スキル

「ハァ…ハァ……ハァ……」


 口から荒い息を漏らしながら、地面に座る誠也。

 彼の周囲には血を流しながら倒れているゴブリンたちの姿があった。


「さ、流石に……疲れた」


 いや、本当に疲れたよ。

 一時間ぐらいずっとゴブリンと戦ったから、体力がほとんど残ってないよ。

 もう返り血で服は赤くなってるし、ボロボロ。

 これ絶対、母ちゃんは怒るだろうな……。

 父ちゃんは心配するだろうな……。


「ステータスオープン」


 誠也は自分のステータスを確認する。


<><><><>


 ステータス

 名前:創造誠也

 年齢:五歳

 種族:人間

 LV:23

 スキル:【鍛冶師】〈鍛冶〉武具や防具の製作、修理、強化が可能。製作能力が上昇。


<><><><>


「これだけ倒せば、そりゃあ上がるよな」


 ニ十匹以上のゴブリンと戦ったかいはあったようだな。

 めっちゃ疲れたけど。

 やっべ、ゲロ吐きそう。


 誠也が口に手を当てて、吐くのを我慢していた時、なにもないところから三つの木の箱と石でできた門が出現した。


「どうやら攻略成功みたいだな。さて、報酬はなにかな」


 ダンジョンを攻略すると、宝箱と外に出ることができる門が現れる。


 いったいどういう仕組みになってんだろうな。

 不思議だわ~……。


「さて報酬はなにかな」


 誠也はゆっくりと立ち上がり、木の箱に近付く。


「まずは一つ目」


 誠也は木の箱を一つ開けた。

 中に入っていたのは、十枚の金貨と三個の宝石だった。


「金貨と宝石か……今は別にいらないけど一応もらっておこう」


 誠也は金貨と宝石を腰につけていたウエストバックにしまう。


「さて……次は何が入ってるかな」


 誠也は二つ目の木の箱を開け、ガッツポーズした。


 しゃあ!ついにアレがきた!!


「これだよこれ!俺が欲しかったのは」


 箱に入っていたのは、一冊の分厚い本。

 その本は誠也が求めていた物。


「こんなに早くスキルブックが手にはいるとは思わなかったな。ラッキー」


 スキルブック。読むだけでスキルが手に入る特殊アイテム。


 売れば数百万にもなるが、俺は売るつもりはない。

 スキルが手に入れば、俺がさらに強くなれる。

 仮に戦闘系のスキルじゃないとしても、何かしらの役には立つ。


「さて。さっそく読んでみるか……初めて使うけどどんな感じなのかな」


 誠也はスキルブックを手に取り、開いた。


 ……うん。ぜんぜん読めない。

 スキルブックに書かれた文字は見たことない。

 日本語でも、英語でもないな。

 というか人間が読める文字じゃないね、これ。

 なんか厨二病が考えて書いたような文字みたい。

 本当に読むだけでスキルが手に入るのか?


 誠也が疑問に思っていたその時、スキルブックが蒼い炎へと変わった。


「うわっ!なに!?」


 突然のことに驚く誠也。

 そんな彼の胸に蒼い炎が吸い込まれる。

 直後、誠也の頭の中に知らない知識が流れ込んできた。


 なんだ……これ!?

 身体が温かくなるのを感じる。

 これが……スキルを手に入れた感覚なのか?


「ステータスオープン」


 誠也は自分のステータスを表示する。


<><><><>


 ステータス

 名前:創造誠也

 年齢:五歳

 種族:人間

 LV:23

 スキル:【鍛冶師】〈鍛冶〉武具や防具の製作、修理、強化が可能。製作能力が上昇。

     【鑑定士】〈鑑定かんてい〉あらゆるものを細かく知ることができる。


<><><><>


「増えてる……スキルが。これがスキルブックの能力か」


 自分のステータスを見て、誠也は驚いた。


 なるほど。

 スキルブックが一冊数百万する理由が分かった。

 読むだけで、こんな簡単にスキルが手に入るんだ。

 逆に数百万しない方がおかしい。


「でも……戦闘系スキルか魔法系スキルじゃないのが残念だな」


 誠也が欲しかったのは、戦うことができるスキル。

 戦闘系スキルが一つでもあれば、戦いやすくなるし、戦闘の幅が広がる。

 特に魔法系スキルは万能で、戦闘系スキル以上に使える。


 いや~そう簡単に手に入らないか。

 ファイアーボールとか、アイスランスとかちょっとやってみたかった。

 まぁ、しゃあないか。


「さて、最後の箱には何が入っているかな」


 誠也は最後に残った木の箱を開ける。

 箱の中に入っていたのは、小さな布の袋だった。


「なんだこの袋?……試しに【鑑定士】を使ってみるか。〈鑑定〉」


 誠也が【鑑定士】を発動させると、目の前に半透明なウィンドウが出現した。


<><><><>


 次元袋じげんぶくろ

 どんな大きなものだろうと収納することができる袋。

 容量は無限。

 いくら収納しても重さは変わらない。


<><><><>


「へぇ~便利だな。この袋も、【鑑定士】も」


 予想以上に使えるな、このスキル。

 望んだものではないが、手に入ってよかった。

 ていうかこの次元袋さえあればリュックとかいらなくないか。


「とりあえず帰るか」


 次元袋をリュックにしまい、誠也は門をくぐった。

 門をくぐった先にあったのは、森の中。

 どうやら元の場所に戻ったようだ。


「戻ってきたのか」


 誠也がそう呟いた直後、石の門が崩壊した。

 ダンジョンは一度でも攻略されると崩れるようになっている。

 

「あ~終わった……家に帰ったら早めに風呂に入って寝よ」


 誠也は背伸びしながら家に向かって歩き出した。


<>


 森を出て、歩道を歩く誠也。

 昼だというのに人は少なく、街の中を歩いていたのは彼だけ。


 いや~人がいなくて、助かったわ~。

 今の俺、モンスターの返り血で服とか赤くなっているから。

 見られたら絶対に警察に通報されるだろうな。

 というか何度か警察のお世話になって、親に怒られたけど。


「今日は警察に連れられる心配はないな」


 あと少しで誠也が家に到着しようとした。

 その時、


「せ、誠くん?」


 一人の幼い少女と出会う。

 その少女は誠也が知っている子だった。


「聖ちゃん」


 誠也の視線の先にいたのは、幼馴染の女の子―――焔聖火。

 彼女は驚いた表情で誠也に近付く。


「どうしたの!そんな血だらけになって!怪我もしてるし」

「いや……これはその……」

「まさかモンスター狩りをしてきたの!?」

「えっと…それは……はい」


 誠也が認めると、聖火は彼の手を強く掴む。


「ウチに来て」

「え?いや」

「いいから来て!」


 聖火は誠也を引っ張った。


 ちょ、聖ちゃん……力つよ!


<>


 聖火が誠也の手を引っ張って連れてきたのは、彼女の家だった。


「あがって」

「え?いや…そういうわけには」

「いいからあがって」

「はい」


 誠也は聖火の家に入った。

 すると聖火は誠也を風呂場に案内する。


「お風呂場で血で汚れを流して」

「いや……それはウチでも」

「いいから……入って」


 笑顔を浮かべながら圧を放つ聖火。

 彼女の言葉に誠也は「はい」としか答えられなかった。


 こっわ~……なんか聖ちゃんこわっ。

 母ちゃんとは別の意味で怖い。

 こりゃあ、聖ちゃんの旦那になる人は苦労するだろうな。


<>


 シャワーで血と汚れを流しながら、誠也は身体のあちこちについた傷を見る。


「ちょっと無理しすぎたな」


 切り傷に打撲の跡。

 ゴブリンの攻撃を受けてなった怪我だった。

 いくらLVが高くても、怪我はする。


「だけど……未来を変えるにはダンジョン攻略しないと」


 ダンジョンを攻略すればLVが上がり、スキルが手に入る。

 ならこれからもダンジョン攻略をしてやる。


「絶対に……未来を変えてやる」


<>


 風呂を上がると、新しい男の子用の服が用意されていた。


「いつも思うけど聖ちゃんって準備いいよな」


 本当に準備がいい。

 タイムリープ前もそうだったけど俺が聖ちゃんの家に泊まる時とか、俺の服を準備してるんだよな。

 しかもサイズはピッタリ。

 ただ……なぜか脱いだ俺の服とかなくなっている時があるんだよな。

 特にパンツとか。


「とりあえず服を着るか」


<>


 服を着た後、誠也が風呂場から出た。

 すると風呂場の前にいた聖火は彼の手を引っ張り、部屋に移動する。

 部屋の中はぬいぐるみが多く置かれており、いかにも女の子の部屋という感じだった。


「傷、見せて」

「え?いや、でも」

「見せて!」

「はい…」


 誠也は上着を脱いで、上半身裸になる。

 彼の上半身のあちこちにある切り傷と打撲の跡を見て、聖火は悲しそうに顔を歪めた。


「……本当にモンスターと戦ったんだね」


 聖火は近くに置いてあった救急箱から消毒液やガーゼを取り出し、誠也の怪我を手当てする。


「もう……なんでモンスターと戦うの?」

「必要なことなんだ」

「なんで必要なの?」

「それは……言えない」


 未来を変えるためとは流石に言えないよな。

 自分がタイムリープしたなんて馬鹿なこと……言えるわけない。


「どうしても?」

「どうしても」

「そっか……ならせめて一つ約束して」


 聖火は誠也を優しく抱き締める。


「ちょ、聖ちゃん!?」

「死なないで」

「聖ちゃん……?」

「私……誠くんがいない世界は嫌だよ。もし死んだら……」


 真っ黒に染まった瞳で誠也を見つめながら、聖火は告げる。


「絶対に……許さない」


 その言葉を聞いた時、誠也は悪寒を感じた。

 首に冷たい首輪をつけられ、逃げられないように全身に鎖が巻き付いたような感覚が彼を襲う。


 なんだ……一瞬、聖ちゃんがこの世のものとは思えない化物に見えたような。


「わ、分かった。約束する」


 誠也はそう言うしかできなかった。

 約束できないなど、口が裂けても言えなかったから。


「その言葉……信じるよ。もし破ったら―――」


 聖火は小さな声で、だけどハッキリと言う。






「次は死なないように……監禁するから」

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