第162話 神を貪る者だけに与える救済

「くっ、ばかな……」

救世の効果はしっかりあったようだ。

3体に分かれていたやつのうち、2体は砕け散り、1体の上半身だけが残った。

 

「お前はずっと喰い続けて来ただろ? それはただ迷宮神の力じゃない。つながった全ての世界の未来を喰ってきたんだ。今この世界はみんなで俺に力を送ってくれている。お前がつなげた異世界もだ。いろんな感情があるが、一旦棚に上げて力を送ってくれてるのを感じる」


脳裏に浮かぶのはイルデグラス……そして魔族たちだ。

オアが来た時に軍団系スキルのバフが増加していたが、今はさらに杯に集まる魔力も増加している。


さらに島のダンジョンがあったと思われる場所からも光が……これも魔力だ。

  

「今だけじゃないわ。これまでの時間の中で囚われたもの全てよ」

「姫乃……やっぱり無事だったな」

「うん。お父さん」

そのダンジョン入り口から出てきたのは姫乃だった。


やはり戦女神が遭遇した白い何かは敵ではなかったんだろう。

特に傷付いている様子もない。


地球、異世界、ダンジョン……3つからの力が絶え間なく流れ込んでくる。



「ふざけるな! なぜ神でも無き者がこれほどの力を……」

「どう考えてもお前がやり過ぎたからだろうな。神に取り憑いてチューチューしてるだけなら例えばオアとかなら気にもしなそうだが、増え続けながら喰らった。当然神は抗うだろうし、俺たちだって抗うさ。今回ようやくお前を超えたんだ。果てしない時間の末に、ようやくな」

地に這い、項垂れるデバウラー。

こいつだって生きるためだったのかもしれないな。ただ増えるだけだったのに意思を持った個体まで生み出した今の状態は明らかに進化の結果だろう。1人の矮小な生命体からすると遥高みにいるものたちの生存競争に巻き込まれたってことで、言ってしまえば悲しくなるほどしょうもないな。


でも、まぁ、そんなもんだよな。規模が違うだけだ。



「では、これで終わりにしよう。ようやく終われそうだ。終わった後にダンジョンがどうなるのかとか、出来上がったつながりがどうなるのかとかはわからないが……」

「大丈夫よ。心配いらないわ。なんなら祝福もあげるからきっちりやって」

そう言いながら腹パンとかされそうで怖いとか思ったら本当に殴られそうで怖い……。


「神ではないお前がやるのが良いだろう」

「何かあってまた取り憑かれたらまずいしな」

オアとゲシャがまともなこと言っていて怖い。これ本物か?


師匠せんせいよろしくお願いします」

詩織は変わらないな。変わらないことが凄い。思いっきり前々世の奥さんが登場しちゃったけど、前世の奥さん1としてどうとか言ったら袋叩きにあいそうだな。


「早くやって。もう疲れたから寝たい」

前世の奥さん2的にはもうおねむみたいだ。寝かさないよ?


「お父さん、頑張って」

「やっちゃえ!!!」

娘たちは素直に育ってくれてお父さんは嬉しいよ。できればその後は目を背けた方がいいかもしれない。


「リッチ、頼む」

フランが"剣"を差し出してくる。断ろうかと思ったが、考え直して受け取る。


「お兄ちゃん……」

ロゼリアは見た目とは裏腹に真摯に祈ってくれている。

「私のことも思いっきり使ってね」

そう言って溶け出す……。


「塔弥くん、ファイト」

「塔ちゃん、頼むぜ」

「あっ、生きてた」

「酷いな!!!」

ごめんな皇ちゃん。俺も同じ感想を抱いた……。


:あんなに魔力とかいろんなものを貯め込んで大丈夫なんだろうか?

:大丈夫に決まってるわ。行け~リッチ様~♡

:リッチ様にしかできないぜ!

:リッチは害悪じゃなかった……

:えっ、アンチくん!?!?

:なんだと……

:通報しました

:可哀そうwwww


スマホを見る余裕がないけど、きっと相変わらず騒がしいんだろうな。

そんな日常が守れるといいな。そう思って探索者育成をやってきて、思い描いた道とは違っていたけどここに辿り着いた。


またわいわい探索とかできたらいいけどな。





描いたのは壮大なイメージだ。

目の前でぐったりしている意思を持ったデバウラーだけじゃなく、今もどこかで増殖しているやつ、ダンジョン内で隠れているやつ、無数にある全ての世界に存在する"神を喰らうもの"。その全てを消し去る、ある意味、傲慢なほどの目的を達成するための無慈悲なる消滅である救済。


膨れ上がった魔力を背景に、自己認識を改編していく。神をも喰らうデバウラーを超えなければならない。それも今この一瞬ではなく、未来永劫に渡って消し去るために、考えられる限り自己を膨張させ、高みに無理やり押し上げた。



立っている場所を錯覚する。




ただただ白き世界。

それ以外が何も認識できないほどに自らが膨張し、改めて全てを見下ろす。



 

傲慢さすら凌駕し、誰もがただ受け入れるしかないほどの圧倒的な力。



ここまでの状態になって初めて胸にあるお守りに目が行く。



ずっと守ってくれてたんだ。

そして今、俺が崩壊しないようにとどめてくれている。


"長"と"守"の力。


俺の魂に纏わりつくようにして施された飾り。


だがそこに途方もないほど深く、濃い愛が込められている。


それを左手で握りしめ、勇気を噛みしめる。


そして自らの肉体の全てすら分解して、今まで貯め込んだものを文字通り全てで放った。







"神を貪る者だけに与える救済"を。

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