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 アズキが亡くなって三日目、悲しみでご飯も喉を通らなくなったわたしを心配して、ムツミは家を訪ねて来てくれた。


 それまで世界が無味無臭で色すら失ってしまったように感じていたけれど、ムツミらしいぎこちない笑顔を見ると、少しばかり嬉しくなって色が戻ってきた気がした。


 けれど、その期待もすぐに裏切られた。


「あの、あのね、リョウカちゃんのこと、みんな心配してるよ。わ、わたしだって。その、アズキちゃんの代わりにはなれないけど、わたしはずっとリョウカちゃんの傍にいるから、えと……」


 わたしの顔色を窺いつつ、しどろもどろに言葉を探すムツミ。元々、口が達者な子ではない。むしろ、ここまで言葉を紡げたのはムツミとしては頑張ったほうだ。


 しかし、わたしはその言葉から優しさ以上に傲慢さを受け取ってしまった。


 照れからか主語を自分ではなくみんなとしていることも、死んだアズキの代わりになんて、生きている人間のムツミがなれっこないのに軽々しく言ったことも、ずっとわたしが居なくちゃ何も出来なかったくせに、わたしが落ち込んでると知るや途端に上から慰めてきたことも、全てに怒りが込み上げてきた。

そんなに代わりになりたいなら。


 わたしは黙ってムツミの腕を掴む。


「え? い、痛っ」


 事態の飲み込めないムツミに構いもせず、無理矢理に腕を引っ張って自分の部屋へと連れ込んだ。


「ど、どうしたの? リョウカちゃんっ」


 不思議そうな顔に怯えを滲ませるムツミを、わたしは押し倒す。


「ち、ちょっと、止めてよっ、ねえ、ねえってばっ」


 抵抗するムツミを抑え込みながら、わたしは捨てられずに先程まで抱きしめていたアズキの首輪をその首に巻いてやった。中型柴犬のアズキの首輪は少し窮屈そうだったけど、緩めればなんとか巻くことができた。


「アズキの代わりになってくれるんでしょ?」

「えっと、どういうこと?」


 おずおずと尋ねるムツミの頬をわたしは引っ叩いた。バチンっと弾けた音がして、ムツミが顔を背ける。久しぶりに、わたしは自分の体に力を込めた気がした。


「犬が人間の言葉を喋るなんておかしいよ」


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