第165話 週2

「本当ね。とんでもない力が埋まってるけど……どうしよう……」

雪乃にはわかったみたいだ。


「回収できないのか?」

「できないことはないけど、これはその後が大変ね。私一人では持ち続けるのは厳しいわ」

困った顔になる雪乃。


「あれ? 俺なら持てるって言われたけど」

「塔弥くんならまぁ、いけそうね」

どういうことだ? 雪乃よりも俺の方がいけるのか?


「神以外のものとして転生を繰り返した私はそんなにキャパ多くないのよ。それよりモンスターとして転生してて、意味不明な経歴をたどったあなたの方が適性があるみたいよ?」

「じゃあ俺に渡してくれ」

「いいの?」

「なにが?」

「あなた、二度とダンジョンから出れなくなるわよ?」

「えっ?」

えっと……今までと何か違うのか?


「その顔は理解してないわね」

「たぶん?」


雪乃が言うには、管理者権限を貰ったらダンジョンを弄ることができるらしい。それは前に管理者を気取っていたジュラーディスとかラガリアスのレベルではなく、迷宮神として弄れる。


しかし、その代償としてダンジョンとの関りが強くなる。地球はこれから迷宮との関りを薄めて10年前のような状態に戻した場合、俺はダンジョンから出れなくなるらしい。さらに……。


「ダンジョン内で死ぬこともないからきっと寂しいと思うわ。今後永遠と続く孤独。それに耐えられる?」

「う~ん……想像がつかないけど、ずっと一人なのは寂しいな」

話し相手くらいはいるかもしれない。


「モンスターである私が一緒に担うことはできないでしょうか?」

そこに口をはさんできたのはロゼリアだ。


「あなたはもともと人間でしょう? それも通常の輪廻を通らずに生み出されている。今なら元の輪廻に戻してあげることもできるけど?」

「後顧の憂いなければそれはありがたい話ですが、お兄ちゃんだけが犠牲になってというのは嫌です」

「そう……」

「ロゼリア……」

前世の聖女にそこまで言ってもらえるほど仲がよかったりはしなかったと思うけど、仲間が一緒なのは心強いな。


「ふふ。好かれているのね。まぁ私も行くから1人にはならないけど……」

「……はい」

なにを睨み合ってるんだよ。


「それなら私も……」

いや、なんで参戦してんだよ詩織。


 

「レファ、いいの? 参戦しなくて」

「なんで私がくそリッチと!?」

こそこそと何か言ってる夢乃とレファ。



「解析もしたから、一応整理するわね」

「あぁ……?」

「結論から行くと、塔弥くん1人で管理者権限を全部持つのは無理よ」

「あれ?」

「まぁ聞きなさい」

「はい」


管理者権限にはいくつかの機能がある。ダンジョン運営、ダンジョン増設、ダンジョン収縮、異世界接合、接合解除の5つだ。それぞれの機能はその名の通り。

"長"はこの5つを使っていた。ただこれだとどうやって異世界を探していたのかと言うことになるが、それは"長"自身の力でやっていたんだろうから、今後異世界接合を使うことはないだろう。


「この5つを塔弥くんに投入した場合、持っておくのが精いっぱいで人間でいうところの植物状態になるから、迷宮を動かすことはできないでしょうね」

「えぇ!?」

ちょっと待て"長"。なんてものを俺にやらせようとしてんだよ。あと姫乃は今持ってて大丈夫なのか?


「姫乃の中に入ってるだけで、姫乃が持ち主に放ってないわ」

「なるほど。ちなみにそのままにしたら?」

「この人でなし!!!!」

「うごぉ……」

気を抜いてたところに思いっきり腹パンされた。ひっ、酷い……。


「ふとしたときに権限が発動したりしたら姫乃は即死よ」

「えっ?」

それは絶対にダメだ。絶対に取り除かないといけない。早く。今すぐに!

俺は思いっきり焦るが、なぜか姫乃はニコニコとこちらを見ているだけ。両親を信頼しているんだろう。こんな良い子を危険な目に会わせたくない。

 


「だから移すのは確定。最悪あなたと私で持つけど、他の人にも手伝ってもらえたら嬉しいわね」

「はっ?」

「モンスターさん……ロゼリアさんと言うのね。あなたは"ダンジョン収縮"に適性がありそう。あと、詩織さん? あなたは"異世界接合"に適性があるわ。あなたたち2人が手伝ってくれるならありがたいわね。たぶん使うことはないから持っておいてもらえるだけでいいわ。そうしたら私が"ダンジョン増設"は持てると思うから、塔弥くんは"ダンジョン運営"と"接合解除”を持てばいいだけになる。これならそんなに負担はないと思うわ」

なるほど。持つ力を分散すればいいのか。

当然のように負担してくれる雪乃。なんの気負いもなく、躊躇もないからスルーしてしまいそうになるけど、これから一緒にいれると思うと嬉しいな。


「私はもちろん手伝います。そもそもダンジョン住まいですし」

ロゼリアは即決した。


「ありがとう。でも、部屋は分けましょうね」

「えぇ。ルールは大事です」

「もちろんね。私は週2日でいいから」

「私もそれくらいでも……」

なんか勝手に怖い話をしているような……。

 

そこから目を背けた俺は詩織を見た。

もともとモンスターでダンジョンの中にいたロゼリアはまだしも、詩織は人間だ。


身寄りはなかったと思うけど、友達はいるだろう。

それにまだ若い。


前世のことは覚えてないから、生まれてまだ20年くらいの経験しかないはずだ。

そんな子をダンジョンに封じていいのか?


いや、よくないだろ。

雪乃とロゼリアが1つずつ持ってくれたら、あとは俺でも行ける気がするしな。


「詩織、お前はダメだ。ちゃんと人間として生きろ」

「いえ。私も一つ持ちます。だから私も週2でお願いします」

「おい!」

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