死なせない

「なんで……なんでいるんだよ、聖ちゃん!!」


 誠也の目の前に現れたのは、紅い髪を伸ばしたエルフの女の子―――焔聖火だった。


「抜け出してきたの……誠くんが心配で」


 槍を持っていた手をカタカタと震わせながら、聖火はドラゴンを睨む。


「今日の誠くん……変だった。それになぜかハンター協会の人達が私と私の家族……そして創造圭おじさん創造結衣おばさんを連れて行った。きっと何かあるんじゃないかなって思ったの」


 聖火はフゥーと息を吐き、槍を構える。


「逃げて、誠くん。時間を稼ぐから」

「ダメ……だ。お前が逃げろ!お前は生きて」

「絶対に嫌だよ!!」


 大声で叫ぶ聖火。

 彼女は泣きそうな顔を浮かべており、その顔を見た誠也は胸が痛くなるのを感じた。


「誠くんが……大切な人がいない人生なんて送りたくない。誠くんがいないなら意味がないよ!」

「聖ちゃん……」

「お願いだから……いなくならないでよ」


 聖火の瞳から流れる水。

 その水は決して雨のものではないだろう。


「グオオォォォォォォォォォォォ!」


 空気が震えるような叫び声を上げたドラゴンは、左前脚を聖火に向かって振り下ろした。

 このままでは聖火は潰されて死ぬ。

 それを理解した誠也は立ち上がる。


(動け!)


 足に力を入れる。


(動け!!)


 手に力を入れる。


(二度と……彼女を死なせない!!)


 誠也は自分の影から大きな斧を取り出す。

 その斧は誠也の身体よりも大きく、とても黒い……そして血管のような赤い紋様が刻まれていた。


 大斧型神器―――《鬼喰い》。


 スキル【鍛冶神】の力と【錬金術士】の力で生み出した金属。そして《吸血女王の心臓》で作った神器。


《鬼喰い》を装備した彼は新たなスキルを発動する。


「〈賢者の全力〉〈最弱化〉……そして〈狂戦神化〉!」


 刹那、誠也の身体から赤黒い稲妻が発生。

 激しい痛みが彼を襲う。

 しかしその痛みを誠也は歯を食いしばって耐える。


「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 地面が砕けるほど強く蹴り、ドラゴンに突撃。

 身体全身を使い、力強く《鬼喰い》を振るう。

 重く、そして速い斧撃はドラゴンの左前脚を斬り飛ばす。


「グオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」


 切断面から大量の血を流し、悲鳴を上げるドラゴン。


「まだ終わってねぇぞ、クソトカゲ!」


 創造誠也は大斧を力強く振り回す。

 強力な斧撃が硬い鱗に覆われたドラゴンの身体を斬る。斬る!斬る!!叩き斬る!!!


「グアアアァァァァァァァァァァァァァァ!!」


 このままでは殺されると理解したドラゴンは口から炎を放つ。

 紅蓮の業火は誠也を包む。

 しかし、


「この程度で止められると思ったかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 炎の中から誠也は飛び出し、大斧を上段に構える。


「ウオオオォォォォォォォォラアアアァァァァァァァァァァァァ!!」


 雄叫びを上げながら大斧を振り下ろす。

 鬼の渾身の一撃はドラゴンの身体を真っ二つにする。

 赤い血が誠也を赤く染める。


 雨は止み、雲は晴れ、太陽の光が誠也を照らす。


「終わっ…た……」


 全ての力を使い果たした誠也は、地面に倒れる。


「誠くん!」


 この日、鬼は……最も憎いモンスターたちを殺し……そして最も助けたかった人を守ることができた。

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