決意

「落ち着いた?誠くん」


「うん。もう大丈夫だよ、聖ちゃん」




 泣き止んだ誠也は心配かけてしまった幼馴染と両親に謝罪する。




「ごめんね。聖ちゃん、父ちゃん、母ちゃん。心配かけちゃって」


「そ、そうか?」


「誠也が泣くなんて珍しいから驚いちゃったよ」


「本当にごめん。母ちゃん、父ちゃん。……もう平気」




 鼻をズズズと鳴らして、笑みを浮かべる誠也。


 そんな息子を見て、結衣と圭はホッと安堵する。




「また怖い夢を見たら言え。母ちゃんがそんな夢、ぶっ飛ばしてやる」


「頼もしいよ、母ちゃん」


「今日は父ちゃん達と一緒に寝よっか」


「ちょっと恥ずかしいけど……そうしようかな」




 またこうして両親と話すことができて、誠也は嬉しかった。


 そして一番嬉しかったのは……幼馴染と再会できたことだ。




(本当に……過去に戻ったんだな)




 幼い頃の聖火を見て、誠也は改めてそう思った。




 焔聖火。エルフの女の子。


 家が隣同士だというのと、名前が似ているからという理由で仲良くなった。


 聖火は誰よりも優しく、性格が明るい。コミュニケーション力が非常に高く、誰とでも仲良くなり、多くの友人を持つ。




「本当に大丈夫?遊園地はまた今度にする?」


「遊園地?」




 誠也は首を傾げる。


 いったいなんのことだ?と思っていると、圭が説明する。




「この前、誠也が抽選で当てた遊園地のチケットで僕たち家族と聖火ちゃんの四人で遊園地に行こうって約束したんだよ。もしかして忘れてた?」


「え?あ~ごめん。今、思い出した」




 誠也は頭を掻きながら、誤魔化す。




「記憶力が高いお前にしては、忘れるなんて珍しいな」


「ごめん、母ちゃん」


「謝ることはない。ほら、さっさと飯を食って準備しな」


「うん」




 誠也は席に座って、父親が作った朝食を食べることにした。




「いただきます」




 彼は綺麗に焼かれたベーコンエッグや野菜がたくさん入った味噌汁を食べる。




(おいしい……そして懐かしい味だ)




 そう思いながら、よく味わって食べる誠也。




「ごちそうさま」




 五分後には誠也は朝食を食べ終えた。


 そんな息子の姿を見て圭と結衣はポカーンと呆然とした。




「誠也……こんなに早く食べてたっけ?」


「いや、いつもならもっと時間が掛かっていたが」




 朝食を食べ終えた誠也は、洗面所で歯磨きをして、部屋に戻った。




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「まさか死んで気が付いたら……過去に戻っていたなんて」




 出かける準備をしていた誠也は今の状況がまだ信じられなかった。


 だが信じられないのも無理はない。


 モンスターに殺されたかと思えば、五歳の頃の自分に戻っていたのだ。




「まったく……フィクションかよ」




 そう言う彼は笑みを浮かべていた。




「信じられないけど……現実なんだな」




 自分の部屋の中を見渡して、誠也は懐かしい気持ちを抱く。


 そして同時に……悲しくなった。




「十年後には……この家もなくなるんだよな」




 今から十年後。


 誠也が暮らしていた家はモンスターたちによって跡形もなく壊される。


 そして両親や幼馴染は命を堕とす。




「……いや、今はこのことは忘れよう。今だけは」




 頭を左右に振った誠也は、財布が入った鞄を持って部屋を出た。




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 その後、誠也は両親と幼馴染と一緒に遊園地にやってきた。




「うわ~すご~い!」




 メリーゴーランドや観覧車、そしてジェットコースターなどのアトラクションを見て聖火は瞳を輝かせた。




「誠くん。早く乗ろう」


「う、うん」




 聖火は誠也の手を引っ張り、遊園地の中を走った。


 それから二人で色々なアトラクションを楽しんだ。




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「ハァ~遊んだね~」




 ベンチに座って満足した表情を浮かべる聖火。


 そんな彼女の隣では、疲れた顔で誠也はベンチに座っていた。




(せ、聖ちゃんこんなに体力あったけ?いや……俺が体力ないのか)




 一日中、聖火と一緒に遊園地で遊んだ誠也はもう疲れて一歩も動けない状態になっていた。


 空はもうオレンジ色に染まっており、少し寒い風が流れていた。




「ありがとね、誠くん」


「え?」


「誠くんのおかげで、楽しかったよ!」




 満面な笑顔を向けてくる聖火。


 そんな彼女を見て、誠也は微笑む。




(どうして過去に戻れたか分からないけど……またこの笑顔が見れて本当に良かった。……だけど十年後には)




 暗い表情を浮かべて、誠也は俯く。




(……いや、過去に戻れたなら変えられるかもしれない。家族も……幼馴染も助けられるかもしれない)




 ギュッと拳を握り締め、誠也は瞳に強い意志を宿す。




 もう誰も死なせない。


 もう失わせない。


 なにがなんでも守ってやる。




「ねぇ聖ちゃん」


「なに?」


「叶えたい夢ってある?」


「うん!あるよ……誠くんには内緒だけど」


「……きっと叶うよ。今度は」




 聖火の夢がなんなのかは、誠也には分からない。


 けれどその夢を叶えられるようにすることはできる。


 彼女が夢を叶えた所を見るためにも、誠也は誓う。




(絶対に……聖ちゃんを……家族を死なせない)

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2024年9月20日 12:00
2024年9月21日 12:00
2024年9月22日 12:00

リトライ~過去に戻った鍛治師は幼馴染みと家族を死なせないため、めちゃくちゃ強くなります!~ @gurenn1950

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