十一話 遺跡とはぐれ者①
「ほら、見えてきたぞ」
ふいにリフィーリアの声がして、思考に沈んでいたアルチェは現実に引き戻された。
草が青々と繁った木々の間、彼女が指し示した先にあるのは、古い時代の遺跡群だ。石積みの大きな建物は歳月を語るように崩れ苔むして、生命力溢れる自然の中に埋もれるようにしてそこにあった。
「……思ったよりしっかり形が残っているんだね」
「そうだな。物とかは全然残っていないが、いくつかしっかり形を保っている部屋もあるんだ。小さい頃に、こっそり秘密基地にしたりしていたなぁ」
リフィーリアは懐かしそうに笑うと、建物の脇を指差す。
「そこの奥に階段があって、中に入れるんだ」
「入ってもいい!?」
アルチェが思わず勢い込んで言った時だった。何やら二人が来た方向から、ばたばたと人が走ってくる。焦茶色の見慣れたお仕着せを着ていたため、すぐにエブローティノの館の使用人だとわかった。
「ああよかった、いらっしゃった……」
その雑用担当の少年は全速力で走ってきたらしく、荒い息をつきながら二人に駆け寄ってくる。
「ルース、よくここがわかったな」
「グラムスさんに聞いたんです。アルチェさんが遺跡に興味津々でいらしたので、市場を見終えたらこちらに向かわれるのではないかと」
そう微笑んだ少年は、はっとしたように本題を切り出す。
「実は今、館にシェパリー卿がお見えになっているんです。近くまで来たから、挨拶に寄ったということだったんですが」
「ああ、それは急いで戻った方がいいな」
リフィーリアがルースに頷いた。
「近くに馬車を待たせています」
アルチェを見やった彼女は、それは遺跡の中も見ずに去れないという顔だな、と紫の目を細めて笑う。
「アルチェ、すまないが私は一足先に戻るぞ。帰り道はわかるか?」
「大丈夫、ちゃんと覚えてるよ。ここをしっかり見てから、町をぶらぶら見物して帰るよ」
「わかった。脆くなっている部分もあるから、足元にはくれぐれも気をつけるんだぞ」
リフィーリアはそう言い残すと、ルースと共に急ぎ館へと戻っていった。
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