第166話 神化

□ 水崎詩織


師匠せんせいが帰ってきてよかった。

モンスターだからってみんな情け容赦なく殺してリポップしちゃうけど、その度に心が疼く。


この感覚は私が師匠せんせいを慕っているからなのかな?

前世の奥さんだったと聞いて、そのせいかもしれないと思ったけど、レファには全くそんな気配がない。


師匠せんせいから骨を好きになるのはおかしいと言われたことがあるけど、そう言われても、自分でもわからない。

異世界で普通の人間になった師匠せんせいを見た時、師匠せんせいへの愛おしさが爆発していたけど、それは人間の姿だからじゃなくて、自分が異世界で昔の感覚を取り戻したからだと思う。


でも、こっちの世界に帰って来て、師匠せんせいがリッチに戻っても愛おしさは変わらなかった。


結局、先生の地球での奥さんが登場し、ロゼリアさんも師匠せんせいを慕っていることがわかった。それに対して特に思うところはない。


あれだけ優しくて強くて面白ければ当然だと思う。でも、取り合いなら負けたくない。



そう思ったのは一瞬で、どうやら問題があるみたい。

迷宮神が持っていたダンジョンの本当の管理権限を姫乃ちゃんから取り除かないといけない。


あんなに良い子が危害を加えられるなんて耐えられないから、取り除くのは当然と言った雪乃さんの発言には同意できる。

でも、その管理者権限を師匠せんせいが一人で持っちゃったら植物状態になるなんて、それは悲しい。



雪乃さんの解析の結果、雪乃さんとロゼリアさんと私は管理者権限の一部を持ってあげられるらしい。

そうすれば師匠せんせいが植物状態にならなくて済むし、ずっと師匠せんせいと一緒。


そんなの、拒否する理由がない。


師匠せんせいはなぜか神妙な顔をして


「詩織、お前はダメだ。ちゃんと人間として生きろ」


なんて言ってきたけど、お断りします。

私だって師匠せんせいの役に立ちたいし、師匠せんせいと一緒にいたいし、師匠せんせいの週2はもらいたい。前世の奥さんなんだしいいよね?


余った日はみんなで一緒にとかでもいい。


「いえ。私も一つ持ちます。だから私も週2でお願いします」

私がそう答えるのは当然よね。


雪乃さんとロゼリアさんは特別な感情は籠っていない表情でこちらを見ている。仲良くできるかな?

ちょっとドキドキするわね。



「おい!」

師匠せんせいが何を言っても聞く必要はないわ。


「私だって一緒にいたいし、役に立てるんだから、諦めて認めてください」

「ふふ。モテモテじゃない」

「むぅ……」

「きっと皇一さんなら『地球では無理だからってダンジョンの中でハーレムを作るなんてやるな!』って言うと思うわよ?」

「そして早紀さんにぶっ飛ばされるんだな」

「ふふ。でも、良かったわね。これで歩くくらいできるわよきっと」

「えっ、3つ持ってもらってそんなレベルなの?」

「やってみないとわからないけどね」

さすがこの世界での元夫婦……しっかり理解しあっているわね。距離が近くて羨ましい。

私も……前世の記憶さんに帰ってきてほしい。


「でも、ちょうどいいわね。月木が雪乃、火金が詩織さん、水土が私ね」

「わかったわ」

「はい」

「わかるな! あと詩織も同意するな!」

週2もらえるなら順番はどうでもいい。


「あとの1日は、じゃんけんとか?」

「休みだよ休み! 一人にしてくれ!」

「みんな一緒で良いのではないかと思いますが、どうですか?」

「詩織さん、大胆ね……お姉さんびっくりよ?」

「でもありですね。私たちも仲良くやりましょう」

「話を聞け!」

師匠せんせいは往生際が悪いです。諦めてください。


「子供とかできるものでしょうか? ダンジョンの中で」

「私はモンスターだし、ないと思うけど」

「そもそも俺はリッチだから何もない!」

「あっ、言ってなかったわね」

「えっ?」

雪乃さんが思い出したように私たちを見渡す。


「管理者権限を入れると神様化するからね。おめでとう。これで白き神の一員よ」

「はっ?」

「姫乃に入れておくのはお母さんとして心配だから、さっさとやるわね」


雪乃さんがそう言うと、姫乃さんから光球が浮かび上がった。


「これが管理者権限ね。では、それぞれに入れるから」

その球体は5つに分かれる。

それぞれの機能と言うやつなんだろう。



それが雪乃さんとロゼリアさんと私に1つずつ。師匠せんせいには2つ入っていく。


「ん!?」

私は覚悟する。神様になっちゃうってことは"封印された思念”様以上に体を書き換えるはず。

つまりあの激マズを超える衝撃が襲ってくるはずだから、気持ちを構えた。

 

「どうした?」

「あれ? 何か痛かった?」

けど、特に何もなかった。


雪乃さんもロゼリアさんも平然としている。私も特に何も変わったところはない。唯一……



「うぅ……」


師匠せんせいだけが苦しんでいた。


「なにしてるのよ。特に何もないでしょ? 下手な演技はやめなさい」

「ふごぉ……」

雪乃さんが腹パンを師匠せんせいに喰らわせるが、そのままお腹を押さえてへたり込んでしまった。えっと……。


「あれ?」

「雪乃さん。彼は本気で苦しんでいる気がしますが……」

「2つ入れたから?」

「そんなことはないと思うんだけど」

しかし師匠せんせいは蹲ったまま。


どこからか現れた光が師匠せんせいを包み込む。


「うぅぅぅうううぅぅうううう」

師匠せんせいはうめき声を上げ始め……あれ? これって。


「うぉぉおおぉぉおぉおおおおおお!」

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