第142話 情報収集
□異世界 (リッチ/間野塔弥/ヴェルト)
なんて言うか気軽に行き来してるけど、ここはまたあの世界なんだろうか?
光を抜けた場所であたりを見渡しているが、見覚えがあるような無いような……。
期待していたのはオアがまだこの世界にいて、迎え入れてくれることだ。
だからオアのいた洞窟を探そうと思って空に上がる。
地形が見えるくらいの高さまで登り、記憶にある地図を頼りに飛んで行く。
結論から言うと、洞窟はなかった。
いや、ないんだと思う。
なぜはっきり言えないかと言うと、国が出来上がっていてそのまま飛んでいくわけにはいかなかったからだ。
明かに文明の跡がある。
街や集落のようなもの、砦や城壁、それに街道。
これは間違いなく文明だ。
だが、見える生命体が人ではなく、魔族だった。
だから、このまま人の姿で飛んでいくのが憚られた。
この時代に人と魔族がどういう関係かわからないからだ。
それで俺は魔族に化け、しれっと街に入った。
この世界の状況を知らないと探り様がないしな。
「ん? 見ない顔だな。旅の者か?」
「あぁ。宛てのない旅の途中だ。入れるか?」
「その石に手を当てて魔力を放て」
街の入り口では審査のようなものがあるらしい。
よくわからないがとりあえず言われた通りにする。
何万年も昔にこんな魔道具があったとは知らなかった。
その石は俺の魔力を吸収し、一瞬虹色に輝き、元に戻った。
「ふむ。問題ない。通っていいぞ」
「ありがとう」
不思議だけど、この世界の常識だった場合に尋ねるのはおかしいから、そのまま中に入る。
その後、この国の中心だと言う街までやってきた。
そこはあの洞窟があった場所のすぐ近くだった。
どうやらファナと転生神様は結婚して子孫を増やしたらしい。
その子孫たちがここに集落をつくり、やがてそれが発展していって国になったんだと。
旅芸人や吟遊詩人からの話を聞いていたら、あっさりと情報は入って来た。
ただ、1つ問題があった。
まぁ、たいしたことはないかもしれないが、ここはファナたちが生きた時代から数えて約3万年後らしい。
なんでそんなにズレたのかはわからないが、気にせず彷徨うしかないし、気にしなくていいよな?
そう言えば光に入る前に説明神様が何か言ってた気がするけど、そもそも俺には自力であそこに帰る術がないから彷徨うしかない。
帰るときになればこの前みたいにペガサス? が来るだろう。
そう言えば、あれはペガサスじゃなくて、ユニコーンでもなくて、なんか不思議な生き物らしい。
そんなことを考えながらこっそり城に忍び込む元勇者。
このまままさかの魔王vs勇者戦が始まることはないから安心して欲しい。
今の魔王も女王らしい。
どこにいるのかな~、話聞けるかな~って思いながら、姿は消し、気配も消し、魔力反応も消して歩いて行った結果、玉座の間に出た。
「ようこそ、始まりの戦士殿」
「……驚いた。俺が知覚できるのか?」
可愛い女の子だったら驚かせてやろうなんてみじんも考えていない真面目な表情で入って行ってよかった。
どう考えてもただの不審者だがな。
「知覚はできるとも。祖先よりあなた様の魔力紋は覚えさせられている。この世界に現れた瞬間に分かったし、近付いて来られるのに気付いたので待っておりました」
「そうだったのか……」
まずい……いつもの流れか?
また女の敵とか言われるのはそろそろ勘弁してほしいんだが。
「逆に警戒させてしまったでしょうか。あなたを害したりするつもりはありません。そもそも無理でしょう」
「それは考えてないが、何か伝わっているのか?」
玉座に腰を掛けたままだが頭を下げられた。
きわどい衣装が彼女のわがままボディを絶賛主張中なのは、もう少し控えてもらっていいんだが。
あと、一定の敬意を持たれているのは、デバウラーとの戦いとかが伝わっているのかな?
「ふむ。女好きと伺っていたが、好みではなかったでしょうかな?」
「あのクソ女……」
「失礼。だが、高き神をクソ女と称するのはご勘弁を」
「高き神?」
どういうことだ?
てっきりファナが何か吹き込んでたのかと思ったが……。
「オア神のことですが……伝承に誤りでもあったでしょうか?」
「あぁ……なるほど。そういうことか。オアがいるのか?」
オアなら言いそうだな。っていうか、言ってたかもしれないが、あれはあいつが悪いだろ?
「残念ながらオア神は去って行かれました」
「そうだったのか。そう言えば1万年もすればゲシャが復活するとか言ってたから、2人してどっか行ったのかな? あと、乱暴な言葉を使って悪かったが、思い浮かべていたのはファナだな」
気配を探ってもオアもゲシャもいないから、この世界から去ったんだろうな。
「ゲシャ神というのはオア神の喧嘩友達のことですな。仰る通り復活したのですが、殴り合いながら出現した時空の狭間に消えて行ったと聞いております」
「なにやってんだよあいつらは……」
困ったような表情で話す魔王だが、きっと気持ちは一緒だ。あの2柱はバカなんだな。
「あとファナ様ははじまりの魔王様ですね。あなた様とともに神を貪る者と戦ったと言う伝承と、見ていただけだったという伝承と、あなた様の下僕だったという伝承がありますが……」
「なんでだよ。ちゃんと戦ったから。一応な」
「そうでしたか。それではきちんと記録しておきます」
「戦ったっていうのが本人談で、見ていただけってのが説明神様談で、下僕ってのはオアが面白がって言ってそうだな」
状況が脳裏に浮かぶ。
終始いじられてそうで、ちょっと可愛そうだな。
「はじまりの魔王様からは、神を貪る者を倒し神を救ったこと、元の世界に戻ったがいつか再び訪れること、その際には可能な限りの支援を行うことが申し伝えられています」
「想定していたのは今の時代じゃない気がするけど、ありがたいな」
「違ったのですか?」
「俺はもともとこの世界で、たぶん今から7万年後とかに生まれるんだ。その話はしていたから、きっと」
「なんと。この世界の方なのか。その強大な魔力量で? しかも、魔族ではないと聞いているが……ふむ……」
なんとなく、変な気配を感じるんだけど、これは気のせいってことで良いよな?
と、無理やり意識の外に押し出し、それから俺たちは情報交換を進めた。
今の魔王の名はレスフィーネというらしい。
なかなかの美人さんだが夫がいるということで、むしろ安心した。
あの"剣"の話を聞いてみたが、どうやら知らないようだった。
えっと、どこに行ったんだ???
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