を赤い竜が飛び回り、私たちの反対の方へと誘導します。
そして私達から離れた瞬間、青い竜が小さな口を開け……青白い炎を吹き付けます!
この行動を何回も繰り返し、ついに黒竜は悲鳴を上げ足早に逃げ出していったのでした。
私たち……助かったの……かしら?
その様子は、丘の上の教会の人たちも確認することが出来たでしょう。
黒竜からの脅威が去ったということを。
「ねえ、傷を見せて」
赤い竜が羽ばたきながら降りてきて、埋もれた子どもに語りかけます。
そして子どもの上に降り立つと、温かいロウソクのような光が傷口を包みます。
「どう? 治った?」
「うん。どこも痛くない! ありがとう!」
す、すごい!? これは治癒魔法なの?
私はその様子を瓦礫をどかしながら目の当たりにします。
私一人では動かせない瓦礫を、青い竜が体で押し返しながら手伝ってくれます。
解放された二人は元気な様子で、笑顔を向けてくれます。
「ありがとうお姉ちゃん! これ、お姉ちゃんの守護精なの?」
「え? これは……」
たしかに私の卵から孵化したけれど。
こんな守護精、見たことも聞いたこともない。
一人一つのはずの守護精。
それに私自身は、相変わらず何の能力もないスキル無し。
しかも二匹は自我を持ち、会話をし、自由に動き回るなんて?
「しかし、ひでーやつらだな。俺たちを囮にするなんて」
「もう少しでワタシたち、みんな食べられちゃうところだったね」
青と赤の竜が向かい合って会話してます。
「ねえ、あなたたちは一体……?」
「あ? 決まってるだろ? 守護精とか言うやつだろ?」
「え、ええ、でも?」
「そうそう、リーナ様、生まれたての私たちに名前を付けてもらいませんか?」
「な、名前??」
「おう、カッコいいのにしてくれよな!」
そんな……突然……言われても。
いろんなことが起きて……頭の中が……
勇気のスキル?の青いドラゴンと?
慈愛のスキル?の赤いドラゴン?
これが、
私にとっての、
―――その後、街の人たちが教会へと集まり―――
突如まばゆい光が発生し、黒竜が退散した現地に市民たちがおそるおそる周囲を警戒しながら集まる。
集まった市民の中にリーナの両親の姿もあった。
「あなた……あの子はもう……」
「悪いことをした。でも……こうすることしか……」
なにもない廃墟。生存者はいないと思われていたが……
しかしそこには、二人の元気な子どもの姿が。
「お前たち! 無事だったのか!」
その子らの父親らしき人物が駆け寄り、子どもを抱きしめる。
周囲も黒竜がいた場所で発見された子どもたちを見守る。
「お前たちどこにいたんだ? 何ともないのか?」
「うん! 大丈夫!」
元気よく頷く二人。
そして目の前で起きたことを説明するのだった。
「あのね、あのね! おっきな竜がそこまでやって来たんだよ」
「こう、ぐわーって!」
「でもね、お姉ちゃんが助けてくれたんだ!」
「お姉ちゃん?」
「リーナお姉ちゃんだよ」
「リーナが助けたのか!?」
「うん!」
自分たちの娘の名を聞いた両親が、たまらず駆け寄り問いただす。
「で、どうなったんだ!? リーナは!?」
「倒してくれたよ」
「倒したって……?」
「あのね! 二匹の竜が生まれてね、倒してくれたんだ!」
「二匹の竜……だと?」
「すっごく強くてかっこよくて!」
「青くて、赤くて!」
「青いのがおっきい悪い竜をやっつけて!」
「赤いのがケガを治してくれたんだ!」
「リーナが……まさか……」
「で、リーナは? リーナはどこに?」
「あー そうそう。お姉ちゃんがみんなによろしくって」
「よろしく?」
「これから旅に出るんだって!」
「旅に……」
―――振り返ることなく街を出て数時間―――
私はそのまま何も告げずに街を去りました。
まだ世界には自分の才能が孵化しないで苦悩する人達がいるはずです。
彼らを励ますためにも、私は世界を旅することに決めたのでした。
私の大切な能力は、私だけのものに留めておくには強すぎます。
これはみんなのために還元されてこそ、真の力が発揮されるというのも。
「なー いきなり旅に出るって、ちょっと急すぎないか?」
「そうかしら? よい機会じゃないかしら?」
私の右前方をパタパタと羽ばたく、青い竜が不安そうにつぶやきます。
それにしても、いつでも家を出れる準備をしていて助かりました。
背中には大きなバックパックが一つ。
今の私の全てです。
「もうちょっと準備してからの方がいいよ。リーナ様? だって服装だって……」
「じゃあ、次の街で装備品でも整えましょうか?」
左側をふわふわ浮く赤い竜が、そう心配します。
「じゃあ、次の街に着いたら、まず腹ごしらえだな!」
「あっ!」
「どうしたの? リーナ様?」
「……お金、持ってないかも」
「ほらやっぱり! 戻りましょうよ」
「まあ、なんとかなるでしょう」
二匹の不安そうな顔とは裏腹に、今の私はとても清々しい気分でいました。
ようやく私が私に成れたようで!
街を出たこともない、旅の基本知識も全くない。
なんの特技もスキルもない私が、急に旅だなんて?
前途多難すぎる?
無謀じゃないかって?
大丈夫です。
心配いりません。
不安もありません。
だって、私には勇気と慈愛の頼れる竜が、二匹も側にいるのですから……
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