第163話 長

俺が放った救世は間違いなくデバウラーを消滅させた。

自分自身も溶けて消えたが、やつの消滅だけははっきりと感じ取った。


やった。


間違いなく。


長かったかどうかはわからないけど、心にずっしりと乗っかっていた重しが取り除かれたような晴れ晴れしさで満たされている。


これで詩織やレファ、姫乃や夢乃の未来は続く。

 

俺自身や雪乃は転生体だし、俺もロゼリアもモンスターだ。

こっち側はどうなるのかはわからない。

そもそもダンジョンは維持されるのか?


『それはお前次第だ』

「ん?」

ぼんやり考えていたら渋い声が降って来た。


かつ……かつ……かつ……かつ……


そしてお爺さんが一人歩いてきた。白いローブを羽織っている。

間違いなく詩織の記憶で見た姿。


白き神の誰かだと思うんだが。


『白き神か……今ではそのような呼ばれ方をしておるのか』

「"長"とか、"守"とかって神様のことを偉い神様として崇拝している白い光を纏った神様たちは自分たちのことをそう呼んでいた」

『そうか……』

思い悩むような表情をしているお爺さん。


『いまだに伝わっていることに驚いたな』

「いまだに?」

『あぁ。果てしない時間が経過したと感じるのだ』

それは確かにそうだろうな。

10万年前のオアが昔話として語ってたもんな……。


「今は晴れ晴れとした気分か?」

『あぁ、良い気分だ。ずっと曇っておった』

気分は俺と一緒だな。取り憑かれていた本人だから、余計にそうなんだろうな。

 

「デバウラーに……神を貪る者に取り憑かれていた?」

『そうだろうな。あの黒きうねうねに取り憑かれていた』

「なんか虫みたいだ」

『実際そうだろう。寄生虫のようなものだ。そこから救ってくれたこと、感謝する。人間の戦士よ』

なんかこういう表現多いな。

はじまりの戦士とかもそうだけど、俺、どっちかというと魔法使いだと思うんだが。


『勇気をもって強きものに抗うこと。それは戦士の証だ。ゆえに我らは君のようなものを戦士と呼ぶ。我は助けられたのだ。今、我ら白き神がどの程度いるのかわからぬが、我らは君のことを讃え、"戦士"と呼ぶことだろう』

「讃えてくれるのなら受けるが……もしかして……もしかしなくても"長"?」

『そうよばれておったな。取り憑かれる前には』

うおっ……。

薄々そうかなと思っていたけど、やっぱりか。プレッシャーとかじゃないけど、目を閉じるともの凄い大きなものが隣に佇んでるように感じる。


この神様が雪乃の……"守"の大切な神様なんだよな。

2人とも生きてたと言うことは、俺はやっぱ間男ポジなんじゃ……?


『間男? なにを言っておる』

さすがに主神みたいなポジションの神様からのNTRなんてヤバいと思って現実逃避してたんだが、この反応はどういうことだ?


「えぇと、その……"守"が転生した先で俺と結婚したことがあって……」

しかし心の中は読まれるし、隠しても印象が悪いだけだろうから覚悟を決めて話した。

 

『なんと! それはめでたいの。そうだったか』

「えっ?」

めでたいの???

 

『ならば君は我の義理の息子と言うことじゃな』

「はぁ?」

どういうこと?

 

『なぜ驚く? 娘の夫は義理の息子であっているじゃろう? 人間はそのような表現はせぬのか?』

「いや、あってるけど……娘?」

"守"って"長"の娘だったの? それなら確かに想い合うのも大切にし合うのも庇い合うのも理解できるけど。

 

『そうじゃ。はねっ帰りのじゃじゃ馬娘だが、可愛い可愛い娘だぞ?』

そうだったのか。じゃじゃ馬娘も可愛い可愛い娘も、どっちも同意するけど、娘だったのか。良かった……。


『まさか泣かせるようなことはしておらぬの?』

しかし、俺が大袈裟に表情を変えていたのを訝しんだのか、凄まじいプレッシャーが突然やって来た。

 

「してない……いや、俺の方が先に死んだからその時は泣かれたかもしれないけど」

『それは仕方ないのう。人の子であれば致し方あるまい』

「その次の世界では奥さんたちがいて、なぜか転生したらみんな一緒で、しかも雪乃も存在しててカオスなんだが……」

そして気付いた。俺は転生するたびに、その……お相手的な女性がいる。なんなら今も……。

NTRではなかったけど、今度は娘と結婚したくせに他にもいっぱい女性を侍らせるクソ野郎とか言われたらどうしよう……。

 

『あっはっはっは。面白いのぅ』

俺の覚悟や恐怖はあっさり笑い飛ばされた。あれ?


『オスはすぐ群れをつくるからな。我にも7千体くらいの相手がいたが、お前は……なんじゃつまらん。せいぜい100体程度ではないか』

なんで怒られてるんだ?

それに100体?

え~っと……。

あれぇ?




『まぁよい。我は今とても気分がいい。黒きものから解放され、大事な娘のことも知れたし、その伴侶と出会えるなどとはな。黒きものに埋め尽くされている時には考えもしなかった』

途方もない時間、ずっと喰われてたんだもんな。


「無事助けられて良かった。あとは地球が元に戻ればいいんだが」

『地球……それがお前の世界か?』

「あぁ。30年くらい前に迷宮が現れて、たぶん1週間くらい前に迷宮に飲み込まれた世界だ」

『なるほど。管理権限を失った我には状況はわからぬが……』

「えっ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る