ステータス

  過去に戻った誠也は一週間……ずっと考えた。

 どうすれば故郷を滅ぼされずに済むのか?

 どうすれば家族を助けられるのか?


 どうすれば……幼馴染は死なずに済むのか?


 足りない頭を使って、考え、考え、考え続けた。

 そして考え続けた結果、彼は答えにたどり着く。

 答えはいたってシンプル。


 

 強くなればいい。



 故郷を滅ぼすモンスターの大群を。

 両親と幼馴染を殺すモンスターの大群を。

 一匹残らず全て殺せるぐらい強くなればいい。


 だがモンスターの大群を全て殺すほどの強さを手に入れるのはそう簡単じゃない。

 分かっている。簡単じゃないってことは。

 だけどやるしかない。

 やらなくてはならない。

 また大切なものを失うのはごめんだ。

 大切なものを守るためなら俺は、




 鬼になってやる。


<>


 午前九時ニ十分。

 太陽の光が差し込む森の中で誠也はゼリー状の丸いモンスター、スライムを狩っていた。


「やぁ!」


 誠也は右手に握り締めた銅の短剣をスライムに突き刺す。

 ゼリーをフォークで刺すような柔らかい感触が右手に伝わってくる。


「ピギャー!」


 小さな悲鳴を上げたスライムはブルブルブル!と激しく震える。

 そしてゼリー状の身体は液体へと変わった。

 残ったのは白く発光する小石―――魔石のみ。


「ふぅ……少し疲れたな」


 吐息をつきながら誠也は魔石を拾い、腰につけていたウエストバックにしまう。

 ウエストバックには十個の魔石が入っていた。


「スライム討伐と魔石回収完了だな」


 誠也は銅の短剣を鞘に戻す。


 これで討伐したスライムは十匹目。

 そろそろレベルも上がっているかな?


「ステータスオープン」


 誠也がそう言うと、彼の目の前に半透明なウィンドウが出現した。


<><><><>


 ステータス。

 名前:創造誠也

 年齢:五歳

 種族:人間

 LV:3

 スキル:【鍛冶師】〈鍛冶〉武具や防具を製作、修理、強化が可能。製作能力が上昇。


<><><><>


 おっ、レベルが1上がった。

 この調子でレベルを頑張って上げるか。


 この世にはゲームのようなLVやスキルが存在する。

 LVは身体能力、肉体強度、そして体力を数値化したもの。

 LVが上がれば上がるほど、身体能力などが強化される。

 つまりLVが高ければ高いほど超人じみた力を使うことができるのだ。


 タイムリープ前の誠也はレベル上げをまったくしなかった。

 というかほとんどの人はしていない。

 LVを上げるにはモンスターを倒さなければならないから。

 危険なモンスターと戦おうとする人は、普通いない。

 だけど強くなるにはこれしかない。

 十年後にはモンスターの大群が故郷を滅ぼす。

 モンスターの大群と戦うには、最低でもLVの上限値である50まで上げなければならない。


 やってやるよ。大切なものを守るためなら、俺はモンスターを狩りまくってやる。

 そしてLVを50にしてやるぜ。


「問題はスキルなんだよな……」


 自分のステータスを見ながら、誠也は難しい顔をする。


 スキルは特殊能力だ。

 必ず誰もが一つか二つはスキルを持っている。


 スキルは重要だ。

 だから困ってんだよな~。

 俺が持っているスキルは、【鍛冶師】のみ。

 これしかない。

 これしかないんですよ、ちくしょうが。

【鍛冶師】だけじゃあ、モンスターの大群を倒すなんて無理ゲーだ。


「はぁ……本当にどうしよう」


 スキル【鍛冶師】は特殊な力を宿した武具や防具を作ることができる製作系スキル。

 ありふれたスキルだが、役には立つ。

 だが戦闘では役には立たない。

 せめて【戦士】か【剣士】だったら戦いやすかったんだろうけど。


「一応、別のスキルを手に入れる方法はあるけど……今の俺じゃあ無理だしな。とりあえずLV上げをするか」


 今はLV上げに集中するしかない。

 だけどスライムを狩りまくっても、なかなかLVが上がらないんだよな……。

 そりゃあ、さぁ…LV上げは結構大変って知ってたけど、こんなに大変なの?

 LV50……なれるかな。


 十年後にはLVを50まで上げないといけない。

 そう思うと、誠也は肩が重くなるのを感じた。


「とりあえずまたスライムを狩るか」


 誠也はスライムを探そうとした。


 その時、後ろから足音が聞こえた。


 彼は鞘から鋼の短剣を抜き、振り返る。


「おいおい……まさかコイツに会うとはな」


 誠也は頬から一筋の汗を流す。

 視線の先にいたのは二足歩行している犬。

 顔は犬で、首から下は人間の人型モンスター。

 身体は毛皮で覆われており、両手の指から鋭い爪を伸ばしている。


 コボルドだ。


 まったく……こいつを見ると、コボルドに殺されたのを思い出す。

 自然と手が震える。

 どうやら俺は怖いんだな……コボルドが。


「グルルルルル」


 コボルドは誠也に近付いてくる。

 涎を垂らしながら、誠也を見ている。


 どうやら俺を餌だと思っているようだな。

 そうだよな。人間の子供なんてコボルドには餌にしか見えないよな。

 だけど残念だな。

 俺は餌になるつもりはない。


 狩られるのは……お前だ。


「来いよ。お前の爪で剣を作ってやる」


 両親に黙って倉庫から取ってきた銅の短剣を、誠也は構える。


「ワオオオォォォォォォォォン!」


 コボルドは雄叫びを上げて、駆け出した。

 突撃してきたコボルドは爪を伸ばした右手を振るう。

 誠也はギリギリ爪をかわす。

 

 あっぶね!頬にかすった!


「ワオオオオォォォン!!」


 コボルドは両手の爪を振るい、怒涛の連撃を放つ。

 誠也は攻撃をかわし、かわせない攻撃は短剣で防ぐ。

 金属音が鳴り響き、火花が飛び散る。


 くっ!こいつ、強い!


 かわすことと、防ぐことしかできない誠也は後ろに下がっていく。

 そして誠也の背が木にぶつかる。


 クソッ!これ以上は無理か!


「ワオオオォォォォォォォォォォォォン!!」


 コボルドは誠也の首を切り裂こうを爪を振るう。

 犬人の爪撃が彼の首を切り裂こうとした。


 その直前、誠也は短剣で爪を弾く。


「ワォン!」

「悪いな……まだ死ねないんだ…よ!!」


 誠也はコボルドの足を強く踏み、頭突きする。


「キャイン!?」


 短い悲鳴を上げたコボルドは、地面に倒れる。


 今だ!!


「やあああああああぁぁぁぁぁ!!」


 誠也はコボルドの首に短剣を突き刺した。

 肉を刺す生々しい感触が彼の手に伝わる。

 赤い血が飛び散り、血の臭いが誠也の鼻を刺激した。


 これが生物を殺す感覚。

 スライムを狩るのとは全然違う。

 だが止まるな、俺。

 生き残るためには、止まるな。

 モンスターを殺すのを、慣れろ。

 じゃなければ、死ぬぞ。


「死ね!」


 コボルドの首から短剣を引き抜き、もう一度刺す。

 刺す!刺す!!刺す!!!

 赤い血が誠也の頬や服に飛び散り、血の臭いが充満する。


「ワ…オオン」


 コボルドの口から血が流れる。

 ビクンビクンと何度か痙攣した後、犬人モンスターは動かなくなった。


 やった……みたいだな。


「はぁはぁ…はぁ~」


 荒い呼吸を落ち着かせ、誠也は地面に座り込む。

 初めて……スライム以外のモンスターを殺した誠也。

 彼が持っていた鋼の短剣は赤く染まっていた。


 やった。やってやったぜ、この野郎。


<>


 少し休んだ後、誠也は短剣でコボルドの爪や毛皮を剥ぎ取り、体内にあった魔石を取り出す。

 モンスターの爪や皮などは武具や防具を作るために必要な素材。


 戦闘系スキルは持っていないけど、俺には製作系スキル【鍛冶師】がある。

 このスキルを使えばモンスターの素材で特殊な武具や防具を作ることが可能。

 ならやるしかないよな。武具、防具製作を!

 とうかやらない選択肢はない。

 だって俺、弱いし。

 少しでも戦闘を楽にするにはいい武器を装備しないといけない。

 はぁ~……戦闘系スキルがあればな~。


「素材集め完了っと。じゃあ、帰って作るか。俺の装備を」

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