鍛治師は守護騎士になる

「こちらが報酬のものです」

「ありがとうございます」


 関西奪還に成功した後、誠也は林葉から三冊のスキルブックを直接もらった。


「あと二月十日……誠也ハンターの家族と幼馴染を保護すればよろしいのですね?」

「はい……ところで林葉会長?」

「なんでしょうか?」

「ここは……どこなんですか?」


 現在、誠也と林葉がいる場所は、多くの機械が置かれている広い部屋だった。

 その部屋には誠也と林葉だけでなく、白衣を着た科学者のような人たちや黒いスーツを着た人達がいた。


「あの~……本当にどこなんですかここ?というかあの人たちは?」


 デュラハンを倒した後、誠也は軍人たちにこの部屋に連れてこられたのだ。

 理由も知らされずに。


「申し訳ないのですが、あなたのLVやスキルを確認させていただきたいのです」

「え?なぜですか?」

「……話すことはできません。ただ……政府の指示とだけ」

「政府が?」


 林葉の言葉を聞いて、誠也は嫌な予感を感じた。


(なんで政府なんかが出てくんだよ)


 誠也が考えていると、白衣を着た一人の女性が彼の腕に腕輪のような機械を取り付けた。

 するとなにもないところから大きなウィンドウが出現。


「これは……俺のステータス」


 出現したウィンドウは誠也のステータスだった。

 ステータスに書かれたLVやスキルを見て、林葉は目を見開き、科学者のような人たちは騒然とし、スーツ姿の人達は呆然とする。


「ん?なんだあのスキルは……」


 ステータス画面の下の方に、誠也でも知らないスキル名があった。


<><><><>


 ユニークスキル:【鍛冶神ヘファイストス】〈鍛冶神の手袋〉神器を作成することができる手袋を生み出すことができる。

         【狂戦神化ベルセルク】〈狂戦神化〉一時的に身体能力、肉体強度、体力、技量を爆発的に強化することが可能。ただし発動中、激しい痛みに襲われる。


<><><><>


(【鍛冶神】?【狂戦神】?いつの間に手に入れたんだ?)


 誠也が不思議に思っていると、


「誠也ハンター」

「は、はい。なんでしょう林葉会長」

「あなたに新たな依頼……いえ、命令します」

「命令?」

「あなたには……守護騎士になってもらいます」

「はぁ!?」


 ハンター協会会長の発言に、誠也は驚愕する。


「突然なんですか!守護騎士になれって……冗談か何かですか?」

「冗談ではありません。あなたには守護騎士になってもらいます」

「……理由を聞いても?」

「あなたの力は異常です。LVもスキルの数も……普通の人ではありえません。そして一番の理由は……あなたがユニークスキル持ちだからです」

「ユニーク……スキル?いったい何なんですか?」

「……ユニークスキル。別名、神のスキル。どのような方法で手に入るか分からないスキルであり、あらゆる不可能を可能にする力でもあります」

「そんな大げさな」

「……誠也ハンター。織田信長やジャンヌ・ダルクは知っていますか?」

「え?えぇ……名前ぐらいは」

「彼らのような歴史に名を遺す人物はユニークスキルを持っていました」

「え?……そうなんですか?」

「はい。ユニークスキルを持つ者は最悪な魔人にもなりますし、もしくは人々を救う英雄にもなります。つまりあなたは……英雄にも魔人にもなります」

「……」

「我々人類はあなたの力が必要なのです。どうか……あなたの力を貸してください」

「……申し訳ありませんが、断らせてもらいます。俺は魔人にも英雄にもなるつもりはない」


 誠也には夢があった。

 もし……もし二月十日……あの最悪な日を……千体のモンスターを殺すことができたのなら、ただの鍛冶師として生きようと心に決めている。

 両親の跡を継ぎ、鍛冶師として生きていく。

 それが誠也の夢であり、望みだった。


「俺は鍛冶師です。魔人でも英雄でもない。どこにでもいる……ただの鍛冶師として生きたいんです」

「……残念ですがそれは諦めてください」

「ふざけないでください。俺じゃなくてもいいでしょう。だいたい人類を救いたければ他にもユニークスキル持ちを」

「三人」

「え?」

「あなたを含めて三人しかいないのです。ユニークスキル持ちは」

「……日本だけで?」

「いえ……全世界を探して見つかったのが三人しかいないのです」


 三人……それはあまりにも少なすぎる数。

 つまり……希少なのだろう。ユニークスキル持ちは。


「この世界の半分以上はモンスターたちによって支配されています。人類が奪還するにはあなたのような人が必要なのです」

「だからって……俺の意思はどうなるんですか」

「それは……」

「俺に夢を諦めろというのですか?俺が平穏に暮らすのは……ダメなのですか?」

「はい」

「……いい加減にしろよ」


 誠也は眉間に皺を寄せて、林葉を睨む。

 彼の殺気が強すぎるあまり、床や壁に皹が走り、大きく揺れ始めた。

 科学者のような人たちは怯え、スーツ姿の人達は拳銃を取り出し誠也に向ける。


「なんで俺がアンタらの言うことを聞かないといけない」

「金や地位は与えます」

「いらねぇよそんなもの。俺は……鍛冶師だ。武具や防具を作るのが仕事なんだ。俺はアンタらの道具になるつもりはない!」

「誠也ハンター」


 林葉は床に膝をつけて、頭を下げる。

 突然、土下座をしてきた彼女に誠也は驚く。


「あなたが守護騎士になりたくないのは重々承知しました。ですが……人類が生き残るにはあなたの力が必要なのです」


 この世界は人が生きるにはあまりにも厳しい。

 人間、獣人、妖精……ありとあらゆる種族が協力し合い生きている。

 だがあまりにもモンスターが凶暴で強すぎるがため、とても生きるのが難しい。

 

 それは誠也でも理解している。人が生き残るには……誰かが、それも強い者が戦わなければならないと。


「どうしても……やらないといけないんですか」

「……はい」


 誠也は俯きながら、ガリっと歯噛みした。


「クソが……」

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