第155話 意思を持った者

「この体と知り合いだったのかな? あはははは」

「恭一をどうしたのよ!?」

恭一の姿をした何かが気持ち悪い高笑いをしている様子を見て、レファが怒りを露わにして問いただす。

もしかして乗っ取られたとかか?

デバウラーが取り憑いた人間とか、むしろレアな気がするけど……。

 

「怒る必要はないよ。適当に君たちの頭を覗いてただ姿を借りただけ。驚かせてやろうと思ってちょうどよかったんだ。この姿がお気に召さないならこっちでもいいけど」

そう言いながらそいつは黒い霧に包まれたかと思ったら別の姿に変わっていた。


「肉塊……」

「あれぇ? これそんな名前だったっけ? 結構カッコいい名前で呼ばれていたから借りたのに……」

「四楓院竜司……まぁ、確かに名前だけはカッコいいな。名前だけは」

「いや、言い直さなくてもいいよ。僕には人間の美醜はわからないけど、きっとよくない形容をされてる人物だったんだね。じゃぁ……」

そう言いながらまた黒い霧に包まれて行く何か。


次に現れたのは……


えっ、これ言っていいやつ?


「ほう。恐ろしさで声も出ないかい? くっくっく。じゃあこの姿でいいや」

「にく……いや、お前は誰だ!?」

危ない。肉塊って言いそうになってしまった。恐ろしさで声が出ないんじゃなくて、笑っちまって出ないんだよ!


姿が変わってねぇじゃねぇか!


「わかってるんじゃないかな?」

「ん~……わからん。エメレージュか?」

といあえず全員の心を落ち着かせるためにすっとぼけたことを答えつつ時間を稼ぐ。


「誰だよそれ。あぁ、知識が流れて来たな。バカ王女? やだやだ。そんなのの姿になりたくないよ。ほんと、君たちの敵にはロクなのがいないね!」

明かな悪役からバカにされ忌避されるバカ王女。さすがだなバカ王女。

あと、恭一は敵じゃないと思うんだが……。

 

 

「もういいよ。僕は君たちの敵さ。正確には敵の一部だ。どうだい、驚いたかい?」

「まさか意思疎通できるやつがいるとは思ってなかったから、驚いたかと聞かれれば間違いなく驚いたな」

「そうだろうそうだろう。たぶん果てしない時間の中で僕が初だと思うよ? 意思疎通できる神を喰らうもの。そんなの支離滅裂で破綻してるだろ? 絶対に分かり合えないよって思うよね? 僕でもそう思うよ」

騒がしいやつだな。コロコロ表情を変えながら話す肉塊なんて気持ち悪いし、どうでもいいよそんなこと。


今大事なのはあれだけ力を集めて切り離して倒したつもりが、倒れてなかったってことだ。

迷宮神だと思ったのに神の残滓とか言っているし、どういうことだ……。


「悩んでるかい? そうかそうか。悩むがいいさ。それが地を這う神の子たちのできることだろう? そうして地を踏みならし、場合によっては叫び声をあげて僕たちの餌を連れてきてくれ」

「餌だと……?」

こいつが餌ということは、それは神だ。


どういうことだ?

こいつらはどこで生きてる?

てっきり迷宮神に取り憑いているものだと思っていたが、そうか……そもそもこいつらは単独で存在しうるんだったよな。


オアの話からしてもそれはそうだ。

神に取り憑くのは生まれて増殖してからだった。

どこから来たのか知らないが、こいつらは単独で存在していて今もどこかにいる。


それを消し去らないと終わらないってことだな。


『神の残滓……ふむ……確かに我を生み出した者に心当たりはある。まだいるのだろうか?』

デバウラーの声に迷宮神(?)も反応している。


「そうそう。それだ。それはどこに行った」

『どこへ……?』

ん? 待て。なぜこいつらが知らないんだ?

もしかして手を逃れたのか?

デバウラーから自力で逃れてどこかに隠れ、こいつらは残滓を喰らいながらそれを探してたってことか?


だとしたら離させたらマズい。


『うむ……』

表情を隠すことはしないらしい。考えるような呟きを発する迷宮神の残滓に喜色満面の笑みを浮かべる肉塊……を被ったデバウラー。


「思い出す必要はない」

「くっ……まぁ気付くよね。当然だ。しかしその力を待ってたと言ったら、どう思うかな?」

「どうも思いはしないさ。ただ消すだけだ。"断罪"」

「くはははははh……」

それは魔法一発で消えて行った。なんだったんだよ、気持ち悪い。




「残念。それじゃあ無理だよ。僕は消せない」

「"断罪"」

「くはははははh……だから無理だって」

ひょっこり出てきたそれにすぐさま魔法をぶつけるが、速攻でまた出てくる。


 

「キリがないな」

「その結論に至るまでに200回も繰り返すって言うのはどうなんだい?」

「うるさい、ただの時間稼ぎだ」

「あははははははhhh……」

何も考え付いてないけどな。

しかもデバウラーのくせに白き神の力が効果を発揮していない。どうやって倒すんだよこれ。


「くっくっく。僕を消すのは無理だよ?」

「うるさい」

ムカつく顔してムカつくことを言うな。


「ふむ。これは君たちが自分の世界を救うための戦いなんだろう? 凄いよね。見てたけど軍団系スキルだっけ? 無数の人をつないで力を高めるなんて、ぜひ僕にも欲しい力だ」

「なっ……」

もし軍団系スキルをこいつが使ったらヤバい。

デバウラーはすぐに増殖していく。その全てにバフとか考えたくもない。



「逃げろ夢乃!」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る