第154話 分断&殲滅
その斬撃は確かに斬った。
ゲームとかアニメで見るような衝撃波みたいなものが発生してそれが直接的に迷宮神を斬った……ということではない。
振るわれた"剣"は込められたすさまじい魔力を餌に効果を発動した。そう説明した方が正しいだろう。
その効果は、神とデバウラーの分離だ。
"神白なる刃"と名付けられたスキルは、正しくその癒着を切り離した。
途端に始まる怪しい光を放つ黒い塊の増殖。
増え続けて中空で伸びていくそれは、大切な恋人と離れるのを嫌がるかのように、切ない手を伸ばす……そんなようにすら見えたが、続く力がその逢瀬を妨げる。
フランが振るわれた後の"剣"を黒い塊に向かって投げたのだ。
そして投げられた意思を持つ"剣"は進む場所を間違えたりはしない。
神とデバウラーの境を確定させるかのように、物理的な分断がなされてできた道をゆっくり歩くかのように空に向かって進んで行った。
オアとの会話からヒントを得て追加した処理であり、攻撃だ。
長年連れ添った伴侶を失ったかのようなデバウラーの悲痛な叫びが響き渡る。
なんて勝手な奴だ。
その神はお前の伴侶ではない。お前の餌でもない。
多くの世界の者たちに崇められるべき者だ。
もうお前たちの横暴を許しはしない。
『見事だ……まさかこのように美しく切り離されるとは……誰ぞ白き神の支援もあったのか……』
同時に迷宮神自身の声が聞こえてくる。
これはやったのか?
すでに俺たちは切り離されたデバウラーの対処に移っている。
「全員への魔力供給を再開します。黒い塊に攻撃してください」
夢乃が"杯"を掲げて叫ぶ。
空からの魔力の供給は続いていて、それを力を使い果たしていた探索者たちに渡す。
切り離された迷宮神は暴れることもなく、ただ静観している。
これは想定よりも良い状況だ。
これなら行ける。
切り離されたデバウラーは無限増殖かと思うくらいに増え続けていて、空を埋め尽くしそうな様相だが、"剣"が生み出した断面がまるで結果以下のように迷宮神を守っている。
ここからは俺の出番だ。フランも夢乃も探索者たちも頑張った。
"断罪"×16,777,216。
数えるのは不可能なくらい増えていると思うから、こちらも処理を自動化して倍数的に増やした魔法を撃ちまくる。
撃って撃って撃ちまくる。
フランはさっきのスキルを通常の大剣で撃ちまくり、教えたら使えた詩織とレファも"断罪"を撃ちまくる。
『ほう……』
<おあhね;あんぎえあうぉげなぇまけごいあへわいうえまね、あねんがいうぇういがへwmんふぁうぇlなういおえhふぉうあ>
その様子を眺めている迷宮神からは感嘆の声が漏れ聞こえる。
一方のデバウラーは判別不能な奇怪な叫びを発しているようだ。止まることのないそれはただのノイズでしかないが、魔法が飛び交う空間に響き渡って物凄く不快だ。
『"神雷"』
そんな中でなんと迷宮神自身もデバウラーを攻撃し始めた。案外動けているということか? 少なくとも精神的な浸食とかはなかったということか? わからないが、放たれたのは絶対にこっちに向けて撃ってほしくないレベルの凄まじい魔法攻撃だった?
それにしても"断罪"より効果的な気がするのは神の力だからか?
そんな俺たちの攻撃はデバウラーの増殖速度を上回ってやつらの数を減らしていく。
行ける。
そのまましばらく魔法を使い続け、ついに俺たちは黒い塊を跡形もなく消し去ることに成功した。
「やった……の?」
レファが呟くが、なんだよ。なんかフラグでも気になったのか?
『正直信じられんな……アレを消し去るなど……だが、事実として体は軽い。意識もクリアだ』
「長に戻ったということか?」
『長?』
「あぁ。迷宮神は、遥か昔、白き神の古き場所でデバウラーに取り込まれた白き神の"長"なんじゃないかと思っていたが、違うのか?」
『わからない……"長"? 聞き覚えはあるが……』
どういうことだ?
別の神だったということか?
なにかおかしい…‥?
いや、デバウラーは消えた。
なぜか釈然としないまでも、実際に敵はいなくなったのだから、散開していた探索者たちが戻ってくる。
なんというかこう……そうだな、達成感って言えばいいのかな?
それが薄い。
めちゃくちゃ気合を入れて全世界の力を集めて気合を入れて戦ったはずなんだけどな。
終わりはこういうあっさりしたものなのかもしれないが……。
こういうのって、死力の果てに敵を倒してさ。その中で例えば重要人物なんかは死と引き換えにしてダメージを与えたり、仲間を守ったりしてさ。それをも乗り越えて未来への希望を掴むような形で終結して大団円に移行するんじゃないのか?
もちろん物語の読みすぎなのかもしれないが。
俺なんか明らかな人間世界のイレギュラーだから、きっと一度ならず二度三度と死に戻りしながらも攻撃し続け、ボロボロになって、詩織や夢乃が泣き叫びながら応援する中で敵を倒すようなことをイメージしてたんだけどな……。
まぁ、誰も死なないに越したことはないんだが。
「ねぇ……」
「ん?」
レファも同じようなことを思っていたのか、張り詰めた表情で声をかけてくる。
「どうして空は止まったままなの?」
「やはり気付いたか。まぁ、なんのことはない、まだ君たちが目的を達していないからだな。どういうことかって? 簡単な話だ。あそこで浮いてるのは分断された一部でしかないわけだ。神の残滓ではあるからデバウラーは取り憑くだろうが、本体じゃない。だから止まらない。簡単だろ?」
「……どうして」
突然現れたそいつを見て驚いた。
一番驚いたのはレファだろうが、それを知っている詩織と俺と、たぶん皇ちゃんも驚いていた。
「どうしたんだい? まだ倒せてないって知って驚いたかい? それとも恐怖かな? そんなことを言っている場合じゃないと思うよ。どんどん切り離されている神の残滓は迷宮神の力が弱まっている証拠。つまり、ここが消えてしまうと言うことだよ? 焦りでもなんでもいいから、対処しないと」
「恭一……?」
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