第9話 苔テラリウム


先日わたくし

可愛い雑貨屋さんで

苔テラリウムを見つけました



小さなグラスの中に

自然の風景が再現された


その小さな世界が

ものすごく可愛いのです!



並んでいるグラスの中でも特に

苔むした日本庭園を模したグラスが

わたくしのお気に入り



小さなグラスに

顔を近づけますと



緑の苔に覆われた

小さな庭が広がり

可愛い古民家が佇んでいます




眺めていますと

その庭に

引き込まれてしまうような感覚に襲われます




☆☆☆☆☆☆☆☆




気がつくと

わたくしは庭の中を歩いていました



足元の苔にふれると

ふわふわと柔らかく


わたくしは

苔を踏まないように

飛び石を進みます



頭上の木々からは

木漏れ日が降り注いでいます




古民家の玄関に入ると

懐かしい木の香りが

鼻をくすぐります



わたくしは

靴を脱ぎ

畳の上に足を踏み入れました



和室の真ん中には

すでに火が入っている

囲炉裏がございます



パチパチと

薪のはぜる音が静かに響き

暖かな光が

部屋全体を包み込んでいます



わたくしは

その火を見つめながら

何とも言えない安心感に包まれます



炎のゆらぎには

人の心を

リラックスさせる効果があると

言われております



わたくしも

この火を見つめているだけで

自然に頭の中のざわつきが

収まっていくのを感じます



開かれた障子の向こうには

緑の庭が広がり

その静けさはまるで

時間が止まってしまったかのよう




しばらく

庭を眺めておりましたら

白い猫が

ひょいっと和室にあがってきました



毛並みはふわふわと

まるで雲のように

柔らかそうでございます



瞳は澄んだ青色で

好奇心に満ちており


人懐っこく

わたくしの膝に乗ってきました



わたくしは

そのぬくもりを感じながら

静かに手を伸ばして

猫の頭を撫でます



柔らかな毛の感触が指先に伝わり

猫は満足そうに

喉を鳴らし始めました



やがて

猫はそっと膝を離れ

再び庭の方へと歩き出します



わたくしはまた

囲炉裏に目を向けます



流れてくる煙に涙して

目をこすりますと



苔テラリウムの

グラス越しに見える景色は

再びその小さなガラス容器の中に

収まっていました




よく見ますと

古民家の屋根の上で

先程の白い猫がお昼寝しています



わたくしは

苔テラリウムの

育て方の説明書をもらって

猫と一緒に帰るのでございます


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