鍛冶
家に帰った誠也は工房に向かっていた。
誠也の両親は鍛冶師として働いていて、ハンターや守護騎士のために武具や防具を作っている。
「今日は出かけているからいないはず」
工房の中に入った誠也は手に持っていたコボルドの素材を机の上に置く。
工房にあるのは鍛冶道具と炉のみ。
金属の臭いが充満している。
「さて……作るか」
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「やっと買い物…終わったな」
「そうだね」
スーパーで買い物をしてきた結衣と圭はパンパンに入った袋を持って、家に帰ってきた。
「そういえば誠也はどこ行った?」
「森にまた行ってんじゃないかな」
「ここ最近、森によく行くな」
「心配?」
「まぁな。森にはモンスターがいるからな」
「大丈夫だよ。あの子、危険なことがあったらすぐ逃げるから」
「それもそうか」
「そうだよ。……それはそうと結衣さん。僕が作った銅の短剣…知らない?」
「どうの短剣って、あの安物のやつか?」
「そう。なんかいつの間にかなくなってて。別になくても問題ないやつなんだけど……ん?」
「どうした?」
「なんか……音が聞こえない?」
結衣と圭は耳を澄ませた。
するとカーンカーン!となにかで金属を叩く音が聞こえる。
「この音……」
「工房からだね」
二人は工房に向かい、扉を少し開けて中の様子を見た。
「なっ!」
「あれは!」
結衣と圭は目を大きく見開いた。
今、彼らの目に映っていたのは、自分達の息子である誠也が槌を振るって赤熱化した刃を叩いていた。
カーンカーン!と音が鳴り響き、火花が飛び散る。
「誠也が……鍛冶をしている?」
「結衣さん。鍛冶を誠也に」
「教えていない」
スキル【鍛冶師】があるからといってすぐに防具や武具を作ることはできない。
ある程度の教育が必要だ。
だというのに誠也は作っている。まだ五歳児なのに。
「……圭」
「な、なに?」
「あいつに明日から色々教えるぞ」
「え!?早くないかな?」
「アレを見たらわかるだろう?私達の息子には鍛冶師の才能がある。将来は素晴らしい鍛冶師になるぞ」
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「ふぅ……完成」
顔に浮かんだ汗を腕で拭い、吐息を吐く誠也。
彼が作ったのはコボルドの爪で作った片刃の白い短剣―――《コボルド・ダガー》だ。
「これで銅の剣は父ちゃんに返しても大丈夫だな。黙って借りてきちゃったから謝らないと。……さて次はこの毛皮を防具にするか」
誠也はコボルドの毛皮で装備を作ろうとした時、工房の扉が開いた。
「誠也」
工房に入ってきたのは両親である結衣と圭だった。
誠也は滝の如く顔から汗を流す。
(まずい!かってに工房を使ったことに怒っている!?)
誠也はすぐに逃げようとした時、結衣が声を発する。
「誠也」
「は、はい!」
「その短剣……見せてくれ」
「え?あ……はい」
誠也が《コボルド・ダガー》を結衣に渡す。
「うむ……いいできだ」
《コボルド・ダガー》を目を細めて観察した結衣はそう呟いた。
まさか母親からそんな言葉が出て来るとは思わなかった誠也は目を丸くする。
(母ちゃんが……褒めてくれた)
創造結衣は鍛冶師として有名人だ。
彼女が作った武具や防具はどれも一級品で、日本中にいる多くのハンターや守護騎士が欲しがるほど。
そんな彼女が「いいできだ」と言ったのだ。
(嬉しいな……あまり母ちゃんから褒められたことなかったから)
タイムリープ前、誠也はあまり鍛冶などしなかった。
理由は両親のように凄腕の鍛冶師になれるか不安だったからだ。
自分には両親のような立派な鍛冶師になれない。
そう思っていたから両親が死ぬまで、鍛冶を誠也はしなかった。
「誠也」
「な、なに?」
「お前に……私の技術を教えようと思う」
「え!?」
まさか一流鍛冶師である母から学べるとは思わなかった誠也は驚愕する。
「もちろん無理する必要はない。お前が好きなようにしろ」
「……教えて。俺……母ちゃんや父ちゃんみたいな鍛冶師になりたい!」
タイムリープ前には言えなかった言葉を。
両親が死んでから、言いたいと思っていた言葉を。
今、誠也は言った。
「……そうか」
結衣はどこか嬉しそうに微笑んだ。
「では明日から考えよう」
「うん」
「ところで誠也」
「なに?」
「この短剣……コボルドの爪で作られているようだけど、どこで手に入れたんだ?」
「え……え~と」
目を逸らしながら、口ごもる誠也。
そんな息子を見て、結衣は目を細める。
「まさか……狩ってきたとかじゃないよな?」
「……」
誠也は黙り込む。
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