第145話 ダンジョン化
□ダンジョン協会 (湊皇一)
「あぁ~」
「会長……ついにプレッシャーでおかしくなったんですね。おいたわしや」
「違うから! おぃ、顔にタオル掛けるな!」
「あぁ、すみません。そっとしておこうかと思いまして」
「俺は正常だ!」
「平常運転でおかしなことをするのはいつものことですもんね、会長ファイト!」
登場してから去っていくまでずっと失礼まるだしな職員だな。
俺はおかしくない。
ようやく今日の仕事のめどをつけて、帰宅しようと思っただけだ。
まぁ、あの早紀のところに帰るってこと自体が頭おかしいかも……
ぐさっ……
「いてぇぇええぇぇぇぇええええ」
「失礼な空気を感じた……」
「ぎゃあぁあぁあああぁああああ」
「皇一うるさい」
口をふさがれ、無理やり回復させられる。
チラッと見えたけど、俺の腕取れてなかった?
なんで刺されたような効果音で腕が千切れるんだよ!?
怖すぎか!
「仕事終わったんだろ? 帰ろ」
「あっ、あぁ」
これは本当に早紀か?
いつも傍若無人で人のことを殴りつけながら尻に敷いて来る女。
もはや心の友と言っていい塔ちゃん曰く悪夢。
ぐさっ……
「ぎゃぁあぁああぁぁぁあああ」
「失礼な空気を感じた……もう、皇一。遊んでる場合じゃない。疲れたから帰るぞ」
ずるずるずるずる
中途半端にしか回復させてもらえず、荷物か何かのように引きずられて連れて行かれる俺を可哀そうなものを見る目で見つめてくる職員たち。
八咫烏よりも先にこいつを傷害罪で……
「なに?」
「くっ……」
さぁ帰ろう。これ以上マズいことになる前に。
帰宅して泥のように寝ようと思ったんだ。
なぜなら60時間連続勤務だったから。
全く、太平洋の島のスタンピード対策とかマジで勘弁してほしい。
結局海や空に去って行ったモンスターたちの居場所は見つけられなかったが、一応島にいたモンスターは殲滅した。……早紀が。
そしてアメリカ軍の輸送機で運んでもらって帰ってきた。
そこから事務処理の嵐。
ダンジョン協会はかなり組織化されているから、そっちのものは確認と決済が主だが、四鳳院家がクソだった。
なんで一から俺が書類作らなきゃならないんだよ。
それで自己決済とかバカだろ。そりゃあ歴代当主はやりたい放題だっただろうな。
そうこうしていたら、ランキングボードが完全に崩壊したとか言う連絡が来た。
もう二度と俺のランキングを確認できなくなったんだなと思うと、せいせいする。
ランキング命だったやつらざまぁ!!!!!!!
と思ったのも束の間。
ランキングボードの上にいた龍がどうなったのかなと思って映像を眺めていたら、すぅっと消えた後、不思議な光があたりを照らしたと思ったら、前より遥かに巨大な龍が出現しやがった。
そいつは首を大きく振って天を眺めたかと思うと、眼下に向かって凄まじいブレスを放った。
それはまるで水爆実験みたいな爆発を巻き起こした。
これまで太平洋の龍が破壊行為を行うことなんかなかった。
むしろたまにちょこちょこ歩いたり羽をバサバサするだけで、ぱっと見怖いもののこの世界に現れたダンジョンを象徴するマスコットみたいに思ってた。
それが一瞬にして変わってしまった。
爆発による衝撃が晴れた後、さっきまで俺たちがモンスターの殲滅を行っていた島は跡形もなく消えていた。
にもかかわらず、その島は再び地響きを立てながらせり上がって来た。
島の再生とかどういう力なんだよ。
俺たちはその光景を唖然としながら見守るしかなかった。
それはどの国の探索者も、ダンジョン協会も、政府も一緒だっただろう。
自分たちの無力を思い知るかのような、凄まじい力を見せつけられた。
なにせ軽々しく吐き出した攻撃が核……それも水爆のような威力。
その一撃は俺たちの心を折りに来たのかとすら思った。
しかし、それだけでは終わらなかった。
その一撃の後、本当の意味で世界は変わってしまった。
ダンジョンが現れて30年と少し。
今までのことがお遊びに感じられるほどの変化。
何が起こったかと言うと……
「ファイヤーストライク!!!」
「構え! 打て!!!!!」
バンバンバンバンバンバン!!!!!!!
グギャァ!!!
地上にモンスターが現れたんだ。
これまでのようにスタンピードで出てきたわけじゃない。
地上でモンスターがポップし始めた。
応戦する探索者や警察たち。
今更ながら世界は本当に変わってしまった。
空が固まった時に覚悟しておくべきだったんだ。
地上もダンジョンになったことを。
世界は恐怖に包まれた。
森や川から這い上がっていくモンスター。
なんならそこらへんの道端からもモンスターが出てくることがある。
まるで野生動物や虫かのように。
日本の政府はすぐに動いた。
警察に加えて自衛隊、探索者育成機関に所属する者たちは緊急出動だ。
当然、ダンジョン協会もだし、探索者たちにも協力依頼がなされた。
みな、戦った。
そうしないと自分たちの町が壊され、大事なものが傷つけられる。
幸い、ポップするモンスターの数はそんなに多くなかった。
今は多少の安定を取り戻し、交代で警戒し、ポップしたら倒すことができている。
ようやく休めそうだ……。
「まだ?」
「はい、ただいま」
俺は悪夢でもいいから見ていたいのに、目の前の悪夢は俺にご飯を作らせてるんだ、この悪魔め!
ちょっとは料理覚えろよ!?
さすがにフライパンを振ってる俺が不穏なことを考えたからと言って攻撃はしてこなかった。
だが、睨まれる。
「どうなるんだろうな……」
「それを考えるのは明日。今は食べて寝る」
なんとか早紀に飯を与えた後、そのままキッチンで寝てしまった。
とりあえず休めそうだ……。
ピコーン
スマホの音で目覚めた。普段スマホは無視してるが、心の友からのメッセージだけは音が鳴る。さて、反転攻勢だな。俺も起きないと。
体を起こしたらそこはベッドで、隣に早紀が寝ていた。
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