2-P2

 食べ終わるまで、わたしはニンマリとご満悦でその姿を眺めていた。すごく、愛らしい。


「そろそろ、散歩に行ってみる?」


 ムツがこの家に来て以来、まだ一度も散歩に行けていない。ペットショップから子犬で買ってきたのなら、免疫力が低いから散歩に行けない期間もある。しかし、ムツはこれだけ大きいのだから、それには当てはまらない。


 顔を上げたムツはあからさまに顔を引き攣らせていた。まるで、犬らしくない。


 わたしはその頬を思い切り引っ叩く。


「ダメだよ。むつみ。犬はそんな顔しない」


 赤く染まった頬で顔を強張らせるムツミを、わたしは冷ややかな目で見下ろす。


「ほら、ムツ。あなたは犬なんだから、ちゃんと犬らしくしなくちゃ」


 わたしが微笑みかけると、ムツミは何か言いたげに唇を震わせたけど、すぐに呑み込んで「わん」と一度吠えた。


 まだ犬っぽくないな。まあ、今回は許してあげよう。


「まあ、今日はやめとこうか。また今度。次は我儘言っちゃダメだよ」


 助かったと分かると、ムツミは部屋の隅にお座りをしてこちらを見つめる。


 この子は新堀にいぼりむつみ。わたしの幼馴染で、紛うことなく人間。


 でも、今はわたしの飼い犬。

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