第164話 本当の管理者権限

「管理権限を失ったとは?」

どういうことだ?

"長"が迷宮神だったはずだ。


いや……"長"が"長"だったころは白き神の古き場所に住んでいたと聞いたな。

そこは当然だがダンジョンではないだろう。

ダンジョンはどこから来たんだ?

誰が作ったんだ?


「もしかしてダンジョンはデバウラーが作ったのか?」

『それはない。ごくごく最近まで我がダンジョンを持っていた。そもそもあれは我をデバウラーごと葬ってくれるものを探すために作ったものだ』


曰く、ダンジョンとは神の子を成長させるための装置であり、強くなるための仕組みだそうだ。

これは"長"が語った戦いの歴史だ。


色んな世界につないでいったのは母数を増やすためで、つながった世界に利益を提供しながら探し続けた。


だがその中で、私的にその仕組みを悪用するやつらがいたが、そんなことに構っている余裕が"長"にはなかった。

自分が完全にデバウラーに喰われてしまったら、次は別の白き神、そしてつながった世界どころか、白き神が生み出し育てて来たものを全てのみ込んでしまいかねなかった。それほどまでに"長"の力をちゅうちゅうしたデバウラーが強大化してしまった。


もともと"長"は他の白き神を逃がすために囮となって捕えられた。その時から自分ごとデバウラーを消し去るものを探し始めた。"長"であればかなり長い時間自意識を保っていられると見積もっていて、上手くいけば白き神たちを逃がした上で、デバウラーを消し去ることもできると考えていた。


ただ、デバウラーは予想以上に強力だった。

"長"をちゅうちゅうすればするほど強くなり、"長"の予想を超えた。


本来、つながった世界からは戦士を供給してもらい、対価を与える関係を保っていくはずが、デバウラーが強力になると世界を飲み込んでしまった。

さらに予想より早く自身の終わりが見えてしまった。

それで焦った。

その時点で既に意識は曖昧になっていたらしい。


そんなタイミングでおかしなモンスターを見つけた。それは悪しきものが作った仕組みを乗り越えた。人とモンスターの力を使い、多くの神に注目された。


"長"はそのモンスターにかけることにした。ほぼほぼ力を使い果たしていたため、最後の悪あがきとしてデバウラーに対する抵抗を消し、一気に自らを取り込ませた。

その過程で今目の前にいる"長"の分体を作り出し、逃がした。


デバウラーは一気に"長"を飲み込み、迷宮神であった神を既に飲み込んだ、と考えたらしい。

逃げた"長"は戦女神に接触し、姫乃を攫った。


攫ったがそれは力を保存するためだった。


「それが俺の娘だ」

『なるほどな。だから懐かしく感じたのか。良い娘だった。孫だったか。なにせ我の根源が崩れていることを見逃さず、回復させてくれた』


姫乃は知らず知らずお爺ちゃんを助けたんだな。

優しすぎて泣ける。



『うむ』

「それでダンジョンの管理権限はデバウラーが持ってる? いや、違うんだってな。じゃあ誰が持ってるんだ?」

『その娘だ』

「はぁ?」

なんでだ?


『我を回復させる際に異物として取り除いてしまったようだな。あれはもともと万全の状態の我にしか使えぬものだ。弱った我には重しだった。何かはわからずとも我にとって良くないものと考えた彼女は我を回復させるために取ってしまったということだ』

「なるほど……で?」

『取り除かれたそれは娘の中に溶けて行った』

「それは大丈夫なのか? 万全な"長"が動かせるものをただの人間の姫乃が持ってて」

『ダメだろうな』

「ダメなのかよ!」

どうすればいいんだよ。

今からすぐに帰れるか? ……って、そもそもここどこだよ!?


『まぁ慌てるな。方法は1つだ』

早く言え。


『預け先を決めればいい。しっかりと行使できるものが持てば、さっきお前が言っていた地球とやらを元に戻すことも可能だろう』

「"長"が万全の状態でようやく動かせるものを?」

『そう強調せんでもいい。なんならお前でも可能だろう』

「俺?」

『あぁ。ということで行って来い』

「えぇ?」


ぶれる視界。


『"守"と考えると良いだろう。娘は理解しているし、対処もできる』





と言うことでここに来たんだが。


「お帰りなさい、師匠せんせい

「「お帰りなさい、お父さん」」

「……お帰り、塔弥くん」

「お帰りなさい、お兄ちゃん」

「「……」」

上から順番に詩織、姫乃と夢乃、雪乃、ロゼリア、フランとレファだ。


ちなみに早紀と皇ちゃんは先に日本に帰ったらしい。

いや、この島も一応日本なんだったな。



「姫乃、大丈夫か?」

「私ですか?」

きょとんとする姫乃。これは理解していないな。


「どうしたの? 姫乃になにかあったの?」

「せっかく親子水入らずなんだから、邪魔しないで」

「いや、俺もその親子の一員だよな?」

「「ふふ」」

微笑む娘たちと、ジト目の雪乃。


「どうやら"長"が持ってたダンジョンの管理権限が姫乃の中にあるらしいんだが」

「えっ?」

「それを早く言いなさいよ」

俺の言葉に驚いて自分の掌を見る姫乃。


「本当ね。とんでもない力が埋まってるけど……どうしよう……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る