第2話

 クリスマス会までに、道子は、オレンジ色の大・小二つずつ、赤色と青色の小一つずつ、合計六つのバザー用の帽子を編み上げた。それを一つ一つ丁寧にラッピングして、バザーコーナーに持ち込んだ。

 イベントが始まると、道子たちはホールに集まり、スタッフの出し物や、保育園児による歌や劇、ゲームなどを楽しんだ。イベントを終えて、バザーコーナーへ戻ると、赤と青の小さなニット帽が二つ、売れ残っていた。

 優子が会場を片付けながら道子に話す。


「残念……。私、毛糸の帽子、狙ってたのになぁ」


「そう言うと思って……」


 バッグから包装紙に包んだ緑色のニット帽を取り出し、こっそり優子に手渡す。


「他の皆さんには、内緒よ。私からクリスマスプレゼント♪」


「え? うわっ! ポンポン付きだ! めちゃ可愛い! ありがとうございます!」


小声で優子が言う。優子用に編んだ帽子には、少し凝ったデザインが施してあった。


「年末に友達と、スキーに行くんです! 被って行きますね! めちゃ嬉しい!」


 他の人の目に触れないように包みに戻しながら、何度も礼を言うと、足早にロッカールームに消えていった。


 帰り際、優子がこっそりバザーの売り上げ(献金箱)にお金を入れているのを見た。帽子代を入れていたのだろう。律儀で、人が気付かないような細やかな気配りや優しさがある、優子のそういうところが、私は好きだ。


 売れ残った赤と青の小さなニット帽をバッグに戻し、家路に着いた。いつものようにスタッフさんと別れた後、墓地に向かう。



 今日は『今季一番の寒さ』と朝のニュースで言っていたことを思い出す。この温暖な地域でさえも、今日は、空が濃い灰色の雲で覆われ、今にも雪が降りそうだ。道子は六地蔵に手を合わせ、水子地蔵に向かう。六地蔵は、赤いほっかむりをしていたが、水子地蔵は何も身につけていない。


「お地蔵様、寒かろうに」


道子は、バッグに小さなニット帽があることを思い出す。


「そうじゃぁ、お地蔵様、この毛糸の帽子を被りなさらんか?」


小さなお地蔵様に、赤と青のニット帽を被せた。


「一つ、足りませんな……」


「そうじゃぁ。お地蔵様、使い古しで申し訳ないですが、私の帽子を被ってください」


そう言うと、道子は自分が被っていた、お地蔵様には幾分大きい紫色のニット帽を被せた。


「これでええ、これでええ。三人お揃いの帽子で可愛らしい」


ご先祖様の墓参りが済む頃には、雪がチラつき始め、道子は家路を急いだ。


***


 その日は、夕方から空は漆黒に染まり、雪混じりの強風が吹きつけ、大荒れの天気となった。古い家屋は、風できしみ、ガラス戸がガタガタと音をたて、時折ゴーっと怪物が唸る様な不気味な音も聞こえる。外で何かが風に飛ばされガシャンと音を立てた。道子は炬燵に入り、テレビで気を紛らわせるも、家が壊れないかとビクビクしていた。


 ふと、風の切れ間に、玄関で規則正しい音が鳴っていることに気付いた。最初は風の音だろうと思っていたが、『コンコンコン』と戸をノックするような音が明確に聞こえる。『こんな日に誰か尋ねてくるわけもなかろうに…』不審に思いながらも、玄関に向かう。やはり、『コンコンコン』とノックする音が聞こえる。


「はい……、どちら様でしょうか……」


恐る恐る声をかけるが、返事はない。


「あの……。何か御用でしょうか?」


 かすかに『みっちゃん……』という声が聞こえる。どこか懐かしい声だ。その声に流され、玄関の鍵を開ける。そこには、赤いニット帽を被ったキヨちゃんと、青いニット帽を被ったテルちゃんと、少しくたびれた紫のニット帽を被ったヨシ兄ちゃんが立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る